双叉子
名前に含まれる点の数で兄弟の関係が分かるようにしてあります
両親が同じで、生年月日の同じ「杓君」と「凌君」。だが杓君に聞いても凌君に聞いても「僕達は双子じゃない」との返事が返ってくる。さてどういうことか?
よくクイズとして問われるこの問題。正解は「湘君」を加えた三つ子なのである。
僕の名前は杓。現在20才である。そんな僕の幼少期にあった不可解な話をしよう。
僕は一卵性の三つ子の長男として生を受けた。弟は2人。やんちゃな次男の凌と、物静かな三男の湘。凌は両親のいないタイミングでよく湘をからかったり、おもちゃを取り上げたりしていた。僕はそんな凌を諫める。どちらも可愛い弟。お兄ちゃんだから2人とも守ってやらなきゃと考えていた。
でもお父さんもお母さんも三男の湘をあんまり好きじゃないみたいだ。湘の事をあからさまに話題にする時間が少ない。僕からするとやんちゃな凌の方が困り者なんだけど…。
僕達3人の小学校入学の直前にひどいトラブルがあった。お父さんとお母さんは湘を小学校に通わせようとしなかったのだ。僕は泣き喚いてお父さんとお母さんに怒鳴った。お父さんとお母さんは
「分かった!分かったから!杓の言う通りにするから!」
と、ようやくそこから湘用のランドセルを購入し、湘を小学校に通わせることにしぶしぶ了承したのだった。
お父さんとお母さんがそのような差別をしているからか、小学校で別のクラスにいる湘に会っても友人と仲良くしている様子は見られずいつも1人でいる。
【一卵性の兄弟の一人はとても変わっている】
学校の先生や同級生が噂をしている事は耳に入っている。だからこそお兄ちゃんである僕がどんな時であっても湘の味方でいようと誓い、休み時間ごとに湘のいるクラスを訪れ、一緒の時間を過ごすのであった。一方で凌は自分さえ良ければどうでも良いようでマイペースに自分のクラスで友人を多く作り遊んでいた。
小学1年生の夏。僕は訳も分からないまま両親に自宅からかなり距離の離れた病院に連れていかれた。家におばあちゃんがいるものの凌と湘を残していっているので、凌が湘をからかったり、イジめたりしないかが心配だ。病院に向かう車中でも、両親になぜ遠い病院なのか?僕の体に病気が見つかったのか?と尋ねてはみたが、
「そういうことがあるかどうかを検査するため」
という回答でハグらかされた。
病院に着いたらどうせ分かるかな…、注射があったら嫌だな…
なんて考えている内に病院に到着。予約していたようだが1時間ちょっと待たされて、ようやく優しそうなお医者さんの前に両親とともに通された。
座るや否やお母さんとお父さんが本題から入る。
「先生。この子が電話で話した長男なんですけど、やっぱり死産した三男の事が見えているみたいなんです。」
「そうなんです。俺や嫁は死産した三男のことは一切誰にも口外していません。長男と次男を双子として育てているんですが…」
????
シザン?見えている…?三男って湘の事だよね?見えるも何も湘とは一緒に暮らしているんだけど?双子としてってどういうこと??
その後お医者さんから他愛もない話、、、僕の学校の授業の話や友達の話、休み時間での過ごし方、家での生活の様子や弟二人のことについて、そしてお父さんとお母さんのことについても沢山聞かれた。病院って言っていたから、聴診器を当てられたり、注射や手術なんて怖いイメージがあったが、世間話をずっとしているだけで拍子抜けした。しかし1時間程の何気ない話の後にお医者さんが真面目な顔で告げる。
「杓君。君は弟の湘君が見えていると言っているけど、それはあり得ないんだ。お母さんは確かに三つ子を出産予定していて、君達3人の名前もすでにご両親で決めていたみたいだね。でも杓君を産んだ出産の日に産まれるはずだった湘君は生きて産まれて来れなかったんだよ。
お父さんとお母さんは知り得ないと言っていたけど君はどこかでそれを知ったんだよね。相当稀な話ではあるけど出産の日の記憶が残っているのかもしれない。
それでね、君が湘君が見えていることに関しては否定しないし、君が嘘を吐いているとも私達は思っていない。でもできるだけ早めに解決したいんだ。このまま湘君が杓君を見え続ける事は杓君にとって良くないことなんだ。」
僕はそれから月に1回は両親と一緒にその病院に行く事になった。僕自身の学校での悩み事や、見え続けている湘の、家や学校での行動・様子の報告などをしていた。両親やお医者さんは僕と一緒に成長していく湘の姿には興味があるようで、僕は湘の絵を描いてみせたり、湘の声真似をして聞かせていたのだった。
そうして小学校高学年の時分には、しっかりと見えているものの湘は存在していないと認識できるようになり、中学校に上がって以降は湘を目にする事は一度も無くなっていた。両親やお医者さんは症状が落ち着いたと喜んでくれたのだが、それは僕にとってはとても辛い事であり、湘との永遠の別れを意味するのであった。
そして20才となった僕は10年近く湘の姿や声を聞くことができていない。しかし、これからも僕達は仲の良い三つ子であり続けるのだろう。今も凌は湘にちょっかいを出し続けており、凌から湘の近況を聞くことができているからだ。凌、あんまり湘をからかうなよ。お前も含めて愛すべき弟なんだから。