「雪だるま、かな」と姫は言った
応募の都合上、本文は千文字で終わりです。
ハットトリックだ。
うちのサークルの姫と、デートの約束を取り付けたのだ。
『クリスマスって暇? ちょっと付き合ってほしいんだけど』
僕は舞い上がった。
『ほんと? 良かったー』
姫の笑顔は値千金。
『当日は動きやすい服装で来てね』
デートだ。誰がなんと言おうとも。
イヴの新雪。聖なる朝。駅前広場。中央にはクリスマスツリー。
交差点の向こう。遠目にも目立つ彼女。
信号が変わる。駆けてくる。
「おはよっ!」
ふんわりと笑う姫。僕は幸せ者だ。
聖樹に見送られて、バスに乗る。
姫ご自慢の黒髪ロングが、今日は短くお団子にまとめられている。
目的地に着く。大きな一軒家みたいな建物だ。児童クラブ……。
「早く入るよ。——おはようございまーす」
僕たちが入っていくと、特に女の子たちから、定番の質問が飛んでくる。
「違うよ、彼氏じゃないよー」
そりゃそうだ。それと姫はここでも人気者らしい。
「助手、みたいな? そうだね。私の助手!」
都合良く使われている。自分でも笑ってしまう。
そんな助手の仕事。
「お外で雪かき。それと雪だるま、作ってほしいな。みんな喜ぶから」
僕と何人かで雪かきだ。
姫や子供たちはクリスマス会。
サイコロを振って、楽しそうに遊ぶ。
今時ラジカセ、カセットテープで音楽を流す。
最後にはみんなで雪合戦。
「お疲れ様。これお昼ご飯のお味噌汁。おいしいよ。それと干し柿。食べる?」
姫と食べればなんでもおいしい。どんなお菓子よりも、姫と食べる干し柿は甘い。
再び忙しく、時計を見ると、午後三時。
姫と僕は上がりだ。
「今日はありがと。まだ時間ある?」
姫が何かを差し出してきた。
「映画の割引券。クリスマスプレゼント!」
映画館に着くと、客席はがらがら。B級アクション映画だ。クリスマスに見るものではない。
サーファーなサンタクロースと、イースター島のオーパーツ、モアイが大暴れとか、そんな内容だ。
銀幕の前の暗がりは、まるで二人だけの密室だ。
彼女の方を見る。目が合う。
にっこりと、笑顔を見せてくれた。
外に出る。
クリスマスの電飾が映り込む、姫の大きな瞳。まるで鏡のようだ。
「好きです。付き合ってください」
思い切って告白した。
姫は少し考えて。
「雪だるま、かな」
薄く笑みを浮かべて。
「ちょっと不格好な、雪だるま。春には溶ける、雪だるま」
それって……。
「みんな喜んでたから。また作りに来てほしいな」
都合良く使われている。
だけど僕は、姫のその一言で、うれしくなってしまったのだ。
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