- 序章 - ある日
それは突然だった。
何気ない休日。
部活動から帰宅し、やっと手にした自由時間。最近流行りの漫画を片手に、アイスバーにかじりつく。
「くぅー最高!」
なんて呟いた時だった。
ドォーーーーーーーン!!!!
ベッドに寝転がっていたはずの俺の体は、鼓膜が破れそうな程の衝撃音と共に吹っ飛ばされていた。
部屋の壁に激しく背を打ち付け、あまりの衝撃に息が出来ない。
「ゲホッ、ゲホッ」
無理に咳き込み何とか呼吸をしようと試みたのだが、返って黒煙を吸い込む結果となり余計に息苦しくなってしまった。
途端に酸欠状況に陥り、頭がクラクラする。
一体何が!?
せめて目の前の状況だけでも把握しようと目を凝らしたのだが、今度は蔓延した黒煙で目先真っ暗ときた。
これではどうしようもない。いやその前に、こんな日常離れした現象をどう理解すればいいのか。
意識が遠くなる感覚を覚えながらも、それでも俺は朧げな記憶を必死に辿った。
隕石が降ってきた。それも、俺の部屋に。
窓から新しい風が吹き込み、ほんの一瞬だけ視界が晴れる。
それだけでも記憶を確かにするのに十分だった。
刹那開けた視界の中。さらに隕石は、天井に大穴を空けただけでなく、ベッドを真っ二つにへし折っていた。
煤だらけになったマットレスの上に鎮座するその巨石は、今もモクモクと黒煙を巻き上げている。
アイスはその熱気で溶け落ち、お気に入りの漫画は炭と化していた。
(これ、直撃していたら死んでたんじゃね?!)
冷や汗が頬を伝う。続いて慌てて自分自身を顧みた。
(よ、良かった。)
・・・無傷だ。吹っ飛ばされた衝撃で左肩を壁に打ち付けたものの、じんわりと痛むだけで傷一つない。
多少服が汚れてはいるが、こんな惨状を目の前にして五体満足で居られるとは奇跡と言ってもいいくらいだろう。
「ゲホッ、ゴホン。今までなるべく無欲に生きてきたからかな、ありがとう神様。」
『何を言っておる。ワシのおかげじゃ。』
ああスゲー、非日常を経験したからか、神様と交信出来る様になったのか。
これはもう奇跡と言う他になんて言えるだろう。
『おい、いつまで呆けておる。聞こえておるんじゃろ、ワシの声が。
全く、こんな無理矢理な方法になるとは思っとらんかったわい。』
「神様、思ったよりフランクなんすね。」
『何じゃ、ふらんくとは!しっかりせえ!こっちよ、こっち。』
右頬を誰かにビンタされた。
驚いて足下を見ると、消しゴムサイズの小さな白犬がちょこんとお座りしている。
しかし鼻はないし、薄ら見える眉と、両目も申し訳程度にちょんと付けられているため、"犬”と呼ぶには少々ちんちくりんだ。
だがまあ尻尾と耳がどこと無く柴犬のそれに見えなくもない。
そんな得体の知れないケシゴム犬は、俺の右肩に飛び乗ると思いっきり頬を引っ張ってきた。
『シャキッとせえ!ワシの霊力は未完全なんじゃ。いつまでもこの惨事を守り切れると思うなよ。』
グイグイと遠慮なく引っ張られては堪らない。
「ってえ!何すんだよ、このケシゴム犬!」
小さいくせに力だけはありやがる。
『いいか、今はまだ分からずとも良い。とにかく、今から言う事を復唱してくれ。』
ケシゴム犬は相変わらず俺の頬をつねったまま、ずずいと顔を寄せてきた。
ふざけた見た目とは対称に、その瞳は真剣そのものだ。
近付かれて分かったが、青色の目をしているのな。
隕石の次は得体の知れない消しゴム犬。
未だに状況を飲み込めないが、その気迫に押され頷くしか無かった。
「わ、わかったよ。」
『よし、始めるぞ。』
その言葉と共に突如、風が巻き起こった。
緑味を帯び神秘的に光るそれは、グルグルと俺の身体に纏わりつく。
痛みも温度も感じない。唯一感じ取れるのは懐かしさ。
遠い昔にも経験した事がある様な、何とも言えない不思議な感覚に襲われた。
『祓詞』
続いてケシゴム犬が発した言葉が、ズシリと頭に響く。
一体俺の身に何が起こっているんだ?
自然と口が開き、今まで聞いたことのない言葉を次々に発していく。
『祓戸の大神等よ
禍事罪穢有らむをば
祓へ給へ 清め給へと白す事を 聞し食せと
恐み恐みも白す!』
そうしてふと我に返った時。
部屋全体が真っ白に光り輝いた。
初めまして。まあしゃと申します。
1度見た変な夢から着想を得まして、本作品を書き始めるに至りました。
のんびりペースで更新してまいりますが、楽しんでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。