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覚醒のオーバーロード  作者: Haru
第一章 小さき英雄(リトルブレイブ)編
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小さな英雄(リトルブレイブ)編 CHAPTER Ⅱ. 2

あけましておめでとうございます。

どうぞよしなに。

2.


四人部屋の病室、カーテンで遮られパーソナルスペースを作っているその窓際の一角に昊姉ぇはいた。

ベッドのそばのキャスターには誰かが置いていったお見舞いのお菓子や、ジュース、その隣に透明なガラスの花瓶に活けられた黄色い花があった。

「や!今日も来てくれたんだ。大地。それに・・・白彌くんも」

「うん。まあ、ね。調子はどう?」

「ぜんぜん元気元気!もうずっとベッドの上にいるからひまでひまでどうにかなりそう」

思ったよりも快活な受け答えで少し拍子抜けしてしまう。

そう、これこそが相川昊たりえるところなのだ。どんな逆境でも苦境でも持ち前の明るさと打たれ強さで乗り越える。それができるのが彼女なのだ。

しかし・・・

「え〜!飲み物買ってきてないのぉ?もう、気が利かないなぁ」

空になったペットボトルをプラプラさせながら昊姉ぇは意地悪っぽく怒った顔をしてみせて言った。

「ごめんってば。じゃあ僕そこの自販機で買ってくるから」

「じゃあ俺も行くよ、大地」

白彌くんがいつものようにそう言ってくる。

「ううん、白彌くんはここで昊姉ぇの相手をしてて。こう見えて結構寂しがりなんだから」

「そんなことないよーーー!」

昊姉ぇのわざとらしい反応を見て、僕は確信する。

僕がここにいると、昊姉ぇは弱音を吐けない。本当の気持ちをはき出すことが出来ないんだ。

病室をでて、扉のすぐ近くの壁にもたれかかる。

僕は、なんて無力なのだろう。

扉の奥から、昊姉ぇのすすり泣く声をきいて僕はただ何も出来ない自分を呪った。

病室から出る時に感じた香りが鼻腔をついた。

フローラルの、金色を思い起こす香りだった。


◇◇◇◇◇


・・・気まずい。

大地が出ていき、相川昊と二人きりになっただだっ広い病室にはその彼女のすすり泣く声が響いている。

これを自分にどうしろというのか。大地のやつ、あとで覚えてろよ。そう心で拳を握りしめ、表面では冷静を装いただじっと相川昊を見つめていた。

「ごめん、ね。白彌くん。困るよね。急にこんなの・・・」

「・・・・・・・・・いいんじゃねーの。こんな時くらい。泣きたい時は、泣けばいい。少なくとも今のあんたにはそれくらい、許されてもいいと思うけどな」

「優しいんだ。意外」

意外は余計じゃないか?

なんとなく同じ方向を見つめているのもなにかと思い何の気なしに窓の方へ体を向ける。夕日は山陰に隠れつつあり一際輝きを放っていた。

「・・・ほんとはね、こんなとこ誰にも見せたくない。弱い自分を知られたくない。・・・・・・・・・・・・でも、白彌くんにならいいよね。私たちなんの関係もないただの知り合いだし・・・君に言ったところで君はたぶん、何も感じない。憐れまないし、同情もしない。だから、いいんだよ」

「・・・・・・・・・そうだな。正直言えば、そうなるかもな。でも大地には・・・」

「大地には言わないで!」

言葉を言い終えるより先に相川昊が強く言い放つ。

「大地には、こんな弱いとこ見せられない。見せたくない。明るくてかっこいい、お姉ちゃんでいなきゃだめなの」

「・・・・・・あいつのため・・・じゃ、ないよな」

相川昊の方へ向き直る。

夕日のコントラストが彼女の陰影を際立たせ、より険しい表情を演出する。

「あいつはもう、自分の壁をひとつ乗り越えた。もう、誰かが守ってやるような、そんな弱い人間じゃない」

「たった数日いただけの君には、わかんないこともあるんだよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

相川昊は続ける。

「小さいころに一人だった私に弟ができた。どこから来たのかも、誰が親なのかもわかんない。そんなちょっと変わった、小さな男の子だった」

「知ってる。あいつから聞いた」

「大地にとって私は、夢を見続けさせる存在じゃなきゃだめなの。どんなことがあっても諦めない、そんな存在じゃなきゃだめなんだよ。大地は、大地は・・・ヒーローを、求めてる」

「だからあんたがそのヒーローになる・・・か?殊勝な心掛けだな。感心するよ。でもな、さっきも言ったがあいつは」

「君が・・・!」

相川昊はこちらを見ている。だが、これまでの目線とは違う、どこか敵意を持った目線だった。

「君が・・・奪ったんだよ。大地のための、ヒーローを・・・」

「・・・・・・・・・・・・あんた、まさか・・・・・・」

「私は、もう一度走る。走ってみせる。どんなことがあっても諦めないヒーローに・・・どんなことをしてでもなってみせるんだ」

その思いは、真っ直ぐだがどこか歪んでいるように見えたのは気のせいだろうか。

そこにはもう、悲劇に打ちのめされるヒロインの姿はどこにも感じられなかった。


◇◇◇◇◇

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