第109話 王太子と皇太子
アイスキーは上段から初太刀。全てを掛けて斬りつける先手必勝の鋭い斬撃が僕を襲う。僕は斬撃の勢いを殺すかのように身体をクネクネさせ、その太刀筋を避ける。
アイスキーは連続で攻撃をしてきたが、その度に避けまくる。酔拳の真骨頂である。そして、両手をまるでお銚子を持っているかのような形にして、アイスキーの顔面に拳を突き刺す! しかし、間一髪で避けられる。お互いに攻める、避けるの攻防が果てしなく続いた。一瞬でも気を緩めれば、大ダメージを追ってしまう。そんなこんな緊張感のある攻防でお互いの体力は消耗して行った。
お互いに決定的なダメージでは無いが、少しばかり攻撃が入るようになった。入ると言っても身体にかする程度なのだが、僕とアイスキーは何故か満面の笑みで闘っていた。それは、離ればなれになっていた親友が出会い、お互いの技量を確認し合っているのかと勘違いしそうな感覚だった…… 多分、アイスキーもそう思ってるに違いない……
「なんか凄く楽しいな?」
僕はアイスキーに声をかける。
「ああ、私もそう思うよ。こんな充実した闘いは経験したことがない」
闘いの中ではあるが、アイスキーは微笑みを浮かべながら僕に答える。
「僕も今まで、こんな経験したことがないよ」
僕も笑顔で返す。僕とアイスキーは一旦離れ、次の攻撃の為に間合いを取った。
「しかし、アイスキー皇太子は強いね。こんなに強い相手に初めて会ったよ」
「フフ、それは私も同じだ。それと私の事は呼捨てにしてくれ」
アイスキーは長剣を構えながら微笑んだ。
「おう、僕のこともアレクと呼捨てにして欲しい」
「分かった。アレクいくぞ!」
長剣を中段の構えから、鋭い突きを何度も繰り返して来た。
僕は負けじと酔拳の酔八仙拳、型の一つ藍采和の型で応戦する。
藍采和とは、女性の仙人で腰をクネクネとくねらすなど身体の巧みな移動が特徴の型だ。
僕も必死に避けるが、アイスキーの剣は僕の身体を少しずつ傷付けて行く。
「フーッ フーッ さすがだアレク。私の突きを躱すとは」
「ハァ ハァ それはこっちのセリフだ。あんな突きをされたら、普通は死んでるぞ」
「当たり前だ。殺すつもりで殺ってるからな」
「殺すって文字を2回も使いやがって!」
「フフッ ハッハハハハハハ」
アイスキーは僕の言葉に大笑いを始めた。
「なんだよ。大笑いをしやがって今は決闘中だぞ」
「イヤ~すまん。つい楽しくてな。こんな形で会わなかったら親友になっていたんだろうなと思ってな」
「ああ、まったくだ。こんな出会い方をしなかったら、二人で何でもつるんでいたんだろうなぁ」
「例えばどんなだ?」
アイスキーは剣を構えながら、現時点とは違う未来図を聞いて来た。そして、僕は違う未来を語る。
「そうだな~ 例えば、二人で冒険に出るのも良いし、フロンガスター王国とグランプロス帝国の未来を語り明かすのも良いかもな」
「アレクと私の二人で冒険かぁ~ それも楽しそうだな……」
「アイスキーとなら何でも出来そうな気がするよ」
「フフッ 私もそう思うよ」
「じゃあさぁ、決闘の文言は全て僕が応じるから決闘を止めないか?」
「――アレク…… ありがたい申し出だが、それはグランプロス帝国皇太子として…… 漢として、それは出来ない…… すまないが、それが私の矜持だ」
「そこを何とか考え直してくれないか? ユリアラ殿と幸せになれるだぞ! 頼む、考え直してくれアイスキー! 親友からのお願いだと思って!」
「――私を親友と呼んでくれるのか…… すまん…… これが私の生き方なのだ……」
「そうか…… ユリアラ殿が君を好きになった理由が分かったような気がするよ」
「――そろそろ私の体力も限界に近付いて来たようだ。決着をつけさせてもらうぞ! アレク」
「ああ、分かったよ。もう何も言わないよ。それと僕も体力の限界だ。次が最後の一手になるだろう。マモォール流最終奥義『鳳凰の舞』で決着をつける!」
「では、私もグランプロス王宮剣術カバール流最終奥義『飛翔天元覇龍』で闘いを終わらせる」
決闘の最終局面を迎えようとしていた。
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