- 第1章 - 祈祷師6
察したハクは大きなため息を付いた。
『なるべく早く事を急ぎたいが、仕方ない。
では事前に、この山の事を教えてくれ。ごりら山?と言ったな。その所以は?』
宙に浮く事をやめ、俺の右肩に着地する。
「すまねえ…。
ああ、この山は遠くから見ると岩肌が多いんだよ。
その岩肌の形が、ゴリラという動物の顔によく似ているからそう呼ばれてる。」
『なんじゃ、見た目の話か。本来の山名は知っておるか?』
「んーなんだったっけな。」
俺は胸ポケットからスマートフォンを取り出す。
ロック画面を解除し地図アプリを開こうとしたが、
「げ、圏外だ。」
はっきりと通信が途絶えているマークを目にし、項垂れた。
しまったな…。親にはコンビニでアイスを買って来ると言い残して出て来てしまった。
こんな事なら友達の家に泊まるとか、もっとマシな理由にすれば良かったな。
「すまん。山の正式な名前はわからねえけど、確かこの近くに石碑があったはずだ。
そこに書いてないか?」
『む、あれのことか。』
ハクが飛んでいく方向を見て気付いた。
数メートル先に、腰ほどの高さがある石碑が突っ立っている。
懐中電灯で照らし刻まれている文字に目を凝らした。
「鞍…なんとか山?」
風化し所々文字が消えかけている。しかも古典の授業でよく見る旧漢字だらけ。
最初の漢字を読み上げるのに精一杯だった。
しかしハクは何かを察したようだ。
『おお、わしの予想通りならこれは大当たりじゃ!』
その場でポンと一際大きく飛び跳ね、嬉しそうに声を上げる。
『ここに祀られておる者は先祖の忠臣が一人、烏天狗じゃ!』