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天の御言- てんのみこと -  作者: まあしゃ
2/16

- 序章 - ある日2

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『よくやったな。』


どうやら気絶していたらしい。窓から差し込む光に目を細めた。

あれから数時間経ったのか。オレンジ色に帯びた夕日が、俺の長く伸び切った影をゆらりゆらりと弄んでいた。

その様をぼんやりと眺め、はたと気付く。


「夢じゃなかったのか。」


むくりと上体だけを起こし、辺りを伺った。

部屋の隅に鎮座ちんざする隕石いんせき。今だに黒煙を撒き散らし、周辺の家具や壁を真っ黒に染め上げていく。


さらにポッカリと空いた天井が、行き場をなくした黒煙を吐き出していた。


わ、笑えねえ。


今だに目の前の惨状さんじょうが信じられない。嘘のような超現象が起こり過ぎたものだから、出来る事なら夢であって欲しいと願ってしまう。

けれど。それを良しとしないのは…。俺は先ほど負傷した左肩を抑えた。


ちくしょう、この痛みは夢であるはずがない。じわりと広がる鈍痛が体を刺激する。

立ち上がると、足元も覚束おぼつかない。加えて…。


「おい、居るんだろ? ケシゴム犬。」


先ほどの人間離れした声色。頭に直接響く話し方は、否応でも忘れられない。


『なんじゃ"けしごむ”とは。わしならここに居る。』


声の出所を探って視線を巡らすと、居た。

消しゴムサイズの白犬は、隕石のすぐ側に座り首だけをこちらに向けていた。


『まあ、気絶するのも無理はない。

初めてにしては上出来じゃった。』


一応、何か褒めてくれているのだろうが、ふんと鼻を鳴らして言う様はいかにも偉そうでムカつく。


「どう言うことか説明してくれねえか?」


兎にも角にもだ。

言いたいことは山程あるが、先ずは状況を把握したい。

ケシゴム犬に掴みかかりたくなる衝動を必死に押さえ込んだ。


『そうじゃな・・・。』


そんな俺の様子を知ってか知らずか、ケシゴム犬は低く唸る。

そして、ぽむぽむと、腑抜けた足音を響かせながらこちらに近付いてきた。

思わず緩みそうになった頬を引き締める。


『本来なら、お主は平和に暮らして行ける筈じゃった。』


「はずだった・・・?」


あれ、何だか嫌な予感がする。眉間をしわくちゃにした間抜けな表情を見て、またも気が緩みかけたがケシゴム犬から感じるこの雰囲気。

今からとてつも無い爆弾発言をされそうな気がして心臓が高鳴る。あるはずもない非現実な想像をどんどん膨らましてしまう。


『左様。じゃが急を要する事態が起こった故、そうも行かなくなった。』


より一層、眉間にしわを寄せてくしゃくしゃの顔になったケシゴム犬。

真剣な表情のところ申し訳ないが、全く迫力が無い。この珍妙な生体は本当に一体、何者なのか。


い、いやいや無理やり思考を脱線させようとしても無駄だ。

先ほど以上に心音がうるさい。


『これからは一般人を捨ててもらう。』


「は?」


『それも、今すぐに。』


「はあー!?」


俺の叫びを嘲笑うかの様に、カラスの鳴き声が一際大きく響き渡った。


金槌かなづちで後頭部を殴られたような感覚というものは、こういうものだろうか。

ぐわんぐわんと先程ケシゴム犬が発した言葉が頭中で反芻はんすうする。

多少の予想はしていたが、あまりに酷すぎないか?


この世に生を受けて17年。

平々凡々をモットーに、そこそこ平均の成績で文武両道を努めてきた。

友好関係もそれなりに付き合いを大事にしているため、悪くないはずだし、親友と呼べる奴もいる。

極めて普通の、どこにでもいる男子高校生だろう。


そんな日常はこうも簡単に崩れ去るのか。

改めて自身の部屋で起こっている惨状さんじょうを目の当たりにし、自覚した。



俺の平々凡々ライフは、がらがらと崩れ去る音がした…気がした。

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