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第90話 視察を終えて

国境の視察を終え、近衛師団は過酷な訓練をこなしつつ国境の警備に明け暮れていた。その間、陸軍、海軍の両軍の苛烈を極める訓練が行われていた。古き戦略、戦術、装備を捨て、近代化された軍隊へと生まれ変わりつつあった。


海軍に関しては、男のロマン溢れる。戦艦大和、兄弟艦でもある戦艦武蔵だと考えたが、それでは近代化過ぎると思い、断腸の思いで諦めた。


では、日露戦争の戦艦三笠にしようかと思ったが、こちらも木造帆船が主流の中、それはさすがに進化しすぎると思い止めた。この時ほど、悔しい思いをしたことは無かった。


装甲艦で我慢することにしたが、兵装だけは妥協しない! とりあえず、アームストロング砲110ポンド(50キロ)射程距離3200mを装備させた。オーバーキル、スレスレの装備だった。と言うかオーバーキルだった。





近衛師団の訓練を始めて、三ヶ月が過ぎようとした頃。僕は、久しぶりに王宮に帰って来た。


『コン コン』


自室でのんびりとしていると、ドアをノックする音が響いた。


「アレク様、アリシアです」


どうやらノックを犯人はアリシアのようだ。


「アリシアか? 入っても構わないよ」


「失礼します」


アリシアはお辞儀をして部屋に入って来た。


「アリシア、久しぶりだね。元気だった?」


「ええ、私は元気に焼肉を食べてます」


アリシアは余計な情報まで教えてくれた。


「ところで、何か用かな?」


「学園内の状況報告に参りました」


「そうか、ありがとう。僕の極秘任務の件は漏れて無いよね?」


「それは大丈夫です。学園内では、アレク様が婚約破棄のショックのあまり、ヒキこもりニートなったと噂になっております」


「そうか…… ファンクラブの会員は僕の事をヒキこもりニートだと信じているんだね」


「みなさん、そう信じております。会長中心に『今、アレク様は心を痛めておいでです。真のファンなら、静かにアレク様のお帰りを待ちましょう』とおっしゃって、ファンクラブの暴走を必死に抑え込んでいる状態です」


アリシアはルナールを崇拝しているのだろう。目をランランと輝かせて、ルナールを褒め称えていた。


「やはりそうか…… 確かに暴走しようとするファンもいるだろうが、ルナール達はみんなを良く抑えてくれていると思うよ」


僕がルナールを褒めると、


「ええ、良く頑張っていると思います」


自分事のようにドヤ顔をするアリシアに、お前もボッチ焼肉やってないで、誰かの為に貢献しろよ! とツッコミを入れたかったが、大人の僕は爪が食い込むほど手を握り締め、我慢をした。 ――優しさと忍耐力はイケメンの嗜み。



「アリシア、ルナール達に会った時にでも僕が感謝していたと伝えて欲しい。頼んだよ」


「はい、しっかりとお伝えしておきます」


「ところで王都の様子はどうだい?」


「はい、王都内もアレク様のヒキこもりニートの噂で賑わっております」


「王都の人々は僕の事をヘタレだと思っているだろね?」


「そうですね。うわさ通りのヘタレ王子だと、みなさんドキドキワクワクで噂しております。まあ、実際にガチモンのヘタレは本当のことですが」


アリシアはしれっとゲスい事を言いやがったが、


「うん、うん。それで良い」


僕はフロンガスター王国に紛れ込んでいる間者も、この噂を信じて欲しいと思っていたので、これはこれとして良い傾向だと感じてはいるが、メンタルを()られてられて倒れそうになる。




『コン コン』



――!?



突然、ドアをノックする音に、情けないことに体が『ビクッ』となってしまった。


「何か?」


自分のビビリを誤魔化すかのように、素っ気ない声で答えた。


「アレク様、国王陛下が急ぎ執務室へお出でになるよう。お呼びになっておられます」


使用人が父上から頼まれ、僕を呼びに来たようだ。


「父上が…… わかった。急いで伺うと父上にそのように伝えてくれ」


「ハッ! かしこまりました」


僕は衣服を整えてから父上の執務室へと急いだ。



執務室へ入ると、そこには父上、母上、宰相と知らない顔の男性が僕が来るのを待っていた。

お読みいただき誠にありがとうございます。

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