テンプレ通り転移したが、異世界じゃないかもしれない。
厨二病を引きずった冴えない平凡な男子高校生の俺。
下校中に光る何かを踏んでしまった。
そのまま意識を失い、気がつくと変な服を着た変な集団に囲まれていた。
……テンプレかっ。
だとすれば。
これは。
「異世界召喚、来たっ!!」
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「貴方は召喚者です。この国には、召喚者にしか扱えないと伝わる武器が沢山あります。それを使って魔族を倒してください!」
と、美少女、王女様に言われた。
少し露出度高めな服。まさに異世界。
美少女は武器庫を案内すると言った。
いやー、どんな武器かな。聖剣とか?
「まずはこれです。」
「えっ、銃?」
「はい、文献によると、”ジュー“はバイオ認証を使用しており、召喚者にしか反応しないとのことです。」
バイオ認証。
異世界らしくない。
というか、俺の魔法の杖と聖剣は?
「使えそうですか?」
うーん、俺のラノベ知識でなんとかなるかな。あんまりマニアックなのは無理だけど。
「もちろん!」
「最後はこれです!伝説の武器、ダンドーミサイルです!!カクが搭載されているそうです。」
銃以外にもライフルや対戦車地雷、などなど、現代武器ばっかり出てきた。
これは、異世界ではない気がする。
いやでも、魔族って言ったし。
っていうか。
「俺、ミサイルの使い方は知らないんだけど。」
核とか、倫理的にダメな気がするし。
「そうですか……」
しゅんとされた。
悪いことしたな……
いや、してない。むしろ核を使わない善良な日本国民だ。
「召喚者様は、戦闘の経験がありますか?」
「かなりある。」
FPSとか、だけど。
ま、敵にこの装備がないなら、余裕でしょ!
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と、思っていた時期が俺にもありました。
試し撃ちと称して的を狙ってみたところ、中心どころか擦りもしなかった。
それから約1週間。俺はずっと射撃訓練に勤しんでいた。
「王女様、この前言ったーー」
「そのことを伝えに来ました。ついてきてください。」
俺は、魔族について学ぼうと思った。
よくあるテンプレとしては、調子乗った主人公がめちゃ強い魔族に殺されかけて、仲間との友情が芽生えるとか、マブダチを作るとか、だけど。
でも、俺は痛い目を見たくないから、あの主人公たちを反面教師にして、勉強することにした。
王女様には、魔族の専門家に会えるよう頼んだ。
「先生、よろしくお願いします。」
「いえいえ、こちらこそ、召喚者様にお会いできて光栄です。では早速、授業をしましょう。」
先生は魔族の弱点は心臓だと言った。
魔族は、人族が開発した第20番素粒子、魔素を、機械を通さず、肉体で操作できるように改造された人間らしい。どこぞのマッドサイエンティストが作ったが、魔族はその科学者を殺し、人族を滅ぼそうとしてるんだとか。
なんでも、魔術ーー魔素を利用した物理法則に違反する事象を引き起こす技術ーーを、機械の手を借りずに使える自分達こそが、新たな人類、そして使えない奴は劣等人種、淘汰されるべきだ、と主張するらしい。
銃とか出てきた時は本当に異世界なのか疑ったが、どうやら本当に異世界らしい。
ただ、世界観がSF寄りなだけで。
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そろそろ、準備万端。
召喚者様、と崇められても、俺は真面目に訓練した。真面目に魔術について、魔族について学んだ。
多分、死なないと思う。
多分、勝てると思う。
「伝令!北第2要塞に、魔族の大軍が!援軍を!」
お、来たかチュートリアル!
危険なところに颯爽と現れる勇者。
いいな、それっぽい。
「俺が行く。」
気がつけば、手を上げていた。
「召喚者様が来てくださるとは!どうぞ、こちらへ!」
両手を上げて歓迎された。
SFチックなバイクに乗って要塞へ向かう。
とりあえず、防弾チョッキを着て、マシンガンで倒して、適当なところで撤退、あとはライフルで狙撃。
こんなもんでいいだろう。
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「つきました!」
裏から要塞に入る。
「召喚者殿!事態は急を要する、遊撃手として敵を撹乱してくれ!正門の守りは、我々が!」
指示の通りに動く。
ここで口を挟むのはざまぁ系のよくない勇者。
俺はそうならない。
東門へ向かう。
そこにいる敵は少ないらしいから、そこから出る。
マシンガンの認証を済ませ、構える。
スコープを覗く。
心臓を狙うんだ。
出た!
引き金を引いた。
あかい、血が溢れる。
俺の体に流れているのと同じものが。
目の前で、“人間”が倒れる。
“いのち”が崩れ落ちる。
俺が、殺した。
“人”を。
小説の中の勇者は、絶対人間じゃない。
人を殺して、平然としているんだから。
そんなの、超人じゃなくて狂人だ。
膝から崩れ落ちる。
攻撃は受けていないのに、立てない。
逆流する感覚。
口を抑える。
「召喚者殿!?どうなさった!」
手が震える。
武器が、持てない。
視界が揺れる。
暗くなる。
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瞼が重い。
声が聞こえる。
大勢の、声が。
目を、開かなくては。
「だから言っただろう。旧人類を召喚するのはよせ、と。」
「そりゃー、旧人類は魔素の利用に反対する馬鹿だけど?でも、あのバイオ認証の武器、強いじゃん。」
「だが、1人魔族を殺しただけでこの有様だ。旧人類は、精神が弱過ぎて使い物にならないだろう。」
「褒めて伸ばすといいらしいから、そうやって精神の成長を促したんですけどー。」
なんの話だ?
旧人類の召喚?
俺は、旧人類?
旧人類は馬鹿?
何を、言って。
「あの。」
勇気を出して、聞いてみる。
「やっべ、聞かれちゃった。」
「旧人類ってなんですか。」
聞かなきゃ、いけない気がする。
「だーかーら。俺たち新人類が開発した、魔素に反対して、戦争して、その結果滅ぼされた、古い劣等種。」
「時代の変化に対応できなかったから淘汰されたんだ。」
淘汰。
劣等。
「魔族と、おんなじだ。」
理由をつけて相手を差別し。
相手は“劣っている”、“間違っている”から殺す。
「そうかもね。でも、君もじゃない?」
は?
「旧人類の歴史は知ってるよ?君たちだって、人類同士、差別しあっていたじゃないか。」
それは……
「まぁ、俺たちは君から見れば狂ってるかもだけど、俺から見れば君たちの方が狂ってる。人間、そういうものさ。違うものは狂ってる。自分達が正しい。そう主張するの。」
さっき止めたはずの吐き気が戻ってくる。
俺は、ラノベの勇者は狂ってるって、思ったけど。
その理由は“俺と違って”人を殺せる、からで。
その理由付けは、魔族と、こいつらと同じで。
最悪。
死にたい。
異世界なんて、大っ嫌い。
「ま、僕が召喚したんだ。責任とって過去の時代に戻してあげる。記憶も消してあげるよ。」
首根っこを掴まれ、何かの機械に放り込まれる。
「ま、精々頑張って生きな。人間。」
召喚された時と同じように、床が光って、意識が消える。
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珍しく、家に帰ったら昼寝をしたらしい。
悪夢を見た気がする。
異世界みたいな未来に行って、勇者になって、殺し合いをしたような。