第74話 ガチラー
ミレーユからブラック極まりないボケをブチ込まれ、愕然とする僕に、
「今度はちゃんと焼けたよ」
ミレーユが焼き上がったお肉の更を差し出した。
――!? これ生焼けじゃないか! しかも豚肉だ! 牛肉ならレアで焼き上げる時もあるが、豚のレアはいただけない! 食中毒にでもなったらどうするんだ!
「豚はしっかり焼かないと食中毒になる可能性があるだ。僕が見本を見せてあげるよ」
ミレーユから皿を受け取り、網の上に生焼けの肉を乗せた。
「――!?」
ミレーユは僕の予想外の行動に唖然としていた。
メアリー、ルナール、マリアからアドバイスをもらった事をやってみただけだったが、ミレーユのあの顔を見れただけでも僕はとても満足だった。
一通りファンメンバーと居たが。
「ほかのファンクラブの人達に挨拶してくるよ」
僕はファンメンバーにそう告げると席を立ち収納魔法から飲み物を取り出し、各バーベキューコンロのグループへ挨拶に回った。
ファンクラブ連中や学園関係者にお酌をしながらの挨拶…… 前世の接待を思い出し、頬に一粒の涙がこぼれ落ちる。
軽い挨拶とファンクラブの連中には握手とお酌をし、さらに僕自ら肉を焼き、口まで運び食べさせるというVIP待遇! 連中も号泣しながら、僕のおもてなしを受けていた。
しかし、ただ一人だけ違う者がいた。
誰であろう…… アリシアだった。
複数人のグループではない。広場の片隅で一人、バーベキューコンロを囲んでいる。ボッチ、ソロなど様々な呼び方があるが、アリシアに合う言葉が見つからない……
「アリシア。こんなところにいたのか? 探してたんだぞ」
「アレク様、どうしてここに?」
アリシアは一人焼肉を楽しみたかったのか、僕の姿を見た瞬間、怪訝そうな顔をしていた。
「みんなに挨拶回りしてたんだよね。それでアリシアを見つけてね」
僕はニコニコしながら話した。
「私は私で楽しんでいるので、邪魔しないで下さいね」
アリシアはイラついた顔で僕に言い切った。
「――!? そ、そうなんだぁ。邪魔をして悪かったね」
どうして…… どうして、自然に涙がこぼれるのだろうか……
アリシアは黙々とひとり焼肉を楽しんでいるようだった。
「アリシア」
「アレク様、何ですか? 肉の焼き具合を見極めているので、黙って下さい」
「う、うん……」
僕は何を言ってるんだと思いアリシアを見ると、ヤツは全神経を研ぎ澄まし、異様な殺気に包まれながら一枚の焼肉に集中していた。
『ジュー ジュー ジュッ』
「――今だ!」
アリシアは肉食動物が獲物を狩る如く、鋭い牙で素早く網の上からカルビーを皿に取り出し、こともあろうにアリシアは瞑想を始めた。
約1分程過ぎた頃だろうか、アリシアは目をカット見開き、目にも止まらぬ早さで口に放り込んだ!
「ウマかばい!」
全てをやりきった顔で肉を頬張るアリシア。
――!? マジか!? マジかよコイツ!? 職人か? 職人なのか? ガチの焼肉勢だったとは恐れ入った。まさかこんなところで焼肉を極めしガチのガチ勢がいると想像もしていなかった。
鍋奉行ならぬ『焼き奉行』の称号をアリシアに送り、そして全力で称賛したい。
「アリシア。良いものを見せてもらった。称賛に値する」
「アレク様。ありがとうございます」
「良いものを見せてもらったお礼をしないとないけないな。アリシアは何を望む」
「極上カルビィを所望願います」
「あいわかった。アリシアに敬意を示し、極上カルビィの上を行く、至高カルビィと至高ホルルモンの二品を下賜しようと思う。受けとるがよい」
「ハッハー!」
収納魔法から至高カルビィと至高ホルルモンを取り出し、アリシアに渡した。
「アリシアよ。これからも焼肉道に精進するがよい」
「お任せあれ」
アリシアは至高お肉シリーズを受け取ると、ジロジロと肉を見ていた。そして、クンクンと匂いを嗅ぎ、ペチペチと肉を指で叩き始めた。
ヤツは一体何をやっているのだろうか? アリシアの奇行について問いただす為、直接本人に聞いてみることにした。
「アリシア。一体、何をやってるのだ?」
「ハァ~? 何を惚けた事を言ってるんですか! わかりませんか? この至高のお肉を最上級の状態でどう焼くか、どう味わうか検討しているところなんですよ! これだから、にわか焼肉職人は困るのよ。いいですか、肉の旨味を最大限引き出すのは視覚、嗅覚、聴覚、触覚が大切なんです! 脂の乗りと赤身、スジの入り方、熟成された肉の匂い、肉の弾力性とそこから生み出されるハーモニー! それを究極の木炭で焼く、木炭と網の温度を見極め、肉から出る匂いと煙、焼き上がる音を瞬時に判断。肉を休ませることで、まばらになっている肉の温度を均一に落ち着かせる。表面は絶妙な焦げ、中はレア又はミディアムレア。最高の状態で焼き上がった肉をゲンタレに…… まさに、これこそが至高、究極の極み……」
「ハァ~ そうなんですか」
――コイツ、シャレにならんマジもんのガチ勢だったとは、いや、違うな。ガチ勢の越えられない壁を越えた存在…… ガチラーだ! 恐ろしいほどのガチラーだった! あの料理長ですらアリシアには敵わないだろう…… まさかのバーベキューコンロから始まり、シチリーンを経てアリシアが焼肉ガチラーになるとは予想だにしていなかった。ボッチゆえに焼肉道の沼にハマってしまったのだろう……
アリシアは黙々と焼肉を食べ始めた。僕はその姿に目頭が熱くなり、思わずアリシアを憐れみの眼差しで見つめていた……




