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26.新薬開発!

「うまい! うますぎる……っ!」


 城内でちょくちょく行われる、貴族たちのパーティ。

 俺は意見役という立場を利用して、潜り込むことに成功。

 並んだ豪華な料理を楽しんでいた。


「やっぱこの立場は最高だな。深夜の仕事はないし、なんかそこそこ偉いし、パーティにも入れてもらえるし」


 見れば貴族たちは、そこかしこのテーブルで談笑をかわしている。

 立ち話で盛り上がっている貴族もいて、かなり賑やかだ。

 そんな中、俺はビュッフェ形式の料理を皿にたくさん盛って、順番に味わっていく。


「お、これもうまいぞ!」


 出ているものに、外れなし。


「ああ、意見役最高……」


 貴族ってのは、こんなうまい物を食いながら毎日を過ごしてるのか。

 ツナマヨおにぎりと、カップみそ汁が週の半分以上を占めていた俺とは、雲泥の差だ……っ!


「またあなたですか」

「す、すみませんっ」


 聞こえてきた怒りの声に、思わず振り返る。

 そこにいたのは謝るメイドちゃんと、怒りに目を鋭くする老メイド。


「ここに来てもう一年になるというのに、これまで何をしてきたんですか? 分からないことは勝手にやらずに聞きなさい! これだから田舎者は」

「すみません……っ」

「ああ君、ちょっといい?」

「あ、あの……っ」


 貴族に呼びかけられたメイドちゃんは老メイドの方を見ながら、お説教中に動いていいのかをうかがう。


「こういう時は自分の判断で、迅速に行動するんです! この程度もできないなら、このお城には要りません!」

「も、申し訳ありませんっ。メイド長!」


 要らないと言われて、メイド長にペコペコ必死に頭を下げてから、貴族のもとに駆けていくメイドちゃん。


「聞いてからやるのか、自分の判断でやるのか、どっちなんだよ」


 俺は思わず、ツッコミを入れる。

 この手の無理難題、ちょくちょくあるんだよな。

 俺の世話をしてくれてるメイドちゃんは、帝国からの派遣だ。

 だから城内でパーティがあれば、駆り出されることもある。

 ていうかメイドちゃん、一年目なら良くやってる方だろ。

 思わず始まる身震い。

 偉い人から酷い怒られ方をしてる姿を見ると、過去を思い出して居ても立ってもいられなくなるんだよなぁ。


「この辺りで、魔導士シャルルを見なかったか?」

「ッ!」


 そんな中、聞こえた声に慌てて視線を向ける。

 そこには近場のメイドをつかまえて、俺の居場所をたずねるアテナの姿があった。

 すぐさま料理の並んだテーブルのクロスを持ち上げて、その中に潜り込む。


「ヤツめ、一体どこで油を売っているんだ」

「…………」


 息をひそめて、聞こえてくる足音をやり過ごす。


「あの顔は絶対、俺に仕事をさせようとしてる時の顔だ」


 騎士団の仕事は、身体を使うものが多い。

 それだけでもしんどくて大変なのに、料理を食べたばかりの状態で力仕事なんてしたら大変だぞ。

 クマ追い返し業務を終えたばかりの俺には、休息が必要なんだ。


「がんばれ、メイドちゃん」


 テーブルの下で料理を食べ終えると、また怒られてるメイドちゃんの背中に一声。

 そそくさと、会場から逃げ帰ることにした。



   ◆



「メイドちゃん、大丈夫?」


 パーティの仕事を終えて帰って来たメイドちゃんは、疲れを感じさせる息をついていた。


「あっ、すすすすみませんっ」


 それを気を抜いてると言われたと思ったのか、ブンブンと頭を下げる。


「ああいや、パーティ仕事、大変だったんじゃない?」

「……はい。貴族の方々が集まる場では、緊張して慌ててしまうことが多くて」


 パーティには高名な貴族もいるし、うるさい上司もいる。

 そう考えると、大変だよなぁ。


「そんなに緊張するのか」

「私の実家は農業をしているのですが、ここ数年不作が続いていて。妹たちもいるから、私ががんばらないといけないんです。絶対にクビになったらいけないと考えると、余計に……」

「なるほど、出稼ぎで帝国に出てきてるんだな」


 それで一年目にいきなり悪の魔導士の担当にさせられるって、結構大変だな……。


「近々また、有名な貴族の方々の集まる会があるらしく……今から気が気じゃなくて」


 そう言って、ため息を吐くメイドちゃん。

 考えてみれば、初見の時も生き血をバシャバシャこぼしてたもんなぁ。

 ただ掃除とかの手際は良いし、ハーブの余計な芽を切ったりもしてくれてるんだよな。

 ちょっとした料理も上手だし、いい腕してると思うんだけど……。

 そんなことを思い出しながら、窓を開く。

 見れば、育てていたハーブがちょうど収穫時期になっている。


「……よし、これで何か作ってみるか」


 メイドちゃんには世話になってるし、まだまだ『魔導士シャルル』にビビってる。

 そのうえ貴族相手の重圧や、上司の嫌味に苦しんでると聞いたら、放ってはおけねえよな。


「メイドちゃん、次のパーティに向けて魔法薬でも作ろうか? 確か感覚を鋭くさせつつ、頭はスッと冷静になる薬が……」

「い、いえ、大丈夫ですっ!」

「遠慮しなくていいよ」

「だ、大丈夫です! ほほほ本当に大丈夫ですっ!」

「そんなに遠慮しなくていいって」

「……で、ですが、飲んだら最後、絶望的な依存症に……っ!」

「ならないって!」

「そして最後は薬づけにされて、怪しい貴族に売り飛ばされてしまいます……っ!」

「しねえっての!」


 とんでもない想像をして、顔を青ざめさせるメイドちゃん。

 先日の【幻覚剤】の事件もあるし、俺が作る魔法薬への恐怖があるのかもしれない。


「お願いします! それだけはお許しを! ス、スカートなら、いくらでもたくし上げますので……っ!」

「やめろって! アテナが来たらまた勘違いするだろ!」


 赤面しながらスカートを持ち上げようとするメイドちゃんの手をつかんで、俺は必死に抵抗する。

 こういうのって普通、俺がスカートをめくろうとして、メイドちゃんが抵抗するんじゃないの!?


「シャルルくーん」

「うおおっ!?」


 突然開いたドアに慌ててスカートから手を放して、そのままひっくり返る俺。


「……なにしてんの?」

「サ、サニーか。何の用だ?」


 やって来たのは、騎士団のお馬鹿副団長だった。


「それがね。お城に届いた木箱入りの荷物を、倉庫に運んで収めるっていう仕事があるんだよ。そうなると何個ずつ何列みたいな計算が必要になるんだ。シャルル君なら、頭が良くなる薬とかを作ってもらえたりするかなと思って」


 そう言ってサニーは「お願いっ」と、両手を合わせる。


「……分かった。そういうことなら何とかしよう」

「ほんとう!?」

「メイドちゃん見ててくれ。さっそく魔法薬の効果と安全性を披露するから」


 さっそく俺は、育ったハーブをいくつか摘んで、魔法薬の精製に入る。


「ええっ、そのハーブを使うんですか!? ということは私も、魔法薬生成の片棒を担いだことになるのでは……っ!」


 気合を入れて、魔法役作りを始める俺。

 一方ハーブの水やりをしてくれていたメイドちゃんは、ガタガタと震えていた。

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