小さな英雄(リトルブレイブ)編 CHAPTER Ⅱ. 10
10.
あれから一週間が過ぎた。ここしばらくは雨が降り続いていたためか、久しぶりに晴れ渡った空はどこか清々しい気分を呼び起こした。
学校帰りに、最寄りのスーパーへ寄る。ギフト用品を見ようと辺りをウロウロしていたら、
「おっと、不審者発見ーー!」
「いけませんね、学校帰りに寄り道なんて。小学生は真っ直ぐおうちに帰りなさい」
なんてわざとらしいボケを頂いた。
「不審者じゃないですし、僕は高校生です。そういう冗談やめてくださいよ割とマジでここに来るんで」と、胸元を手で押さえながら後ろを振り返る。
そこにいたのは無事に復帰した笹木先輩と宮嶋先輩だった。
そう、オーバーロードを倒した後、事件の被害者は皆三日以内に無事完治し退院できたのだった。それはオーバーロードがいなくなったことによる自浄作用なのかそれとも昊姉ぇが望んだことなのかは分からない。
だけどこれで当面心配していた問題はおおよそ解決したことになる。ただ一つを除いては・・・・・・。
病室のドアをノックする。
「どうぞ」
と少し落ち着いた声が中から響く。
「や、昊姉ぇ」
「うん、大地」
昊姉ぇは再び走ることが出来なくなっていた。そればかりか、怪我の具合は以前の時より深刻だと言われた。
これが、今回のオーバーロードの力を使った代償、ということなのだろうか。
「大丈夫だよ。走れなくなっても、私は私だから。また新しいことでも始めるよ、きっとね」
「うん!」
けれど、昊姉ぇも僕も以前とは少し変わってきたと思う。自分の弱さも受け入れられる強さを手に入れた。きっとそれは今後もかけがえのない財産になるのだろう。そう、思う。
病室を一緒に訪れた笹木先輩と宮嶋先輩が昊姉ぇに抱きつく。涙を流し互いを許しあう姿をみて、僕はより一層そう感じたのだった。
「いいのか?」
病院の屋上の手すりに掴まり白彌くんが尋ねてきた。「なんの事?」と相づちを打ってみる。聞きたいことは何となく分かってはいた。
「お前、俺の事色々聞きたいんじゃないのかよ」
確かに気になること隠し事があること、考え出したらキリがない。聞きたいことは山ほどあった。そこに僕が不信感を抱いていたこともある。けれど・・・・・・。
「いいんだよ。白彌くんが今はまだ話せないんだとしたら、まだその時じゃないってことなんだと思うし。」
白彌くんの方を見やりながら僕はそう答えた。
白彌くんはただ遠くの方を見つめていた。あの方角にあるのはかつて白彌くんがいたという旧実験都市──通称“ラボ”。
「そうだな、俺もまだ整理が出来てないんだ。俺の事、オーバーロード、そしてお前のこともだ大地」
「僕のこと?」
「お前には、やっぱりなにか特別な力があるんだ。共に戦っていて、それがよく分かった。お前が自覚してないのか、それとも俺がなにか影響を与えたのかは分からない。けどそれはきっと今後必ず俺にとって必要になる。だから・・・・・・」
珍しい。白彌くんでも言い淀むことがあるのか。
「僕に特別があるのかなんてわかんないよ。でも、特別な人はいる。僕にとって大事な友達だ。白彌くん、これからも僕の初めてできた大事な友達でいてくれる?」
「・・・・・・!ああ。もちろんだ」
暮れ行く日差しが、僕たちの行く末を照らしている。そんな気がした。
CHAPTER Ⅱ.END
小さき英雄編 【完】
ここまでお読みいただきありがとうございます。
これにて第一章「小さき英雄編」が完結になります。
また第二章でお会いしましょう。
!予告編!
夏だ!海だ!水着だ!
僕たちを待ち受ける夏の試練!それは、期末テストだ!?
どうしよう、白彌くん!僕勉強できないよ!
このままじゃ、みんなと海に行けないよ〜!
え、君が僕に教えてくれるの・・・・・・?ありがとう〜っ!
・・・・・・それで、君は誰?
次回、覚醒のオーバーロード
「時の支配者」
お楽しみに!