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三 男爵親娘

 時刻はもう夕暮れ時で、赤い夕日が沈みかけている。

 少年少女三人の目の前に立ちはだかるは、大きな石造りの立派な建物だ。

 先述した通り、この世界では基本的にはレンガで家が造られるが、高貴な身分の人物が暮らす屋敷や城は、主に石で建てられる。

 そしてこの屋敷も例外ではない。。

「ようこそ、男爵邸へ!」

 煌びやかな装飾の施されたこの建物こそが、ニユの暮らす男爵邸であった。

「男爵邸か……」

 それを見上げ、黒髪の少年ケビンが感慨深げに溜息を吐く。

「どうしたです?」

 その態度に疑問を呈するグリアムだったが、「早く早くっ」と急かすニユによってその言葉は遮られ、一行は中へ入った。

 中も豪華な造りで、玄関ホールの奥には石の廊下が伸びている。そして、その廊下に面し幾つかのドアが並んでいた。

「おかえりなさいませ、ニユ様」

 そこへ、一つのドアが開いてメイド服の中年女が現れ、ニユに声を掛ける。そして少しばかり不審げに少年を見つめ、グリアムに「お客様なの」と問うた。

「はい。旅人の方だそうです」

 メイド達の小声の交換にも気付かず、ニユは黒髪の少年の右肩に手を添え、言った。「この人はケビン。ええと、旅人なんだって。色々あって屋敷に泊まって貰う事になったんだ」

「悪いな」本当に申し訳ないという顔でケビンが謝る。

「は、はい。ご主人様に伝えて参ります」

 中年女は少したじろぎながら、ドアの中へ消えて行った。

 ちなみに彼女はこの屋敷のメイド長。屋敷で働く十人のメイドを統べる役目を担っている。

「……。旦那様、許してくれるか、分からないです。お嬢様は優し過ぎて、本当に困った人です」

 グリアムは吐息し、口の中だけでそう呟いて肩をすくめた。だが決してニユの事が嫌いではない。その優しさに、救われた事があるのだから。

 そんな事をグリアムが考えていると、突然扉が開いて高年の男性が現れた。

 彼は髭を立派に蓄え、きちんとした礼服に身を包んでいる。彼こそがニユの父親でありこの屋敷の主人、男爵だ。

「ニユ、おかえり。随分と遅かったじゃないか。……君が客人だね。食堂で話をしよう」

「お。分かった。待っていろ」

 男爵に声を掛けられた少年は堂々と、少し傲慢な態度でそう答える。

 普通、下級であれど貴族であればかなり敬意を払うのに、この少年はまるで――。

「そんな訳ないよね。……不思議な子だな」

 そう独言し、ニユは軽い足取りで食堂へ駆け込んだ。


 食堂のテーブルには、メイドが作ってくれたほかほかの夕食が並べられている。

「うわー、美味しそうっ。なんだかんだでお昼食べてなかったからお腹ペコペコだよ。いっただっきまーす!」ニユは食事を見回し、いそいそと食べ始めた。

 食卓を、ニユと男爵と男爵夫人、ケビン、そしてメイド長やグリアムを含む約十人のメイド達が囲んでいる。

「俺まで食べて、良いのか?」

「ああ。構わないよ。娘が連れて来た客人だ、もてなすのが当然だよ」

「ごゆっくり食べてね」夫人も笑顔だ。

 ちなみに、男爵親娘は揃って人が良い。こんな人柄で貴族というせこい仕事が務まるのかと言えば、やはり陞爵できずに男爵でいる所以はそこにあるのだろう。

 ともかく、夕食を頂きながらケビンと男爵の談話が開始される事となった。

 ケビンはニユに助けて貰ったという事情を簡単に話したが、男爵に問われてもやはりそれ以外、例えば何者かだとかどうして魔獣に追われてたのかだとかは一切答えようとしなかった。ただ、「俺は十七歳の、訳ありな旅人なんだ」とだけしか言わないのだ。

「ふむ。……そうか。じゃあ、この屋敷で今日は部屋を貸すから、泊まって行くと良いよ。もし手助けできるならするが、何かあるかね?」

 だが、いかにも怪しい少年に、気前の良い男爵は協力を申し出た。

「じゃあ、金を貰おう。そうだな、一億ゲバットをくれるか?」

 ゲバットとは、このドッゼル王国の金銭の単位である。一億ゲバットとなれば、かなりの大金。余裕で五年は暮らせる。

 だが――。

「良いよ。用意しよう」

 無条件で、男爵は許してしまったのだった。

 それに加え、「そうだ。父さん、お洋服あげようよ。ケビンの服、魔物と戦った時に血で汚れちゃったからさ」とニユも施す気満々である。

「あらあら。それじゃあ鞄が必要ね。私ので良ければ、あげるわ」夫人も負けず劣らず良心を剥き出しにする。

「悪いな、ではそれも貰うとしよう」少年は頷き、「済まない」と軽く謝った。

 こうして話は纏まり、美味しい夕食の時間は終わりを告げたのだった。

「はぁ。ご主人様も奥様もニユ様も……」

「お嬢様も旦那様も奥様も、皆さん優し過ぎるです……」

 メイド長とグリアムの嘆きは、誰にも聞こえなかった。


「今日は疲れたなー」

 時刻は夜八時ぐらいだろうか。

 ベッドに横たわったパジャマ姿のニユは、欠伸をしながらそう独り言を漏らした。

 夕食の後、ケビンに渡す洋服を探して屋敷中を歩き回り、昔、男爵が着ていたという古着をケビンに試着させたり、色々とお礼と称して作り話を聞かせてくれたりと、楽しい時間を過ごした。

 そして今、寝ようとしている所だ。

 目を閉じれば、色々な事が頭を通り過ぎる。

 明日は何をしようか。もっとあの少年と話したいが、早朝には帰ってしまうらしい。あの少年はどこへ行くのだろう。何の為に旅をしているのだろう。自分も旅をしたいな、とニユは思った。

 そんな事を考えているうちに、いつの間にかニユは深い眠りの海へと落ちていた。

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