39.大魔族との戦い!
「ゆくぞ! 約束を守れないゴミどもォォォォ!!」
「っ!!」
アルシエルは長い跳躍一つで、一気に距離を詰めてくる。
そのまま振り下ろされる剛腕。
その速さに驚きながら、アテナは剣で爪攻撃を防御。
続く連続攻撃を、後方へ下がる事で回避した。
するとアルシエルは、掌を突き出してくる。
「【獄炎弾】!」
「っ!!」
アテナはこれを、とっさに身体を傾けることでギリギリ回避。
頬をかすめていった炎弾は、背後で弾けて大きな炎を上げた。
「強い……っ!」
思わずもれる声。
それも当然だ。
何せ相手は、物語の後半に満を持して出てくるタイプの大物。
主人公たちでも苦戦必至の強敵なんだ。でも!
「魔法を撃った直後の隙は、攻撃を避けられない! メギド――」
「【テンプテーション】っ!」
「ナタリアちゃん、しゅきぃぃぃぃ!」
「シャルルゥゥゥゥ――ッ!!」
一瞬でピンクに染まる視界。
いや、マジで【テンプテーション】容赦ねえ!
全っ然、耐えられる気がしないんだけど!
「しっかりしろ! シャルル!」
「分かってる! まずは呼吸を正すんだ。そして心を明鏡止水の境地にまで、昇華させれば……っ!」
「いくぞ! メギド――!」
「【テンプテーション】!」
「ハッ! メギド――!」
「【テンプテーション】!」
「ハッ! メギド――!」
「【テンプテーション】!」
「ごめんアテナ! やっぱ無理!」
「無理ではない! なんとかしろシャルルゥ――ッ!!」
だって無理なものは無理なんだもの!
「【獄炎弾】!」
一方アルシエルは火力の高い魔法を連発し、アテナはこれを素早いステップで回避する。
「【ライトニングブレード】!」
一気に距離を詰め、大きく剣を振り上げる一撃を放つが、アルシエルも見事な身のこなしでかわしてみせた。
そして両者の間に、わずかに隙間が生まれる。
「【マグマ・クレーレ】!」
「ッ!!」
離れた位置からでも早い攻撃を展開できるアルシエルが、戦いの優位を握る。
アテナは足元に生まれたヒビから噴きあがる閃熱を、飛び込み転がる事で回避した。
この隙に、俺が魔法を叩き込めば――!
「【テンプテーション】!」
「ナタリアちゃぁぁぁぁん! いや、落差が酷い!」
アテナが熱い戦いを繰り広げる中、こっちは誘惑され放題ってなんだよ!
「そろそろこっちも、本気でいくからねっ!」
そう宣言して、掌サイズの魔法珠を三つほど放り出したサキュバス。
え、なに? どういうこと?
「いけーっ! 魔導士をやっつけちゃえ!」
空中に浮かんだ魔法珠は魔力を煌々と輝かせながら、俺に向かって一直線。
「うおおおおおおお――っ!?」
魔力弾を次々に撃ちこんでくる。
「ちょっ、待て! これじゃ反撃どころじゃねえ! 痛っ! 痛ててっ!!」
逃げる俺の後を、完全追尾してくる魔法珠。
尻に当たった魔法弾が、弾けて思わず飛びあがる。
「アルシエル様、このまま一気に勝負を付けてしまいましょう!」
するとそれを見たサキュバスはそう言って、さらに攻勢を強めてくる。
「こっちはこういう戦い方もできるからね! みんな、出ておいでーっ!」
サキュバスが呼びかけると、路地から出てくる男たち。
「サキュバスめ、下僕を追加してきたか……っ!」
「さあ帝国のみんな、私たちの盾になってがんばってね!」
【テンプテーション】にかかった帝国民たちは、俺たちに向かってわらわらと動き出す。
「【獄炎弾】!」
この隙を、アルシエルは逃がさない。
「ああああっ!」
放った魔法が足元に炸裂し、その衝撃でアテナは派手に地面を転がった。
それでもどうにか反撃に入ろうと、すぐさま体勢を立て直して剣を握るが――。
「っ!」
そこには、迫り来る帝国民たちの姿。
「くっ、卑怯な手を……っ!」
アテナは下僕たちを戦いに巻き込まないよう、慌てて距離を取る。
「【獄炎弾】!」
再び放たれた魔法。
反撃できないアテナは、肩を弾いていった炎弾に再び大きく体勢を崩す。
いやこれ、マジでヤバいぞ!
操られてる帝国民を間に挟まれると、こっちは攻撃がしづらくなる。
必然的に、戦いがめちゃくちゃ不利になってしまう!
「痛ってえ!」
ていうか、この魔法珠をどうにかしないと反撃なんて不可能だ……っ!
思わぬピンチの中を、俺はひたすら逃げまどう。
もはや振り返って攻撃することも、できない状況。
いやこれ、どうすればいいんだ……っ!?
「――――っ!?」
苦悩する俺の頭の上を、不意に何者かがすれ違っていった。
つられて、思わず振り返ってしまう。
すると空中で放たれた二刀流の斬撃が、魔法珠を真っ二つに分断した。
そして着地と同時に、すれ違う最後の魔法珠に向けて手を伸ばす。
「【スティール】」
「ああっ! 精気を集めて作った、私の魔法珠たちがーっ!」
サキュバスが、あげる悲鳴。
「怪盗……っ! 来てくれたのか!」
この危機にやって来たのはなんと、怪盗だった。
華麗に着地を決めた怪盗は、そのまま最後の魔法珠を地面に叩きつけて粉砕。
それから、クールに振り返る。
「下着愛好の同志にして、我らを虜にしたエロ漫画の未来を担う男であるシャルル。盟約通り、助太刀に参上した」
「いや助かるけど、もう少し言い方があっただろ! あと俺は見るのは好きだけど、かぶって喜ぶほどの愛好家じぇねえ!」
そもそもあれは顔を隠すためにって、お前が渡してきたんだぞ!
「何も、恥じることはない」
最高のタイミングで登場した、助っ人。
それにもかかわらず俺は、怪盗の襟元をつかんで揺さぶっていた。
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