第102話 血の海祭りだ!
――父上を武力で黙らせるとか、あまりにも野蛮過ぎる。しかも、温室ドームの地下に格闘技場があるなんて、誰も想像しないだろ。
「その温室ドーム地下格闘技場で、平民出のバッキーさんがチャンピオンを君臨し続けているということですか?」
「そうよ。狂乱鬼婦人会は貴族だろうが、平民だろうが関係無いの。どこまでも強さだけがすべて。トップ15までが、あの尊い山車山車の上に乗ることが出来るの」
「会長でもある母上は名誉職みたいな感じなのですか?」
「ふぅ~。ここまで頭の悪い子だとは思わなかったわ」
僕の質問に、母上は呆れ顔でディスり始める。
「アレク様。早く会長へお謝り下さい。1分1秒でも謝罪が遅れますと、その分、寿命が縮まるとお考え下さい」
「へぇ!? バッキーさん。それはどういうことですか?」
「会長の強さは、この世のものではありません。私が温室ドーム地下格闘技場でチャンピオンなどと言われておりますが。それは、会長が大会に出ていないからなのです。私ですら会長には手も足も出ません」
「マジっすか?」
「会長と副会長である私との力の差は追い付けないほど差があるのです。
母上 〉〉〉〉 越えられない壁 〉〉〉〉 バッキー
私が会長に勝てるのであれば、私はこの世界で二番目に弱くても構わないと思っております。それほど、会長の実力は神の領域に足を踏み入れているのであります」
「マジですか? それ程までに実力の差が……」
――某有名格闘技漫画の地上最強の親子喧嘩か何かなの?
「母上。軽はずみな発言の取消しと謝罪させて頂きます。本当に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げ、母上に謝罪をした。僕だって命は惜しい。
「分かれば良いのよ。私とて悪魔でも毒親でもないわ。これから王都の城門近くまで行くから、アレク。あなた私達について来なさい」
『ビシッ!』
「光栄であります。喜んでお供させて行きます!」
僕は背筋を伸ばし、母上に敬礼した。
「だんだん、分かって来たようね。じゃあ、アレク。子供達と一緒に山車を引っ張りなさい。副会長! アレクに例の物を!」
「ハッ! 只今、お持ち致します」
副会長のバッキーさんが山車の裏側へと消えて行った。
その場に残された僕に、今まで一生懸命山車を引っ張っていた子供達が、物珍しそうに近寄り、僕の周りを囲んだ。
「そこのうだつの上がらないお兄ちゃん。この法被カッコいいでしょ?」
ドヤ顔の子供達が、僕をディスりながら、法被の背中に書いている文字を見せて来る。
――!? なんだと!!
そこには『滅』と書かれた文字が…… 別の子供の背中には『族』の文字が……
何やら血祭り越えた。得体の知れない恐怖が全身を包む。
「アレク様。お待たせ致しました。こちらが会長御自ら、夜なべをして制作された特別仕様の法被になります」
「副会長さん、ありがとう。これが、母上が手作りされた法被ですか? どれどれ」
母上のことだ。何かしらトラップがあるはず、注意をしなければ。
バッキーさんから畳まれた法被を受け取り広げてみた。悪役令嬢定番の嫌がらせでもある。縫い針でも仕込んであるのかと思っていた。別におかしいところは確認できない。背中の方を見ると……
――!?
『族滅』と書かれてあった。
「さすが会長ですわ! 余程アレク様にご期待されているのでしょう。族滅だなんて、なんて素敵なパワーワードなんでしょ! アレク様、とてもお似合いになっておられますよ」
バッキーさんは僕の物騒極まりない法被姿に目を潤ませなから、うっとりとしていた。
さすが、狂乱婦人会の副会長。ヤベェヤツらとは、また別次元のヤベェ人だった。
「アレクも準備出来たわね。そろそろ出発するわよ。子供達、威勢の良い掛け声をして頂戴」
「「「はい!!」」」
僕は子供達と混ざり、山車を引くロープに手を掛けた。
太鼓と笛の音色が澄みきった青空に響く。
「「「ヨ―イ、ヨーイ、ヨイサーヨイサ、ヨイサーノセー、ア殺ーレ、殺レ殺レ殺レー、もう1つおまけに、殺レ殺レ殺レ殺レー! 血の海祭りだ! 殺ーレ、殺レ殺レ殺レー、もう1つおまけに、殺レ殺レ殺レ殺レー!」」」」
「……………………」
――最初の掛け声より、より一層殺伐してるじゃねぇーか! どんだけ殺りてぇーんだよ!!
「アレク声が出てないわよ! なめてんの? それに子供達に負けてどうするの! そんなことでは国王あとを継ぐなんて、到底出来ないわよ!」
「はい……」
「返事が小さい!」
「はいっ!」
山車の主役の位置から、母上の叱咤激励が飛ぶ!
『ヨ―イ、ヨーイ、ヨイサーヨイサ、ヨイサーノセー、ア殺ーレ、殺レ殺レ殺レー、もう1つおまけに、殺レ殺レ殺レ殺レー! 血の海祭りだ! 殺ーレ、殺レ殺レ殺レー、もう1つおまけに、殺レ殺レ殺レ殺レー!』
僕も子供達に負けないよう、大声で殺伐とした掛け声を叫ぶ。
「殺れば出来るじゃない! 出来るだったら、最初から殺りなさいよ!」
――出来ても出来なくても、母上からの叱咤激励は来るのか。母上は生粋の毒親だからしょうがない。
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