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第5話

 こんなに遠くまで来たのは初めてだった。薄暗い森を、二人はそれぞれランタンで照らしながら進んでいた。そう深くはない森は、上を見上げれば、月が照らしている。

 いつも変わらず同じ場所でまん丸姿のそれは、月影となって辺りを照らす。

 森は静かだった。湖の向こうに道は無い。整地されていないそこで、草を踏む音だけがマギーの耳に届いていた。

 生き物の声も気配すらない森は少々不気味だ。マギーは暗闇に慣れていたが、それでもその向こうに何があるかを、うかつにも想像してしまったものだから、思わず隣を歩くニルの腕にしがみついていた。

 

「どうしたの?」

「……何でもない」


 ここで怖いなんて言えば、ニルは帰ろうと言うに決まっている。何より、言葉にすると恐怖が本物になりそうで、ニルの腕にしがみつく事が精一杯だった。

 まあ、マギーが肩を縮こませてしがみつく姿を見れば、ニルにはお見通しなのだが。


 森を暫く進むと、平坦だった道が少しづつ傾斜に変わってくる。不思議と息苦しさは感じないが、傾斜がマギーの小さな足には歩き難いのか、ペースが落ちていた。

 それでも少しづつ、一歩を前に踏み出しては進んでいた。そして――


「どうやら、山頂だ」


 俯き加減で歩いていたマギーとは違って、余裕があるニルは真っ直ぐに前を見ていた。

 それまで木々で閉じていた視界が広がり、マギーもニルの隣で景色を見渡す。まだまだ鬱蒼とした山々が続く深々とした緑に囲まれたそこで、視界の中にチカチカと光が映り込んだ。

 ランタンに収まる星の光とは比べ物にならない程の大きな光を放つそれは、高く聳える木々を照らしながらもゆっくりとした点滅を繰り返していた。


「ねえ、マギー。あれかい?」

「多分そう」

「マギー、帰ろう。確認したから、もう良いだろう?」

「ダメよ。この目で見なくちゃ」


 そう言って、マギーはまた進み始めた。


「マギー、待って」


 ニルの声などお構いなしに、マギーは歩き続けた。それまでの疲れた様子が嘘だったとでも言う様に、マギーはずんずんと光目掛けて歩いて行く。

 ニルも後を追うが、マギーに歩調を合わせて、淡々と歩き続けるだけだった。


 ◆


 白い光が辺りを包み込む。景色を一変させるほどの光が山を覆い、点滅を繰り返していた。

 眩しい。そう感じると、ニルの足は止まった。光で前が見えず、これ以上進めない。


「ニル?」

「僕はここで待ってるよ」


 光に背を向け、更には手で目を覆いながら、ニルは呟いた。眩しさに慣れていないからか、ニルはその場で蹲ってしまった。


「……ニル、ごめんなさい」

「良いから、早く。終わったらすぐに帰ろう」


 いつも、何にも動じないニルの姿が、弱々しい。それを見ても尚、マギーは箒星の恍惚な光に囚われたままだった。


「(ごめんね、ニル。ひと目見たら帰るから)」


 マギーは一目散に光の中へと飛び込んだ。眩しいけれど、何故だか暖かさに包まれている様で、発光の中でもマギーは瞬きすら惜しんみながら。

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