表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/43

9.帝国騎士団登場!

 自室の大きな窓からは、気持ちのいい陽光が差し込んでくる。


「お待たせいたしました。サンドイッチでございます」

「うむ、ありがとう」

「こちら、生き血のソースです」

「それは要らない」


 時刻は朝と昼の中間。

 もそもそと起き出した俺は、伸びを一つ。

 メイドちゃんに作ってもらったサンドイッチを頬張りながら、ダラダラとした時間を過ごす。

 これ、すなわち至高。


「魔導士」

「ッ!!」


 これはアテナの声!


「開けるぞ」


 そう言ってアテナは、わずかな沈黙の後、部屋のドアを開く。


「いない? ……いや」


 部屋に踏み込んできたアテナは、そのままクローゼットを開いた。


「こんなところで何をしている」

「……今日は腹が痛いから、お休みということで」

「腹痛の者が、サンドイッチ片手にクローゼットに潜り込むわけがないだろう。さあ行くぞ」


 クローゼットから引っ張り出された俺は、裾をつかまれ引きずられる。


「お、おい、どこに連れて行くつもりだよ!?」

「来れば分かる」

「これで三日連続だぞ! そもそも俺は『意見役』なんだ、俺のペースで仕事をさせろー!」

「だが、騎士団員だ」

「また大勢の前で、スカートを下ろして見せるようなことになるぞ!」

「あっ、あれはお前が……っ!」

「……放尿騎士」

「やめろっ! そもそも未遂だ!」


 パーティでの痴態を思い出して、思いっきり赤面するアテナ。

 皇帝や貴族には、【幻覚剤】の影響だったと説明して回ったらしい。

 まあ俺も何かあったら面倒だし、皇帝には「忘れてあげて欲しい」と言っておいたけど。


「……で、今日は何をするんだよ」

「まずは騎士団の者と共に、荷運びを行う」

「荷運び?」


 力仕事とか、一番やりたくないんだけど……。

 面倒なことになりそうな気配に、俺はため息をついたのだった。



   ◆



「何をしている、もっと足を動かせ」


 アテナはそう言って、俺の隣に並んだ。

 仕事は新調した鎧の入った木箱を、騎士団の兵舎に運ぶこと。

 完全な力仕事だ。


「あのなあ、俺は魔導士なんだぞ。力仕事をしないために生まれてきた男なんだから、あんまり期待すんな」

「そもそも私が二箱重ねて運んでいるのに、お前は一箱だけではないか」

「か弱き魔導士が力仕事してるんだから、褒めてもいいくらいだぞ」

「まったく情けない」


 これ見よがしなため息をつき、俺を置いていくアテナ。

 ちなみに箱は、一つでも十分重い。


「それを二個まとめて運ぶとか、馬鹿力もいいところ……」


 そうつぶやいた俺の隣を、駆け抜けていく騎士団員少女。


「……は?」


 その手には、高々と積まれた八個の木箱。

 マジかよあいつ……。


「よいしょっと」


 少女は騎士団宿舎前に荷を降ろすと、並んだ箱を数え始める。


「ええと、八個ずつ運んで六往復だから……」


 それから「むむむ」と考えて、一言。


「四十二個!」

「なるほど、アホの子か」


 俺がつぶやくと、騎士団員少女が振り返る。

 高めの身長に、明るく短い茶髪。

 そこにはアホの子に恥じない、立派な寝ぐせが一房。

 ショートパンツからのぞく太ももは、すごく健康的だ。


「ややっ、キミが団長の言ってた魔導士さんだね。あたしはサニー。帝国騎士団の副団長だよ」

「副団長……?」

「そうだよ。だからアホの子は心外だなぁ」


 そう言って、わざとらしい怒り顔をしてみせる副団長サニー。


「ちゃんと計算だってできるんだよ?」

「7×6は?」

「48!」

「アホの子じゃねーか」


 アホの子は大抵6、7、8の段が弱点だ。


「ううっ、7の段はずるいよぉ」

「ちなみに8個ずつ6往復したんだったら、48個だからな」

「おおっ! ということは、あたしのノルマが60個だから、そこから48を引いて……」


 さっそく、引き算を始めるサニー。

 両手を使って計算している姿が、とてもアホっぽい。


「あと22個だ!」

「12個だよ」

「てへへ、魔導士さんは計算が得意なんだね」


 サニーは、恥ずかしそうに笑う。

 するとそこに、箱の中身を確認していたのだろうアテナがやってきた。


「よし、あと少しで荷運びも終わりだな。一気に片付けてしまおう」

「了解っ」


 そしてそのままサニーを引き連れて、来た道を戻って行く。


「……副団長め」

「ん?」


 そこに現れたのは、一人の騎士団少女。

 抱えてきた一つの木箱を置いて、息をつく。

 なんだ、馬鹿力じゃない普通の子もいるんじゃないか。

 見た目は、長めの黒髪を二つに結んだツインテール。

 俺より一回り小さな身長に、華奢な身体つき。

 騎士団少女は、アテナと隣り合って戻って行くサニーを見て唇を噛んだ。


「私が副団長になれば、アテナ様の隣に立てる……必ず、必ず下剋上を……っ」

「もっとヤバいやつだった」


 思わずつぶやくと、狩る者の目をした少女が振り返った。


「あなた、昨日のパーティにいた魔導士ね? アテナ様に下着姿をさらさせたという」


「ガルルルル」と唸りながらやってきた少女は、真下からにらみつけてくる。


「アテナ様とは、どういう関係なの?」

「何の関係もねえよ。無理やり騎士団に入れられて雑用をさせられてるだけだ」

「あなたを騎士団に? アテナ様、わざわざ男を増やすだなんて……」


 そう言って騎士団少女は、鋭い視線を向けてきた。


「……アテナ様に取り入ろうみたいなマネは、しない方がいいわよ」

「剣を抜きながら言うな」

「魔導士に怪しい動きがあれば斬れと言われてる……これは私の判断でいつでも斬っていいという事。例えば、アテナ様との関係性が『怪しい』でも問題ない」

「やめろ!」


 間違いない! こいつはヤバいやつだ!


「まあ、どこの馬の骨ともわからない者と懇意になるなんてことは、世界がひっくり返ってもあり得ないでしょうけど……一応一つ、聞かせてもらうわ」

「な、なんだよ」

「……下着は何色だったの?」

「何を聞いてきてんだ! 水色だよ!」


 剣を向け、恐ろしい目でにらみつけてくる騎士団少女に、即座に屈する俺。しかし。


「レイン」

「はいっ! なんですかアテナ様っ?」


 アテナに呼ばれると一転、目を輝かせながら駆けて行く。


「レインちゃん、今日も元気だね!」

「もちろんですっ、サニーさん!」


 さっきまで『下剋上を起こす』と言っていたサニー相手に、レインは満面の笑みを見せる。


「二人は相変わらず、仲がいいな」


 そしてそんな二人を見て、笑みを浮かべるアテナ。


「火種がくすぶってるんだよなぁ……」


 騎士団の抱える闇を見せつけられた俺は、溜息をつきながら三人の後に続くのだった。

ご感想いただきました! ありがとうございます!

返信はご感想欄にてっ!


お読みいただき、ありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら――。


下の【ブックマーク】・【★★★】等にて、応援よろしくお願いいたしますっ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ