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36.邂逅!

「衰弱者がさらに増えている……やはりこれは、背後に何かある」


 そう言って、唸るアテナ。


「なんで俺まで……」


 体調不良者は夜ごとに増えてるということが確認され、ついに俺は夜警にまで狩り出されていた。


「当然だ、お前は騎士団の一員なのだからな。それに」

「それに?」

「そもそもこの事態に、関与している可能性もある」

「ねえんだって」


 魔導士シャルルの宿敵であるアテナは、疑惑の視線を向けてくる。


「夜の街はワクワクしちゃうなーっ。あっ、シャルルくーん! アテナちゃーん!」

「今は団長と呼ぶように。それと、目的は食べ歩きではないぞ」

「はーい!」


 常に複数の騎士団員が、街の見回りをしている状況下。

 馬鹿力の副団長サニーは、夜に外出すること自体がないのか、串焼き片手に大通りを駆けて行った。

 なんか夜更かしを許された、子供みたいだな。


「だがこの状況、まるで流行病のようだな。一体何が起きているんだ……?」


 アテナは、不思議そうにする。


「もう、魔法薬も足りないぞ」


 増え続ける体調不良者に、【強壮剤】もほとんど使い切ってしまった。

 それでいて病気の類は、特に見つかってないから不思議だ。


「ナタリアちゃん、ぐふふ」

「ナタリアちゃんのためなら……」


 なんか、今夜はすれ違う男たちがムフムフとしていることが多いな。

 ていうか、フラフラと街を歩いてるのが男ばっかりだ。

 俺はゾンビのように街を徘徊してる、こいつらの方が気になるんだけど……。


「うわああああああ――――っ!」

「「っ!?」」


 そんな中、突然あがった大きな叫び声に、思わず顔を見合わせる。


「行くぞ! ついて来いシャルル!」

「はいよ」


 俺はアテナと共に走り出し、声のした路地裏へ向かう。

 するとそこには、四人の男たちに襲われ負傷した、騎士団員の姿があった。


「何があった!?」

「怪しい魔法陣に集まっていた男たちに声をかけたら、突然襲い掛かってきたんです……!」


 見れば確かに路地裏の一角に、薄く光る魔法陣が描かれてる。


「まさか、この魔法陣が衰弱者を生み出していたのか!?」

「分かりません! ですが怪しいということだけは間違いありませんっ!」


 男たちは薄笑いを浮かべたまま、武器を掲げる。

 やっぱり、様子がおかしい。

 まるで何かに、操られてるみたいだ。


「ここは私に任せて、治療にさがれ! はあっ!」


 ケガした騎士団員を撤退させて、男たちの中へと駆け込んだアテナは、剣の側面を使った攻撃を連発。

 四人を、あっという間に気絶させてしまった。


「うへへ……ナタリアちゃん」

「ナタリアちゃぁぁぁぁん」


 だが男たちは、倒れてもなおイヤらしい笑みを浮かべている。


「どうやらこの魔法陣と、ナタリアという名が鍵を握っていそうだな……! ついにつかんだぞ、尻尾を!」


 そして俺たちがようやく、今回の事件の鍵になりそうな人物にたどりついたところで――。


「あーあ、バレちゃった」


 聞こえてきた、場違いなほどに可愛らしい声。

 視線を上げると、続く建物の屋根の上に、月明かりに照らされる少女が立っていた。

 大きな目に、肩口で揺れる淡い桃色の髪。

 背中に生えた、小ぶりな黒翼。


「魔族か!」


 それを見たアテナが、すぐさま剣を握り直す。


「みんな、おいで」


 魔族の少女は、軽く右手を上げた。

 すると不気味な笑みを浮かべた三十人ほどの男たちが、一斉に俺たちの前に現れた。


「そういうことか! あの小さな翼に、狂った男たち。この事件はサキュバスが起こしていたのだな! ならばナタリアとは貴様のことか!」

「正解っ。でも、ナタリアちゃんの邪魔はさせないよ?」


 そう言ってサキュバスは、妖しく笑う。


「シャルル! ケガをさせてしまわないよう、操られている帝国民は私が止める。お前はサキュバスを頼む!」

「ええー……」

「いいからやれ!」


 屋根の上にいる飛行型となれば、当然魔法で戦う方が有利だ。

 俺は手にした杖を、仕方なくサキュバスに向けて構える。


「そうはさせないよっ! この天才ナタリアちゃんを前に、不可能なんてないんだから!」


 しかしサキュバスは、すぐさま先手を打ってきた。


「そーれっ【テンプテーション】!」


 両腕で挟んだ胸を持ち上げて、可愛らしくポーズ。

 すると強い魔力の輝きが、俺に向けて放たれる。

 なるほど……!

 男たちを操っている不思議な力は、サキュバスの必殺魔法である【テンプテーション】によるものだったわけだ!


「だがっ! 俺の魔力の高さなら、誘惑の魔法なんて恐れるに足らずだ!」


 状態異常魔法へのかかりやすさには、魔力の高低が影響する。

 そしてフィナーレファンタジー6の超大物である魔導士シャルルは当然、抗魔力も圧倒的に高い!


「残念だったなサキュバス! シャルルほどの魔力を持つ魔導士に、そのような誘惑が効くはずがない!」


 アテナはハッキリとそう言い切って、強気の姿勢で振り返る。


「さあシャルル! お前の力を見せてみろ!」

「ナタリアちゃん、好き」

「シャルル!? おい、どうした!? 早くサキュバスを撃て!」

「ナタリアちゃん……しゅき」

「シャルル――――ッ!!」


 まさかの事態に、驚愕の声を上げるアテナ。


「これが天才サキュバス、ナタリアちゃんの【テンプテーション】だよ……ふふっ、君たちじゃ勝ち目はないんじゃないかなぁ」


 サキュバスのナタリアちゃんは、可愛くも尊い余裕の笑みを浮かべていらっしゃる。

 俺の視界は完全に、ピンク色に染まっていた。

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