表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/9

第4話 大会開始

 大会当日。

 王都フラーヴェンは、朝から騒がしかった。


 北城門に隣接する広大な闘技場には、人が集まり続けている。


 冒険者。

 商人。

 貴族。

 学生。


 皆の目的は一つ。

 民官激突大魔術大会。

 王立魔術学園と民営魔術学院の対抗戦。


 年に一度の魔術イベントだ。

 今年は、例年以上に観客が多い。


 理由は簡単。

 王学の『黄金世代』が出場するからだ。


「すごい人だね……」

 ラウジーが小声で言った。


 民学の控室の窓から、観客席が見える。

 満員だ。


 サジェンヌが、ウサギのララちゃん(ぬいぐるみ)をきゅっと抱く。

「ララちゃん、怖いね」

 ぬいぐるみが、こくこく頷いた。


 ヴェキシムは剣を磨いている。

「燃えてきた」


 その横で……。

 ペルナは椅子に座って、寝ていた。


「すぴー」


 学院長が額を押さえる。

「起きろ」


「むにゃあ……あと、五分」

「もう開会式だ」


 ペルナはゆっくり目を開け、ジト目で学院長を見る。


「早い」

「朝だからな」

「帰りたい」


 学院長は無視した。


「出番だ」



◇◇◇


 控室の生徒らを連れ出しながら、民学学院長は大会に先立って挨拶した、王学学院長の話を反芻していた。


「民学さん、今年はペルナ嬢が出場されるとか。素晴らしいですね」


王学の学院長は皮肉めいた口調で言った。

ふと民学学院長は訊く。


「王学さん、なんで今まで、彼女を出場させなかった?」


王学学院長は、唇の端を歪める。


「そんなこと、分かり切っているでしょう?

危ないから。それだけですよ」



◇◇◇



 巨大な円形の競技場の中央に、二つのチームが並ぶ。

 観客席から歓声が上がる。


 実況の声が、会場全体に響く。魔道具の拡声器を使っているようだ。


「さあ始まりました! 第四十七回、民官激突大魔術大会!」


 歓声が爆発する。


「まずは王立魔術学園チーム!」


 王学の五人が歩く。全員、王学の金文字が入った、黒いローブを纏っている。

 大きな歓声と黄色い悲鳴。


 先頭は、アルディオ・ヴァルセイン。


 金髪の天才魔術師。

 雷の魔術を操る男。


 続いて、炎の魔女レイティアと氷結の令嬢ミルティナ。

 結界術師フェルダ。


 そして最後に登場するのは、銀髪の青年。


 ロイゼン・カーディル。


 観客がざわつく。

「王学次席!」

「今年は最強!」


 実況が叫ぶ。


「続いて、民営魔術学院チーム!」


 歓声はやや小さい。拍手も疎ら。


 


 ラウジーが緊張している。

 サジェンヌがぬいぐるみを握る。

 ヴェキシムが胸を張る。


 そして最後に。

 ペルナが歩く。

 欠伸をしながら。


 観客がざわつく。


「何あの子?」


「眠そう」

「やる気あるの?」


 実況が言う。


「今年の民学代表は……かなり、個性的なメンバーです!」


 ペルナは思う。

 うるさい。

 まだ眠い。もうちょっと眠りたい。


 ふと。

 視線を感じた。

 ペルナは顔を上げる。


 向こう側。

 王学の列。


 ロイゼンが見ていた。

 二人の視線が合う。


 ほんの数秒。


 ロイゼンの目が細くなる。

 ペルナは軽く、手を振った。


「久しぶり」


 ロイゼンの眉がぴくりと動く。

 レイティアが笑う。


「彼女って、もしかして」


 ロイゼンは短く答えた。

 不機嫌さを隠さずに。


「昔の知り合いだ」


 実況が声を張り上げる。


「第一競技! 魔術戦闘!」


 中央に魔法陣が広がる。


 巨大なフィールド上には、各種の障害物や岩の柱、水場が用意されている。

 フィールド全体に幻影魔術が施され、森の中の雰囲気を醸し出している。



 実況が説明する。


「ルールは簡単! 相手チームを全員戦闘不能にするか、降参させれば勝利!」


 観客が沸く。応援の声が飛ぶ。

 九割以上が王学推しである。


「王学対民学! 第一戦!」


 審判が手を上げる。


「開始!」


 鐘が鳴った。

 と同時だった。


 会場を裂くような雷が落ちた。


 ドォン!


 アルディオの魔術だ。

 ペルナたちの足元が爆発する。


 ラウジーが叫ぶ。


「うわ!」


 ペルナが欠伸をしながら言う。

「散開」


 四人が動く。


 ヴェキシムは前へ。

 ラウジーは後ろへ。

 サジェンヌは中央。


 ペルナは――岩柱の上に座った。

 しかも胡坐座りだ。


 観客がざわつく。


「座った!?」


 実況が叫ぶ。


「民学のペルナ選手、動きません!」


 ロイゼンが言う。

「やはり変わらないな」


 レイティアが笑う。

「舐めてるね」


 アルディオが手を上げる。

「落とす」


 雷が横へと走る。

 ペルナに向かって一直線の雷光。


 その瞬間、水の壁が現れた。


 バシャァ!

 水しぶきが人の背よりも高く上がる。

 雷が弾かれる。


 アルディオが驚く。

「水魔術だと?」


 それはラウジーの特訓の成果だ。

 彼は手を震わせながらも、巨大な水の盾を作っている。


 ペルナが言う。

「いいよ」


 ラウジーは叫ぶ。

「え!?」


「そのまま」

 ペルナは岩の上で頬杖をつく。


「支援だ、サジェ」


 サジェンヌが頷く。


「ララちゃん」


 ウサギのぬいぐるみが飛んだ。

 空中高く。

 飛んで跳んで……。

 そして――

 分裂した。


 観客がざわつく。


 ウサギのぬいぐるみが十体。

 さらに二十体。

 さらに三十体。


 実況が叫ぶ。


「増えた!? 会場中にウサギがたくさん!」


 サジェンヌがニコッと笑う。


「行って」


 ウサギ軍団が、王学陣地に突撃する。

 炎の魔女レイティアが、ウサギ軍団に赤い火を放つ。


 中規模の爆発で、ぬいぐるみが吹き飛ぶ。


 だが、すぐに復活する。

 舌打ちするレイティア。

「人形魔術か!」


 民学の魔法剣士(希望者)ヴェキシムが叫ぶ。


「今だ!」


 剣に魔力を込める。

 刃が炎のように光る。


「はあああ!」


 剣を構えて、ヴェキシムは突撃して行く。


 対してアルディオは雷を撃つ。


 だがラウジーの水の壁は、雷を防ぐ。


 ペルナは岩の上で呟く。

 いまだ座っている。


「いい感じ」


 ロイゼンはその様子を見ていた。

 そして気づく。


 ペルナがまだ、一度も魔術を使っていない。


「……何をしているのだ、ペルナは」


 ロイゼンの言葉が届いたのか、ペルナが立った。

 猫のように伸びをする。


「そろそろ、体が温まったかな」


 観客席が静まる。

 ペルナが指を上げた。

 空気が歪む。

 ロイゼンの顔色が変わる。


「まずい」


 次の瞬間。

 フィールド全体の重力が、変わった。


 ドン!


 王学の四人が膝をつく。

 アルディオが叫ぶ。


「重力魔術!?」


 ペルナは微笑む。猫の笑顔。


「これがネコマタって呼ばれる理由かな」


 ロイゼンが呟く。

「やはりお前か」


 ペルナは言う。

「私、本気出すと」


 魔法陣が空に広がる。

 巨大な多重陣。

 観客が息を呑む。


「化けるのよ」


 重力がさらに増した。

 王学チームが動けない。

 ヴェキシムが剣を構える。


「今だ!」


 ラウジーが水を集める。

 サジェンヌのウサギ軍団が包囲する。


 ロイゼンは歯を食いしばった。

 そして、笑った。


「面白い」


 アルディオの雷が爆発する。

 王学の魔力が一斉に解放された。

 大会の空気が震える。


 実況が叫ぶ。


「激突! 王学対民学!」

「勝つのはどっちだ!?」


 ペルナは楽しそうに笑う。


「さあ、遊ぼうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ