医者会議、銀河の崩壊、あとハンター
ここは白雲星に存在する病院「星彩外科」……その会議室では、三人の医者が話し合う直前だった。
「星彩……お前は白雲の占い師に、ここ数日のうちに起こる出来事を聞いたそうだな」
鋭く白い瞳を持った清潔感のある白衣を着た男が、自分の目の前に座っている女性……星彩に問いかけ、会議は始まった。
「えっ!今の話は本当ですか?!星彩先輩!」
「アヤメ、もう少し静かに喋ってちょうだい。そして蒼鷲、どうしてそんな事を私に聞くのかしら?」
アヤメと呼ばれた医者は、虹色の瞳とボブカットに整えた黒髪を持ち、二人と比べて少し小柄な女性だ。どうやら蒼鷲の発言に驚きを隠せなかったらしい。
「たまたま占いの館に立ち寄ったら、そこの館主が教えてくれたんだ」
(あのクソ館主……!)
「くれぐれも内密にに」と言っていたが、あっさり蒼鷲に情報を漏らした館主に少し憎悪を抱いた、長い黒髪と蒼い瞳の女性は星彩。
「だいたい予想はしていたがな」
若くして院長に抜擢され、それなりの実績を積んだ彼女と言えど、未来で起きる出来事は無視できない内容らしい。そしてそれさえも予想していた蒼鷲に、星彩が元々蒼鷲に対して持っていたライバル心が更に増した。
「さあ、聞いた内容を教えてもらおうか?」
しかし、星彩は黙ったままだ。
(ど……どうしよう……星彩先輩は黙っちゃったし、蒼鷲先輩は怒らせるとおっかないし……)
慣れない状況のためか、アヤメは頭を抱えてしまっていた。
「別に良いじゃない、気になることがあっただけだし」
「ほう……」
穏やかな性格の蒼鷲が聖母のような微笑みを見せているのは、本気でキレている時だ。
(ま……まずいです……このままじゃ、お二人の仲が更に悪くなってしまいます……ここは私が腹を括って……)
「あの……」
「…………なんだ」
「ひい……!」
「アヤメ、落ち着いて話して良いわよ」
「はい……蒼鷲先輩は先ほど、星彩先輩が立ち寄った館に『たまたま立ち寄った』とおっしゃっていましたが、どうして蒼鷲先輩も立ち寄ったのですか……?」
「それもそうね……蒼鷲、どうしてか教えてくれるかしら?」
アヤメに核心を突かれ、さらに星彩に追い打ちをかけられた蒼鷲は、諦めたように話し始めた。
「っ……はあ……分かった、教えてやるよ。俺も気になったんだ、A銀河が突然崩壊したことにな」
「ふ~ん……?」
「な、なんだ……?」
「ついでにこれも聞いたんじゃないかしら……?【サマヨイビト】達の事を」
「サ……【サマヨイビト】さん達ですか」
「相変わらずお前は勘が鋭いな……」
蒼鷲は、星彩と自分が聞いた内容を事細かに説明した。
占い師の話によると……
『銀河の一つが崩壊する時、その原因を掴み銀河の崩壊を防ぐ者達が再び訪れる。其の名は【サマヨイビト】』
という事らしい
「なるほどねえ、結局蒼鷲も気になってるじゃないの」
「確かに……A銀河が崩壊した原因は、先日開かれた代表評議会でも結論は出なかったんでしたよね?」
「ああ、A銀河のの統治神であるイリシアン・ドールも評議会には出席しなかったそうだからな。神をも崩壊させるなにか……」
「あの……私多分それ、心当たりがあるかもです……」
「言ってみろ」
「はい…恐らく、A銀河を飲み込んだ元凶は【─ ─ ─ ─ ─・─ ─ ─ ─ ─】かもです」
………………会議室に、しばらくの緊張と沈黙が襲った。
「まさかとは思うが、本当に【─ ─ ─ ─ ─・─ ─ ─ ─ ─】なのか?」
「あくまで推測ですが……歴史図書館で古代の文献を漁っていたら【─ ─ ─ ─ ─・─ ─ ─ ─ ─】について書かれてあった古書が見つかったんです」
「もしそれが本当なら全銀河を巻き込んだ大戦になりかねないわね、今の内に医療道具や薬の確認をしてくるわ」
「じゃ、この会議はこれで終了だ」
「アヤメは私と来てくれる?」
「了解しました」
三人はそれぞれのやるべき仕事に、戻って行った。
「う~ん、どれにしようかしら……」
エルミアは雑貨店で、自分の実験に使えそうな薬草や鉱石を一つ一つ品定めしていた。
「お客様は科学者なんですか?」
エルミアの集中している様子が気になったのか、店員らしき女性が話しかけてきた。
「あら、よく分かったわね」
「ここにはよく科学者の皆様がいらっしゃいます。そういうお客様におすすめの商品をお渡しするのも、我々の役目なんですよ」
「あら、そうなの。それじゃあ……ちょっと手伝ってくれるかしら?」
「ええ、どうぞ」
「この『ウツクショウキノコ』ってどれが新鮮か分かるかしら?」
「ええ、それならこちらが……」
女性が教えようとした瞬間、エルミアは大剣を向けた。
エルミアは武器などは携えていなかった。それなのになぜ大剣が出てきたというと……エルミアのように宇宙船に乗っている者達は、宇宙船の専属科学者であるキャディに【格納庫エクスフェリオン】という発明品を持たせられる。
ちなみにこれがどんな物かというと…………
・キャディが「無から空間を折りたたむ」というぶっ飛んだ理論である「超次元構造学」を基盤に発明した、腕輪型の個人用多次元格納装置
となっている。
これのおかげで荷物を持つ必要もなくなり、無限に収納が可能なため、一瞬で武器を出すことも出来るようになる。
「あ……あの、お客様?」
「演技はもう結構よ、貴女だって分かってるでしょう」
「何の話ですか……?」
「しらばっくれるつもり?貴女の正体は分かってるのよ……神鍵ハンター『ヴァネッサ』」
エルミアがその名を口にした途端、その女性は怪しく微笑み……
「ふふっ……バレてたのね……私をどうするつもり?捕まえるの?それとも……!」
女は高く跳び、腰から二丁の拳銃を出してエルミアに向かって乱射した。
「そんな鉛は、私にとってどうってことないわ!」
エルミアも宇宙船の乗組員の一人。故に血反吐を吐くほどの戦闘訓練を受けてきた。その甲斐あって、乱射された弾を一つ残さず弾いた。
「ああ……貴女のその勇猛な精神は相変わらず美しいわね……けど私は、貴女と戦っている暇はないの」
その言葉を残し、女は窓ガラスを割ったと思ったら、ものすごいスピードで逃げて行った。
「ヴァネッサ……情報通りだったわね、二人に知らせないと」
エルミアは急いで、ウェルトロムとルミナリスに連絡した。
『二人共間こえる?』
『なに~?』
『どうしたんだ?何かあったか?』
『ええ、ヴァネッサを見つけた』
『本当か!?それで特徴は?』
『黒と銀の長髪で紫色の目だけど、たぶん変装してるわ。病院に向かいながら、怪しい人物がいたら追跡してちょうだい』
『了解〜』
『今周囲を見渡してるが特に怪しい奴はいない。とりあえず病院に向かう』
『さっき「捜索しながら病院に」って提案した意味〜!』
『ウェルトロム、病院までの地図を送るわ。急いで来てちょうだい』
『は~い』
ウェルトロムのやる気があるのか無いのか分からない返事を最後に、通話は終わった。
「宇宙船の二人にも言っておかないと」
エルミアは宇宙船の二人に諸々の事情を伝えながら、その場を後に走り去った。
一足先に病院に着いたルミナリスは、二人が到着するのを待っていた。
「そろそろ来ると思うんだが……」
そう思っていると、奥に人影が見えた。
「はあ……はあ……はあ」
走って来たのはまだ幼い少女、腰には刀の一種の脇差を差していた。
(なんとも物騒な子供だな……)
少女は病院に着くなり、受付を済ませ、病室の一つに入って行った。
「マ……ママ」
「あらセレスティア……ってどうしたの?すごく疲れてるようだけど…」
「今日は一人で来たの……」
「危ないじゃないの……パパは?」
「パパは仕事で来られなかったの……だから待ち切れなくて一人で来たの。」
「あらあら」
その頃ルミナリスは、セレスティアがいる病室のドアから会話を聞いていた。
(あんなに幼い子供が一人で来るはずないと思ってたが、母親が病気なのか……体に花が咲く、浅く早い呼吸、咲いてるのは青薔薇……確かこの病気は)
「体開青華症ですか」
「っ!どなたですか?」
「ママぁ……」
セレスティアは怯え、自分の母にしがみついた。
「これは失礼、話し声が間こえたので」
「それはすみません……ですが、この病気をご存知なんですね」
「ええ、知り合いが研究してまして」
「ん?」
廊下には、ルミナリスと同じくドア越しに話を聞いている人物がいた。
「研究?」
「その病気を治す研究です」
「それは……本当ですか……?」
「本当です、ちょうど俺が試作の薬を持ってますよ」
「あら……私でも調合が難しい薬をアンタ達の科学者が調合を成功させたってのは、本当かしら?」
「あ……星彩先生」
「星彩、ちょうど会いたいと思ってたところだ」
「ふう……やっと着いた~」
「あら、あなたと同着とはね」
「それ別に言わなくても良いんじゃない」
私とエルミアは、連絡が取れなくなったルミナリスに会うために、急いで病院に向かった。だが病院内に、ルミナリスの姿は見えなかった。その代わり……
「あ……あの……」
「あら、なにかしら?」
「ウェルトロムさんと……エルミアさんでしょうか……?」
「そうだけど、なんで知ってるの?」
「おじさんに頼まれて……「あとで茶髪の女と、銀と緑の髪の女が来るから、事情を伝えてくれないか?」って」
茶髪の女と言うと私だし、銀と緑の髪はエルミアの事か……そしてルミナリスを「おじさん」呼びって事は、名前は教えてないっぽいな。
「あのバカ……事情を知らない女の子に、頼み事なんて……」
「ねえ、あなたの名前は?」
「私……セレスティア」
「セレスティアちゃん、そのおじさんがどこに行ったか教えてくれる?」
「えーっと……確か「水晶聖域」の方向に行ってました。」
「水晶聖域……?エルミア、知ってる?」
「ええ、もちろんよ。でも説明してる暇は無さそうだから、行きながら話すわ」
エルミアの話によると、水晶聖域は白雲星の統治神である【医療之神】が結晶として眠っている休息場所らしい。そして同時に【戦争之神】でもあるため、広大な闘技場で常に力ある者達が戦うのを見守っている、とエルミアは話した。
病院を出発して30分、私達は水晶聖域に到着した。そこで何が行われていたかと言うと……
「はあ!」
「甘い甘い!」
ルミナリスが誰かと戦っていた
「え~……エルミア、あれ何?」
「ルミナリスと戦ってるのは、病院の院長の星彩ね。でも、どうしてこんな事に……?」
「多分、ママのためだと……思います」
「貴女のお母さん?」
「私のママは病気で、いつも体にお花があるんです……それでおじさんが「病気が治るお薬を持ってる」って言ったのを、先生が聞いて……」
「なるほど……私が作った試薬品が気に食わないから、『勝ったら調合法を教える』って感じかしら?」
「で、どうする?一旦止める?」
私は槍を構え、戦闘態勢に入った。
「大丈夫よ……それにこの戦い、どっちが勝つのか気にならない?」
(それにあくまで試薬品だから、調合法が知られても良いし)
「分かった……」
私は少し不服に思いながら、槍をしまった。
「それより、星彩って人すごいね~。片手剣相手にナイフで互角だよ」
「彼女、意外と戦闘狂だからね」
それは医者として大丈夫なの……?
「それより、もう気づいてるわよね」
「うん……」
「え……?なんですか?」
セレスティアの疑問の言葉と同時に、少し前からあった気配が一気に大きくなった。
「あら、やっぱりバレちゃってた?」
「ヴァネッサ、貴女本当にしつこいわよ」
「セレスティアはどこかに隠れてて」
「う……うん」
セレスティアが遠くに行ったのを確認した上で、私は槍を、エルミアは大剣を構えた。
「さあ……神鍵が目覚めるまで、暇つぶしさせてもらうわよ」
え……神鍵が目覚めるまで?
「どういう事かしら?」
「ふふっ、もう少し経てば分かること……よ!」
こうして、ヴァネッサとの戦いの火蓋が切って落とされた。
「………………」
『銀河間重要指名手配犯』
・ヴァネッサ
懸賞金:110億7500万銀河ポイント