新総理、誕生
「決戦投票の結果、犬山健くん合計103票、従野順次くん、306票であります。よって、従野順次くんをもって当選者と決しました!」
会場に割れんばかりの拍手が響き渡る。そして、当選した男、従野順次が立ち上がり周りに礼をする。その表情は雨上がりの空のように晴れやかだった。しかし、その顔には決意のようなものも見て取れた。
2026年、日本の第一党である「民民党」で新総裁が誕生した。それがこの、従野順次、41歳である。第一党の党首、それはこの国の総理大臣になったことを意味する。そして、41歳で総理に就任するのは史上最年少であり、伊藤博文の44歳という記録を更新することになった。
従野順次は国民から非常に好かれていた議員であった。精悍な顔立ち、さわやかな笑顔、キッチリと決まった身だしなみ、そして若者から支持される公約、好かれるであろう全ての要素を兼ね備えていた。
また、党内での評判も上々だった。人付き合いがよく、物腰柔らかで、年配者へのリスペクトも欠かさない。一言で言うならば、世界一の世渡り上手、といったところだろうか。この総裁選で当選したのも納得の男である。
しばらくして、就任記念演説の準備が整った。従野は軽やかな足取りで壇上に上がる。多くの記者と議員が、そして多くの国民が中継を見守る中、その演説は始まった。そして、この演説は後に始まるある伝説の幕開けとなった。全編はこの場では割愛するが、伝説の幕開けなった箇所のみここでご紹介しよう。
「私が目指す日本は、国民のみなさま、全ての願いが平等に叶う国です!そこで、この私、従野順次は今ここに誓います!国民のみなさまの政治に対する願いは、できるだけ全て叶えると!本日より、この民民党のホームページ、及び各地の事務所にご意見箱を設置します!その中から可能な限り政治に反映し、実現していきます!そして、私は今日から、国民の皆様にとっての『従順総理』となることを、ここに宣言いたします!」
後に「従順総理宣言」と呼ばれたこの演説は、瞬く間に世界中を駆け回った。未だかつて、こんな国家元首がいただろうか。国民の願いを全て叶えるという無謀な宣言。懐疑的に思う国民も多かった。だが、彼はやり遂げることになる。
だが、この時、国民は思いもしなかった。この従順総理が、この国に幸福だけでなく混乱をも招くことになると───
これは従順総理と呼ばれた男、従野順次が行った政策を、徹底した取材のもとに政治家と国民の目線から描いたドキュメンタリーである。
政治モキュメンタリーですね。
これからよろしくお願いいたします。