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油彩画・夜明けのミモザ  作者: 一初ゆずこ
第2章 昼下がりにはモネの庭で、ミモザサラダとチキンスープ
8/59

2-1 二年後の午前四時

 置時計の秒針が、枕元で時を刻む。午前三時五十分。私は、クッション張りの出窓から起き上がった。

 忍び足でアトリエを歩き、桃色のカーディガンを肩に羽織はおる。あちこちがきしる板張りの廊下を、パジャマ姿のまま進み、私は玄関扉から庭に出る。

 夜風はほんのりと甘い匂いがして、例年よりも暖かい。白いガーデンテーブルと椅子のそばには、季節が一回りして見慣れた樹木が、枝葉をつつましく伸ばしている。り卵のような黄色の花が、ふわふわと丸く寄り集まって咲いていた。柔らかそうな花びらの下、月明かりにぼんやりと包み込まれたその場所で、一人で佇む青年を見つけた私は、安堵あんどの息をそっと吐いた。

 きっと、ここにいると思っていた。月光が落とす花の影を踏んで、木の下にたどり着いた私を、相手は朗らかに迎えてくれた。

「こんばんは。澪」

「こんばんは。彗」

「起きてくると思ってたよ」

 二年前よりも背が伸びた彗は、大人びた顔で微笑むと、私にマグカップを差し出した。私は長い髪を耳にかけると、湯気ゆげが立つマグカップを受け取った。少し粉っぽくて青い甘さに混じって、温かいチョコレートの香りがする。

「ホットチョコレート。澪が、以前に紅茶をれてくれたから、真似まねてみた」

「私も、何か用意したらよかった」

「じゃあ、明日も二人で起きようか?」

「朝、起きられなくなるよ。一限、講義が入ってるのに」

 ささやかな言の葉と、ホットチョコレートの湯気を揺蕩たゆたわせる私たちの頭上には、シナプスみたいな細枝が拡がっている。銀色がかった葉に交じって、小さな黄色の花が揺れていた。

 再会の日から二年たった今も、私たちは二人でミモザを見上げている。それが少しだけ不思議で、くすぐったい。

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