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蠢く闇

本作を検索頂きありがとうございます。

この作品と同日に二作品投稿しています。


ハイファンタジーにて

「うちのお嬢様は最強の恋愛戦闘民族サツマナデシコ


現実世界〔恋愛〕にて

「スノーホワイトは増殖する~みんなが恋焦がれる白雪姫、手に入らないなら増やせばいいじゃない~」


よろしければご覧ください。

長い時間のフリーズのあと、必死に立ち直った俺は言葉の意味を再検討した。

駄目だ。意味がわからん。


「なあ、確認したいんだが、『処女を差し上げる』っていうのは、俺と性行為をするっていう事でいいのかな」


「はい、その通りです」


「……俺の事、男として好きだって事か」


「いいえ、親愛の情はありますが、異性としての好意はまったくありません」


キズつくな、ちくしょう!


「体験して、処女を卒業したいとか」


「いいえ、処女かどうかなど、私にとってはどうでもいい事です」


もういい、これは一旦棚上げだ。


「異性として好きじゃないっていうなら、俺の子供を下さいっていうのは、どういう事なんだ。正直そんなに優秀な遺伝子だとは思えんのだが」


こいつが一番の難題だ。俺のことを好きなら、その子供が欲しいというのもわからんでもない。

その前提が崩れれば、どんな思考の迷子になればこういう結論に辿り着くのか、本当に理解できない。



「そうですね、私の言葉はきちんとした因果律に基づいているんですが、説明が不十分でした。これから説明させて頂きます」


教えてもらおうか、どんなアクロバティックな方程式か。


「始まりは6年前です。私が小六、樹さんが高二の時です」


俺たちが疎遠になったあの年だな。


「あの年の夏、私の母親が入院していた事を覚えていますか」


たしか1か月くらい入院していたな。俺もお見舞いに行ったのを覚えている。


「たいした病気でもなく、母はすぐ退院したんですが、その間に私は大変な事態に陥っていました」


ネグレクトとか児童虐待とかだろうか。


「うだるような暑い夏の日でした。 母のお見舞いに病院に行った時の事です。入院病棟の長い廊下で、小さな女の子がうつぶせに倒れ泣いていました。周りに看護師さんも誰もいません。私は急いで女の子に駆け寄りました」


昔から面倒見のいい子だったからな。


「私は『大丈夫、どうしたの?』と声をかけ、体を起こし、抱きかかえました。するとぼたっと低い音がしました。床を見ると根本が腐ったような右手が落ちていました。次いでぼとぼとと音がし、女の子から左手、右足、左足が落ちていきました。私は信じられない光景に何が起きているのか解りませんでした。体は動かず、磁石に引きつけられたように、女の子から目を離すことができませんでした。すると手足を失った肩と太もものあたりから黒い煙が噴き出しました。それは蜘蛛の脚のように何本も生え、それを支えにのっそりと体を起こしました。私を見つめるその顔は、大きく窪んだ(うろ)のような目だけがあり、鼻も口もありませんでした。その女の子は四つん這いのまま、ひたひたと私に近づいて来ました。」


ホラーかよ!


「恐怖で身動きが出来ませんでした。けれど必死に『動け、動け』と念じ、震える足を押さえ、よろよろとその場から逃げだしました。何が起きていたのか解りません。私は恐ろしくて振り向くことも出来ませんでした。ただ少しでもあれから離れたいと息を切らせ、何度も転びながら走り、気がつけば家に着いていました。私はばたんと戸を閉め、急いで鍵をかけました。逃げおおせたとほっと一息つきました。するとドアの隙間から黒い(もや)が入ってきて、家の中が暗闇に覆われました。あれは家まで憑いてきたのです」

 

アクロバティックを予想してたが、次元を天元突破しやがった。


「『あそんでー、あそんでー』と女の子の声が響いてきました。私は恐怖に震えました。そして私はつい言ってしまったのです。

『隣に優しいお兄ちゃんがいるから、そっちに遊んでもらって』と。

 すると声はしなくなり、黒い靄も晴れていきました」


おい、その隣のお兄ちゃんて誰のことだ。なんてことしやがる。


「その後の事は樹さんもご存知の通りです。樹さんは原因不明の40度の高熱をだされました。私はそれを聞き、真実を打ち明けようとしました。けれど自分の犯した罪の大きさと、樹さんに嫌われることに足がすくみ、部屋でうずくまることしかできませんでした。樹さんは瀕死の思いであったのに。……私は最低です」


それは仕方ないよ。まだ小学6年、守られる立場。そんな大人でも逃げ出す恐怖、守ってくれる人に肩代わりさせても仕方ない。


「幸い樹さんは3日後に回復され、私も安堵しました。けれど自分の犯した罪が許せなく、樹さんに会うことが出来なくなりました」


疎遠になったのはそれが原因か。つらかったろうな、もういいんだよ。


「けれど、それで終わりではありませんでした。私は新たな恐怖に直面しました」


まだ続くのかよ。もう俺に心当たりはねえぞ。


「保健体育の授業で、私は知りました。男性は40度以上の高熱をだすと、子供が出来なくなる事があると」


あー、聞いたことがある。噓か本当か知らないが、そういう説聞いたことがある。


「もし樹さんに子供が出来なくなったら、私は罪の償いようがありません。だから私は知りたい。樹さんが妊娠させることが出来るのか。そして妊娠させることが出来るのなら、少しでも樹さんが若いうちにその機会を差し上げたい。その為なら、この身を捧げることを厭いません。私の気持ち、お解り頂けましたでしょうか」


だからなんでそうなる。

思い出した。こいつは天使のような馬鹿だった。


「お願いです。私に樹さんの子供を産ませてください」


透き通った、輝く瞳で、力強く俺に言った。



もう嫌だこいつ。

読了ありがとうございます。

お楽しみいただけましたでしょうか。


同時進行で二作品連載を始めましたので、非常に大変です。

皆様の声援が連載を続ける大きな力となりますので、ブックマーク、下段の星評価を

ぜひお願いいたします

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