残香
両親がが旅行から帰ってきた。つぐみにはあれから会ってない。
あれでよかったのか。何か間違えなかったのか。
あの日の出来事が何度も頭によぎる。
何度もつぐみに電話してみた。何度もメッセージを送ってみた。
だが、つぐみからの応答はない。
つぐみの家も訪ねてみた。
だが誰も出て来ず、夜に灯りがともることもなく、人の気配がない。
俺は焦燥感に苛まれた。
会社の昼休み、携帯の画面を開く。
連絡はやはりない。受信履歴は3日前が最後だ。
過去の履歴を開く。
『帰り何時ごろになりそうですか』
『野菜もとらないとだめですよ』
何気ないやりとりを幾度も見かえしてしまう。
「なにを見てんだ?」
仙道がにやにやしながら話かけてきた。
「例の彼女か。いいねえ、幸せそうで」
「……そんなんじゃねえよ」
苛立ちを押えられない俺は、ついきつい口調となる。
「大事にしろよ。いい子じゃないか」
「お前、会ったことねえだろ。適当なことを抜かすな」
「そんなもん、話聞けばわかるよ。彼女、お前が昼飯なに食べたか聞いて、お前が食べたい物、体のバランスにいい物作ってくれてたんだろ。なかなかいないぞ、そんな子。いや、料理が好きな子、上手な子はたくさんいるよ。けどそんな子は、『私の料理すごいでしょ、家庭的でしょ』ってどこか誇らし気で押し付けがましい。お前の彼女からはそんな空気を感じない。あくまでお前の為に作っているとしか感じられないんだ」
「……ほっとけ」
「まあ、外野がどうこう言うことじゃないが、無下に扱ったらばちがあたるぞ」
わかってんだよ……そんなこと。
変わらぬ履歴を眺めながら、声にならない声で呟いた。
沈んだ気持ちで一日を終え、会社から出た時だった。
電話の呼び出しが鳴った。急いで携帯を取り出す。
久しぶりに声が聞ける。
心臓が激しく鼓動する。
発信者を見る。……つぐみではなかった。
画面に表示された名前は【川瀬 美桜都】。別れた彼女だ。
思わず乾いた笑いがでる。
一体どうしたんだ、俺は。
こんなにもつぐみを待ちわびていたのか。
そしてどこにいったんだ、少し前までの俺。
美桜都からの、夢にまでみた電話じゃないのか。
どこにいったんだ、あのどうしょうもない濁った激情は。
ここ数週間で俺も変わったもんだ。
今美桜都を前にしてあるのは、昔のアルバムをみる懐かしさだけだ。
心境の変化を感じながら、通話ボタンを押す。
「もしもし……」
元気だったか。どうしたんだ。仕事は順調か。新しい恋人はできたか。何か困ったことはないか……。遠い思い出となった今、穏やかな気持ちで、話せそうだ。
「ふざけんな、馬鹿野郎――――――――――――!」
いきなり罵声を浴びされた。……なんでだ?納得いかん。
「一体何なの、あのつぐみって娘。私にあなたの子供を産めって言ってきたわよ!」
あの馬鹿、なにをやってやがる!
年末ということで本日最低でも二話、出来れば三話投稿します。ぜひご覧ください。
誤字脱字報告ありがとうございました。自分では気が付きませんでしたが、結構間違えていました。助かりました、ありがとうございます。
第一章、ラストスパートかけます。息切れしないようにブックマーク、星評価の応援よろしくお願いします。