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淫乱ピンクと絶壁ブルー


視点が変わると見えるものが変わるとはよく聞く言葉だ。


一人の美しい女性を巡って二人の男が争う。古今東西よくある話で、男たちの熱いバトル、ヒロインのいじらしい振る舞いに心打たれたものである。だが目の前で繰り広げられている光景、こりゃなんだ。



「楢崎さん、僕の友達が今度イタリアンの店を開くことになったんだ。オープニングパーティーに誘われているんだけど、一緒に行ってもらえませんか」

「いや、それより俺の叔父さんが銀座の画廊で個展をするんだけど是非一緒に行って欲しい。楢崎さんみたいな綺麗な人に来てもらえれば、ギャラリーも華やぐ」


二人の男が一人の美女を巡ってつばぜり合いをする。はかなげな女性はそれを静かに聞いている。切なげに、辛そうに、自分がこの争いを引き起こしたと責めるがごとく。……かに見える。ぱっと見には。だが、西條さんに神の眼を授けられた俺には、違う光景が映っていた。

今にも掴みかからんと火花を散らす男たち、それを見ている彼女の目は大きくたれ下がり、恍惚の色を帯びていた。時折「捗るぅー」とか「取れ高さいこー」とかの言葉が漏れ聞こえるが、ヒートアップした男どもの耳には届いてはいないようだ。……哀れだ。




「……なあ、あれって」


「うん、楢崎の頭ん中では脳内変換されているんだろうね。あの二人のいがみ合いも、恋のすれ違いのスパイスとして。多分あいつの頭ん中ではあの二人、くんずほぐれつしてると思う」


言えねー。あいつらが哀れすぎて言えねー。



いつの間にかあいつらの争いは飲み比べ勝負に移行していた。馬鹿野郎!それは悪手だ。



「りゃからなー、おめえのしょうゆうとこが、きにいりゃねえんだ」


「うっしぇえ!てめへのほうこしょ、このまへぇ約束しゅっぽかしやがって」


赤みを帯びた顔で、呂律のまわらない声で罵りあう。楢崎さんはそれをねっとりとした眼で眺めている。その顔はとても満足気だ。



「……あの顔、小説のプロットが出来たみたいね。商業デビュー前にして煮詰まっていたから、いい刺激になったみたい。これであいつも念願のメジャーデビュー!」


冗談じゃねえぞ。あいつらがモデルの小説が店頭に並ぶのか。……当分本屋には近づかないでおこう。

西條さんと俺は人の不幸を肴に酒を飲む。

片方はしてやったりと欣喜雀躍(きんきじゃくやく)せんばかりに。

もう片方は飲まなきゃやってられねえと(あお)るように。



男たちは酔いつぶれ、墓標のようにボトルが並んでいる。

戦士たちを冥府に導いた、破滅の魔女がやってきた。



「那奈子ー、たのしんでるー。こっちは大漁、大漁。いい作品(モノ)できそうだわー」


ご満悦の楢崎さんがグラス片手にやってきた。頬はほのかに紅に染まっている。



「程々にしなさい。あんまりやり過ぎると次からお呼びがかからなくなるわよ」


「だいじょーぶ!アドレス交換してるから、後からかわいー文章送っときゃ無問題(モーマンタイ)


「相手方の仲間がいる前で舞台裏ばらしてどうすんのよ」


「ありゃ、まずったな、こりゃ。でも那奈子が一緒にいて嫌がってない人なんでしょ。あんた人見知りなんだから、よっぽどじゃなけりゃあ話もしないじゃない。悪い人じゃなさそうね。うん、キミ内緒にしてくれる。黙っていたらおっぱいぐらい揉ませてあげるから」


楢崎さんはその豊満な胸をぷるんと揺らせた。



「いい加減にしなさい!この淫乱ピンク」


「なによ、揺らす乳もない絶壁ブルーはだーとれ(だまってろ)


こいつら、仲いいな。






ボトルの墓標の下に眠る愚かな男二人。

頬を染め語り合う甘酸っぱい男女二人。

両脇に女性二人を侍らせ人生を謳歌する男。

傾国の美女二人の罵り合いを肴に杯を傾ける男。


カオスな夜は、闇が深い。


ついに日間現実世界〔恋愛〕ランキング入り。ありがとうございます。

自分の作品が並んでいるのを見て、震えがきました。

ブックマーク、星評価していただいた方、本当にありがとうございます。

これを励みに、皆様に少しでも面白いと思って頂ける作品を作っていきます。

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