第2話 民学最強チーム?
「まずはルール説明からだ」
学院長は満足そうに椅子へ腰掛けると、机の引き出しから一枚の羊皮紙を取り出した。
ペルナたちは机の前に並んで立っている。
四人とも、反応はそれぞれだ。
ラウジーは緊張で背筋を固めている。
サジェンヌはウサギのララちゃん(ぬいぐるみ)を撫でている。
ヴェキシムは腰の剣に語りかけている。
そしてペルナは、ぼ――っとしながら、窓の外を見ていた。
「聞いているかね、ペルナ」
「聞いてます」
まったく聞いていない。
学院長は小さく咳払いをした。
「さて大会の正式名称は『マルティス王国王立魔術学園並びに民営魔術学園の魔術交流会』だが、長いので、民官激突大魔術大会と皆呼んでおる。すなわち、王学と、我ら民学が戦う大会だ」
ヴェキシムの目が赤く光った。
「戦う……!」
「いや、殺し合いではない」
学院長は即座に訂正した。
「魔術競技だ」
ペルナは窓から視線を戻す。
「競技?」
「そうだ」
学院長は羊皮紙を広げた。
そこには図が描かれている。
円形の大きな闘技場に、いくつかの魔術陣。
ペルナもチラ見した。
学院長は話を続ける。
「大会は三種目ある」
魔術戦闘
魔術障害突破
魔力制御競技
ラウジーが小さく手を挙げた。
「え、えっと……」
「なんだね」
「僕たち四人だけなんですか?」
学院長は頷く。
「王学は五人チームだが、我ら民学は、精鋭四人のチームだ」
ペルナは眉をひそめた。
「人数不利ですね」
「そうだな」
学院長は平然と言う。
「だから毎回負けている」
空気が凍った。
サジェンヌがぬいぐるみに囁く。
「ララちゃん……負けてるんだって……」
ヴェキシムが拳を握る。
「今年は違う!」
学院長は笑った。
「その通りだ、諸君! 今年は君たちがいる」
ペルナは腕を組む。
「勝率は?」
「ほぼゼロ」
「帰ります」
ペルナが踵を返す。
「待て待て待て!」
学院長が慌てて止める。
「報酬を思い出すんだ!」
王立魔術研究所。
ペルナの足が止まった。
「……続けてください」
学院長はほっとした顔をした。
「王学は毎回、選りすぐりの生徒を出してくる。しかも、特に今年は強い。王学『黄金世代』と呼ばれておる」
その言葉に、ペルナの目が細くなる。
黄金世代。
その呼び名には覚えがある。
「代表は五人」
学院長は羊皮紙をめくった。
そこには、王学から出場する面々の名前が並んでいる。
一人目。
「王学主席」
「アルディオ・ヴァルセイン」
ラウジーが息を呑む。
「アルディオは、帝国貴族の血を引く天才魔術師と謳われており、雷属性の上位魔術を使う」
ヴェキシムが呟く。
「強そうだ……」
二人目。
「炎の魔女、レイティア・グラント。火炎魔術の遣い手。」
三人目。
「氷結の令嬢、ミルティナ・クローデル」
四人目。
「結界術師、フェルダ・ルーグ」
そして――。
学院長は一瞬言葉を止めた。
「最後の一人」
ペルナには、分かっていた。
学院長が名前を読む。
「ロイゼン・カーディル」
瞬間、ペルナの目が光を帯びる。完全覚醒状態になったようだ。
サジェンヌが聞く。
「知ってる人?」
ペルナは肩をすくめる。
「たぶん」
学院長が言う。
「ロイゼンは王学の次席で、魔力量が学生としては異常」
ヴェキシムが興奮する。
「つまり強敵!」
「そうだ」
学院長は頷く。
「まあ、蛇足になるのだが……」
学院長はペルナを見る。
「ペルナ君の、元婚約者だ」
ラウジーが固まった。
サジェンヌが目を丸くして、ララちゃんを抱きしめる。
ヴェキシムは言う。
「すげえ、ドラマだな!」
ペルナはため息をついた。
「やっぱり、そうきたか」
学院長は興味深そうに言う。
「聞いているぞ。王学で婚約破棄されたと。何かのパーティで、激しく盛大に」
ペルナは机に肘をつく。
「そんな大した話じゃないですよ。彼が騒いだだけです」
ラウジーが恐る恐る聞く。
「えっと……その噂、知ってます。本当に虐めたんですか? ロイゼン、さんと仲良くしていた女性を」
ペルナは真顔で答える。
「してない。そんなことする時間があったら、寝る。迷わず」
サジェンヌが頷く。ララちゃんも頷く。
学院長は髭を撫でた。
「だがペルナ、君は王学で有名だったそうだな。怪物、『ネコマタ』と」
ラウジーが驚く。
「ネコマタ?」
ヴェキシムが言う。
「強そう!」
ペルナは頭を抱えた。
「だからあ、呼ばれてませんって」
学院長は笑う。
「王学からの調書にも書いてあったぞ。二つ名は『ネコマタ』」
ペルナは頭を落とす。
「そう呼ばれていた理由は三つだそうだ」
学院長は、指を一本立てる。
「一つ」
「どこでも寝る」
ペルナは否定できない。
二つ目。
「気まぐれ」
ペルナは唇を尖らせる。
三つ目。
学院長はニヤリと笑う。
「怒らせると、化け物」
ペルナはぼそっと言う。
「誰が言ったんですか、それ」
学院長は言う。
「王学の教師。大層怖がられていたぞ」
ペルナは天井を見上げた。
「あの人たち、すぐ盛るからなあ」
ヴェキシムが目を輝かせる。
「つまりペルナは強い!」
「まあまあ、かな」
ペルナは肩を竦める。
「ネコマタ!」
「やめて」
ペルナは言う。
「まあ、猫は好きだけど」
学院長は満足そうに頷く。
「さて君たち。大会まで三週間だ。今日から特訓するとしよう
ラウジーが青ざめる。
「え、特訓……。って今日から?」
「もちろんだ」
学院長は杖を鳴らす。
「君たちは、今日からチームだ」
ペルナは三人を見る。
ラウジー。
サジェンヌ。
ヴェキシム。
正直、まとまりはない。
だが。
悪くない気もする。
「まずは実力を見る」
学院長は言う。
「模擬戦だ」
その瞬間。
ヴェキシムが剣を抜いた。
「来い!」
学院長は言う。
「相手は」
杖を振る。
床に魔法陣が光る。
次の瞬間、石の巨人が現れた。
高さは三メートルほど。ゴーレムだ。
ラウジーが叫ぶ。
「えええ!?」
学院長は平然と言う。
「安心しろ、訓練用だ」
ゴーレムが拳を振り上げる。
ヴェキシムが叫ぶ。
「安心できない!」
ペルナは欠伸をした。
「面倒くさい」
言い終える間もなく、ペルナは指を鳴らす。
空気が揺れた。
次の瞬間。
ゴーレムの足元に魔術陣が現れる。
「重力固定」
ズゴンという音を残して、ゴーレムが床に沈んだ。
ピクリとも動かない。
学院長が目を丸くする。
「ほう」
ペルナは言う。
「お、終わり?」
ラウジーが呟く。
「一瞬……」
サジェンヌがぬいぐるみに話しかける。
「ララちゃん……強いね……ペルナ」
ヴェキシムが目を輝かせる。
「ネコマタだ」
「だからやめて」
ペルナは肩を回す。
「眠い。もう帰っていいかな」
学院長は笑う。久しぶりに屈託のない笑顔だった。
そして四人に告げる。
「王学を倒すぞ」
ペルナは窓の外に視線を向ける。
遠くに王都の城壁が見えた。
その向こうにある、王学。
そして。
敵チームの中には、アレ。
ロイゼン。
わざわざ人前で、婚約破棄宣言をしてきた男。
ペルナは小さく笑った。
目が細くなり、猫のような顔になる。
「まあ、気晴らしついでだ」
「ちょっとだけ」
ペルナは背伸びをする。
「驚かせて、あげようかな」
これより三週間後。
王学と民学の戦いが始まる。
お読みくださいまして、ありがとうございました!!




