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ヒルガエル  作者: 駄犬
1/20

青々

 日本国に於いて、ギャンブルといえば競馬、競艇、競輪、ひいては法的地位が曖昧なパチンコなどが最もポピュラーだろう。だが、カジノ法案という「統合型リゾート施設整備推進法」が可決されてから、カジノ施設の営業が正式に許されている。だが、実際にカジノ施設の誘致に手を上げる都市は現れなかった。その原因の大半を占めたのは、市民に対する顔色伺いであった。カジノの誘致に消極的になる大義名分にギャンブル依存症があったものの、治安の悪化を懸念する市民の声に敏感に反応した結果だ。そんな中で神奈川県紅羽市は、カジノを含んだ複合観光集客施設の営業を積極的に働きかけ、モデルケースになると踏んだ軽重の異なる様々な企業が関わった。


 当時の市長を務めた高橋仁は、外部のメディアから徹底的に叩かれ、カジノへの印象操作が盛んに行われた。だがしかし、高橋仁は任期を迎えるまで無事に市長の任をこなし、不信任案が持ち上がるような事態もなかった。紅羽市に住む市民は、平均年齢が低く、カジノに対する印象が然のみ悪いものではなかったのだ。ひいては、人流が動くことによる経済効果をひとえに喜び、市長が能動的にカジノの誘致を呼び掛ける姿を支持した。その甲斐あって、全国的にカジノの営業を目指す都市がいくつも現れ、機運はガラリと変わった。間を置かずして顕著に反映される経済効果は、二の足を踏んでいた主要都市の背中を押し、著しく上昇する税収に国は、カジノ単体での営業も許可するようになる。


 当時の俺は、俗世間が騒ぎ立てる報道に対して冷眼を決め込み、半身となって斜めに見る癖があった。学生ならではの青臭い反応であり、上記の事柄を親世代が率先して話題に上げ、熱を帯びたやりとりの様子を軽蔑を込めて、「どうでもいい」という言葉を唾棄の代わりに送った。それを厭世観と呼んで立派に形容するにはやはり、稚気が過ぎた。そしてだからこそ、周囲を煙に巻くような彼の飄々とした身の処し方に目が惹かれたのだ。


 相手の盲点を巧みに利用し、正当に勝ったように見せるイカサマという存在は、古今東西、如何なる時代に於いても鮮やかであり、拍手を送る他ない。その手口は枚挙に暇がなく、カジノが所狭しに密集する経済都市、「紅羽市」では、毎分毎秒、誰かが騙されている。被害者はただ、イカサマを見抜けなかった阿呆と嘲笑され、決して慰められることはない。イカサマを相手にする時必要なのは一つだけだ。「知識」である。イカサマを働く人物から情報を貰いながらも、現在進行形で手練手管を使い騙そうとする者を厳しく観察し、イカサマを看破する。そんな手段を可能にさせたのが、学生の時から付き合いのあった友人、刈谷智だった。彼は極端に集団行動や人混み、人前に立つことを嫌っており、息を潜めることにかけて、突出した才能を持っていた。身体の向きや顔の角度、衆目が集まる機運を先んじて読み取り、素早く死角に回る。もはや現代に生きる忍者のような首尾一貫した立ち回りは、傍目に見ていて“愉快”な奴だと思っていた。だが、そんな彼の魅力に誰一人として気付ず、あまつさえ学校の集合写真を撮った際には、一人欠けていることに教師は見事に失念し、しきりに謝罪を述べるのである。彼からすれば、“失念”は最大の功績なのに。

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