第8話 ファンクラブへの提案
謝罪をするルナール嬢を止めるべく、
「誤解しないでくれ。君を責めるために呼んだ訳じゃないんだ。とにかく頭を上げてくれ」
僕の一言でルナール嬢は安堵の表情になった。
「では、どう言った要件だったのでしょうか?」
「そのことなんだけど…… 実はファンクラブについての相談なんだが」
「相談……?」
「ああ、僕からの提案なのだが良いだろうか?」
「提案ですか?」
「ああ、そうだ。こんな僕でも、君たちファンクラブの活動に役に立てないだろうかと考えてね。ファンの集いとかのイベントをしても良いかと思っている。日々の君たちへの感謝の気持ちを受け取って欲しいのだが」
「ああ、アレク様から…… なんて恐れ多い…… 勿体なきお言葉……」
ルナール嬢は歓喜に溢れ泣きそうになっている。
――ファンクラブには感謝している部分もある。嫌だけど…… それは、マリア嬢の暴走行為の抑制である。ファンクラブが無ければもっと面倒なことになっていただろう。
「だだし、条件がある」
「条件?」
「そうだ。ファンクラブの中から10名を選出したい。僕も体が一つしかないからね。大勢だとゆっくりと話せないしね」
「10名ですか……?」
「そう10名」
ルナール嬢は僕の提案は理解しているが人数の少なさに唖然としていた。
「それは…… 選ばれなかった者どうなりかますか? 私を含めてですが、選ばれなかった者を考えると……」
ルナールは選ばれなかった者に対して、どうするか考えているのだろう。困った表情をしていた。
――あれ!? この悪役令嬢は意外に人間が出来ているのでは?
「そこは安心して欲しい。選出はこちらで決めさせていただく」
「アレク様がですか? そんなお手を煩わせるような真似を……」
ルナール嬢は僕の言葉に驚いていた。
「選出は参加者から抽選で行おうと考えている。自分の名前を書いた紙を箱の中に入れて、僕がその箱の中から名前の書いた紙を10人分取り出すんだ。そのやり方の方が、貴族、平民忖度無しに公平で平等に出来るのではないかと考えている。そして、参加者全員が紙を箱に入れる時に一人ひとりに僕が握手しようと思う」
「ア、アレク様が一人ひとりに握手ですか?」
「そう、参加者全員と握手会も兼ねているんだよ」
ルナールは僕と握手と聞いて、顔を赤くさせ驚いていた。
「そ、そんな滅相もありません。尊き王族に触れるなどあってはなりません!」
ルナールは我に返り、王族とその家臣との礼儀重んじているのか、両手を僕に突きだしく首と同時に左右を振った。
「いや、握手くらいなら大丈夫だ。言っておくけどこれはファンサービスだと思ってくれ」
「ファンサービスですか?」
「そうファンサービスだ。だから気にしなくても良いよ。あと、イベントの内容は君達に任せる。決まったらルブランに伝えてくれ。詳しい打ち合わせもルブラン達と決めてくれたら良い。僕からは以上だ」
「アレク様、ありがとうございます。これで今までのみんなの頑張りが報われます!」
ルナール嬢は立ち上がり深々と頭を下げ、お礼を言っていた。
「ああ…… これもファンサービスの一環だからね。ファンクラブのみんなにも早く伝えた方が良いよ。君達の考えたイベント楽しみにしているよ」
僕は震える手を握り締めながら、冷静さを保ちルナール嬢に言った。
「ハイ! 早速みんなに伝えてきます。アレク様、ありがとうございます!」
ルナール嬢は頭を下げ、早足で教室へと戻って行った。僕は黙ってルナール嬢の後ろ姿を見ていることしか出来なかった。
――ファンクラブの全員の頑張りかぁ…… そんなにみんなで隠密紛いのストーカー行為を頑張っていたんだなぁ…… そう考えると恐怖のあまり身体中がプルプルと震えていた。
◇
ルブラン達から婚約者殿の許可をもらい、ファンクラブのヤツらからの提案を吟味し、ファンクラブ主催イベントの開催当日を迎えた。
今回のイベント内容は『アレク様と愉快な仲間たち ~アレク様とお茶会をしようぜ!~』になった。名前は長いが単なるお茶会だ。
会場である王宮の庭園には『アレク様と愉快な仲間たち ~アレク様とお茶会をしようぜ!~』と大きく書かれた横断幕が掲げられ、あくまでもこれはファンクラブ主催のイベントであり、僕達の悪意にまみれたものではないとハッキリと示したものだった。
折角、王宮まで来てもらって抽選で外れたからといって、『はい、お帰り下さい』ではあまりに非道だと感じ、救済措置として会場近くでお茶会を開いてもらうことにした。やはり、鬼には成りきれない自分が、何だか可愛いヤツだなぁと思ってしまう自分がいる。
「ファンクラブの皆様、抽選を開始しますのでこちらにお名前を書いてもらい。ドール殿の所に一列でお並び下さい」
ルブランが片手を上げ、ファンクラブのヤツらに呼び掛けた。
サンペータが旅行ツアーなどで、よく使われている三角の小さな旗を持って誘導していた。何かあっては自分達の経歴にキズがついてしまう。との一念からルブラン達は自己保身にまみれて、良く動いてくれた。
僕はくじ引き用の箱の横に立ち、ファンクラブの会員との握手をする為に準備をするのだった。
準備と言っても手汗で手がベタベタさせて、キモッと思われないようハンカチで念入りに手を拭くだけだが、これは仕方が無いことなのだ。
僕は前世と合わせて女性と手を握った記憶が皆無。唯一、中学時代に混合フォークダンスで女子生徒と手を握った事しか記憶にない。
そのせいか緊張しまくりで、短時間に手汗でベトベトになってしまった。そして、またフキフキである。
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