ファーストインパクト
本作を検索頂きありがとうございます。
この作品と同日に二作品投稿予定です。
ハイファンタジーにて
「うちのお嬢様は最強の恋愛戦闘民族」
現実世界〔恋愛〕にて
「スノーホワイトは増殖する~みんなが恋焦がれる白雪姫、手に入らないなら増やせばいいじゃない~」
よろしければご覧ください。
休日の早朝、窓から春の暖かい陽射しが差し込んでくる。
かじかむ冷たい冬は去り、命の芽吹きにあふれ輝いた、……陰鬱な空気が支配する日のことであった。
浅い眠りから覚め、眠ることも出来ないが立ち上がることも出来ない。ただじっと佇んでいる。
情けない。なんでこうなんだ。
彼女と別れた。たったそれだけのことだろう。
世界にとっては、本当に取るに足らない出来事だ。
地球を救うヒーローが悪の組織に敗れ、その理由が失恋だったとしたら、誰も納得はしないだろう。
そんな些細なことなんだ。何時までうじうじしてるんだ。
暖かい光が、俺を責め立てるように輝いている。
なにかに追い立てられるように部屋を飛び出し、川沿いを歩く。
沿道では桜のつぼみがほころんでいる。季節も衣替えをしていた。
落ち込んでいても体を動かせば、少しは気がまぎれるようだ。
頭を押さえつける重しもとれ、家に帰り着く。
玄関先に見知った顔があった。
隣に住む「つぐみ」という名前の女の子だ。
5歳年下で、小学生の時は「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と俺に懐き、放課後はよく家に遊びに来ていた。
中学になるとぱったりと来なくなり、それ以来会っても挨拶するだけの関係となっていた。
思春期によるものだろうが、寂しかったな。
「おはようございます」と いつも通りの挨拶をする。それで終わり……のはずだった。
「樹さん、ちょっといいですか。お話したい事があるんです。お時間頂けないでしょうか」
凛とした声で、呼び止められた。
何年ぶりかの会話である。懐かしいとか嬉しいとかはなく、ただ困惑しかない。
ご近所トラブルか!と身構えてしまう。
「ここでいいかな? それとも長くなるなら、ファミレスにでも行こうか?」
家の前だが、俺の家に連れ込むのも、彼女の家に上がり込むのも、どちらも憚られる。
「出来れば樹さんの家でお話したいのですが。他人にあまり聞かせたい話ではないので」
そう言われれば否とは言えない。
「今、家には俺しかいないんだ。夕方には親が帰ってくるから、それからにしようか」
年頃の女の子への対応は、慎重すぎるに越したことはない。
「いえ、樹さんと二人だけで話したいんです」
ここまで言われたらどうしょうもない。
「わかった。どうぞ」
俺は鍵を開け、玄関へと招き入れた。
「お邪魔します。……久しぶりですね。懐かしい、昔と変わっていない」
きょろきょろと見回しながら、リビングへと入って行く。
この子は変わったな。美しくなった。
赤茶けていた髪は、暗闇で染めたような漆黒となり、淡い光を放っていた。
目鼻立ちも、彫の深い引き締まった、意志の強さと知性を感じさせる鋭いものに変容している。
太陽の下が似合う、若草のような美しさだ。
リビングに招き入れ、向かい合ってソファーに腰掛けた。
紅茶に口を付け、少しの沈黙の後、彼女が口を開いた。
「私、K大に合格したんです」
「へえ、すごいね。おめでとう。そうか、もう大学生なのか」
小学生のイメージが残っているので、年月の流れを感じる。
数旬の沈黙のあと、彼女は小さな声で震えるように言った。
「私たちが最後にした約束、覚えていますか」
約束?最後に会っていたのは、俺が高二の頃だよな。何かしたっけ。
「忘れちゃいました? 樹さんが大学に入学したら、私がプレゼントをあげますねって。そして私が大学に入学したら、樹さんがプレゼントをくれるって約束です」
ああ、そんな約束したっけ。高三の時は疎遠だったんで、約束は有耶無耶になったんだよな。
「遅くなったんですけど、私からプレゼント差し上げたいんです。それで樹さんからもプレゼント、頂けないでしょうか」
少しきまり悪そうに、ぽそぽそと話す。
プレゼントの交換か。思春期で距離が出来たが、これを機会にやり直したいという事なら大歓迎だ。
「喜んでお祝いさせてもらうよ。俺に出来る限りの範囲なら何でも。
けれど女の子の好みとかよく分からないんで、希望があれば教えてくれるかな」
軽い雰囲気で訊ねてみる。だがそれを聞いた彼女に笑顔はなく、沈痛な面持ちで俺を見据えた。
「その前にお聞きしたい事があります」
真剣そのものの口調で彼女は言った。
「樹さんはこれまで女の人を妊娠させた事がありますか」
口から紅茶が飛び出した。なに言ってんだこいつ!
「大事なことです。もう一度聞きます。妊娠させた事はありますか」
「ある訳ないだろう!人をなんだと思ってるんだ」
「失礼ですが、樹さんは童貞ですか?」
「童貞ちゃうわ!てか何聞いてんだ」
「失礼ついでにもう一つお聞きします。コン〇ームなどの避妊措置を取らずに行為に及んだ事はありますか?」
「鬼畜扱いするな!そんな事しねえよ」
こいつは一体なにを言っているんだ。今時の高校生はこんな会話をするのか。世代間の断絶はここまで深いのか。
「お答え頂きありがとうございます。それで先程おっしゃっていたプレゼントの件なんですが……」
つかつかと近づき、俺の両手を握り、瞳を潤ませながら言った。
「私の処女を差し上げるので、樹さんの子供を下さい!」
時間が止まるという現象を、生まれて初めて体験した。
読了ありがとうございます。
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同時進行で二作品連載を始めましたので、非常に大変です。
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