- 第1章 - 祈祷師13
「あーいや、マジで申し訳ない。」
知らなかったとは言え、幽霊騒動を引き起こしてしまったことには変わりない。
でもそうだとすると、1つだけ腑に落ちない点がある。
「そういや、俺がいる時に鞍馬が見えなかったのは何故なんだ?」
まるで俺を魔除けのように扱うクラスメイト達を思い出して、苛立ちを覚える。
肝試しに俺必須とか言ってたなアイツ等…。
『それは主殿が見つけられなかっただけだと。』
「ん?どういうことだ?」
『ずっと背後の木陰よりお守りしておりましたとも。』
「じゃ、じゃあ俺が居ない時に姿を見せていた理由は?」
『元々、神域なこの山に人々が近付くのを良しとしていなかったのです。』
「…結局は幽霊の姿を良いように利用していたんじゃねえか!」
もしかして俺、誤り損?きょとんとした表情で見つめる姿自体も演技だろうか。
鞍馬の奴、生真面目そうなイメージの癖してちゃっかりしてやがる。
『やれやれ。肩透かし感ではあるが、呪いの類では無くて安心したわい。』
ハクは一呼吸置くと、鞍馬の方へ向き直った。
すると鞍馬は何かを察したのか、直様その場で跪く。
まるで時代劇を見ているような光景だ。俺自身も当事者のはずなのに、今だに場違いであるような気がしてならない。
鞍馬の神域内では、シンと静まり返ったあの不気味な山中である事を忘れるくらい神秘的な景色が続いている。
時折沸き起こる旋風に導かれ、足元の花弁が忙しく走り回る様子は綺麗の一言に尽きる。
思わず見惚れていると、唐突に2匹の会話に引き戻された。
『久しぶりの再会のところ悪いが、急を要する自体に相成った。
鞍馬の協力を仰ぎたい。』
『外にいる不届き者の事ですな。』
『左様。どこの派閥の者かは解らぬが、500年と言う歳月を超えて起こした事件じゃ。
どうもきな臭い。細心の警戒を祓った方が良いじゃろう。』
「そうだった。俺、命を狙われているんだった。」
すかさず俺の呟きを聞き取ったハクは、棘のある視線を向ける。
『ボケっとするなよ馬鹿タレが。目覚めたばかりの鞍馬に加え、わしは半分も覚醒しておらん。
いざとなったら護符を出し惜しみなく使うんじゃ。』
「お、おう。」
『だがまずはこれじゃ。こいつを消さんと始まりもせぬ。』
ハクが指差した先は落書きされた御神体。
描いた本人が言うことでは無いと重々承知の上だが、うん。ひどい。
ぐしゃぐしゃにマジックペンで書き殴られた真っ黒な物体を見て酷く顔を歪めた。
しかもこれ油性ペンじゃないか?
神域内とはいえ全く遜色のない様子を確認し、うへぇと情けない声が出た。