第103話 城壁の攻防
僕らは王都へ向けて出発する。第一軍の面々は山車の後ろに続く。
◇
殺伐とした物騒な一団が、ケーリンネガー王国の王都まで、あと1キロまで迫った。
『ピーーッ!!』
山車の上に乗っている母上が笛を吹く。
その瞬間、統制のとれた軍隊のようにピタリと前進を止めた。そして、山車に乗っていた狂乱鬼婦人会の猛者どもが山車から降りると、
「副会長! 口上をお願い」
「はい。畏まりました」
副会長のバッキーさんが緊張した表情で口上する。
「旭日東天に朝する時、すなわち名誉ある狂乱旗が赫々として敵塁に翻る時を祝す!」
突然サンペータの母親でもある。ユリッペー侯爵婦人がこともあろうに、旧日本陸軍旭日旗を高々と掲げた。
その旭日旗の左下には、狂乱鬼婦人会と横書きで書かれていた。全ての狂乱鬼婦人会の皆様は、その狂乱旗を慈しみの眼差しで見つめいる。さらにバッキーさんは口上を続ける。
「ここに謹んで告別の敬意を表す!」
バッキーさんが口上を言い終えると、今度は狂乱鬼婦人会会長でもある母上が、
「今より、突撃を実行する! 族滅! この二文字の他に言うべき言葉はない! 骨の捨て場所は、戦場じゃ! 突撃!」
「「「突撃ー!!」」」
あまりの出来事に呆然としていると、山車と僕らは第一軍をその場に残し、狂乱鬼婦人会の面々はスタスタと城門前へと歩を進めた。
――おいおい。日露戦争を題材とした超有名歴史小説を実写ドラマ化した。1シーンのパクリじゃないのか?
『『『ヒューン ヒューン』』』
ケーリンネガー王国の兵士とて馬鹿ではない。怪しすぎる婦人達を只黙って指を咥えているわけでは無い。恐れ多くも、狂乱鬼婦人会に向けて、大量の矢を放ったのだ!
大量の弓矢が狂乱鬼婦人会を襲う。
「母上ーー! 危ない!!」
『ハッ!』
母上は頭上に降り注ぐ弓矢に向け、気合いの籠った声を上げる。
その瞬間。大量の弓矢が地面に落ちる。
――ヘェ!? 防御魔法を使った形跡はない。目には見えない不思議な呪いの力で弓矢を落としたのか?
城壁に居た敵兵も口をあんぐりさせ、目を見開いて驚愕している。敵兵も弓矢では抵抗出来ないと判断したのか、魔法攻撃に切り替えた。
大量の火球と稲妻、竜巻が狂乱鬼婦人会を襲う。
「母上ー! お逃げ下さいー!」
僕は恰かも頭が良くて、誰にも心優しい、出来の良い息子のように、母上に向かって叫ぶ。
そして、敵兵の放った攻撃魔法は容赦なく狂乱鬼婦人会に直撃する。
狂乱鬼婦人会の居た場所に土煙が舞い上がり、辺り一面が覆われた。
「――!? ダメだ。もはや母上達、狂乱鬼婦人会の人達は生きてはいまい。ち、ち、父上になんと報告したら良いのだ……」
――もしかしたら、父上は母上の死によって、自分に全権力が戻って来ると喜んでくれるかもしれない。うん、その可能性に掛けてみよう。
徐々に土煙は晴れていく。視界の悪い中、
「――!? 人だ! あそこに人が居るぞ! しかも生きとる。あそこに生きた者が居るぞー!!
一人の将校が土煙に向かって、指を差す。
周りに居た兵士も、その言葉に絶望していた顔から歓喜の表情になり、指を差した方向を見る。
「ホンマや! ホンマに生きて居るぞ! バケモンか!?」
「ヒャッハー!! スゲーぞ! 狂乱鬼婦人会!!」
沸き上がる第一軍の兵士達。それとは逆に僕は……
――母上は。母上は無事か? 毒親でも一応は母上の心配してみる。
土煙が晴れると同時に狂乱鬼婦人会の全貌が明らかになる。
土煙でホコリまみれになったドレスをポンポンと振り払う狂乱鬼婦人会の面々。
――なんだと!? 狂乱鬼婦人会のご婦人方に傷1つないだと! しかもドレスには少々の汚れがあるのみで、傷んでいる箇所が見当たらない。
「母上ー! 大丈夫ですか?」
僕が母上に近付こうと掛けよろうとした瞬間。
「近寄るんじゃない! お前のような軟弱者が近付いて良いは場所じゃない! とっとと下がりやがれ!!」
母上から罵声が降りかる。その一言で僕の心はズタズタに爆散して飛び散ってしまった。
――母上の事を心配しただけなのに酷すぎる。
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