プロローグ
透き通るような青空に、じゃれあうかのように戯れる雲。都へと続く一本道をひたすら歩く。3年ぶりの帰郷。左手には荷物の入った少し大きめの円筒型の袋を持ち、腰のベルトにはフックで釣られた標準サイズの剣が揺れている。朝が苦手な為定期馬車に乗り送れた為、彼は3日かけて歩いていた。両手を上に伸ばし大きなあくびをする。彼の左腕は袖の下から鎧を着ているような金属の手が覗いていた。手越しに空を見る。いつ見ても変わらない空、変わらない風景。3年経った今でも面影が残っている、彼はここが故郷だと安心できる。
「3年か〜。思ったより時間かかったな」
左手に持つ荷物袋を漁り、黒皮の筒を引っ張り出す。ふたを開けて筒状に丸まってしまう癖のついた白い紙を取り出す。内容は簡単に言えば卒業した事が書かれており、本来は堅苦しい言葉が並んでいる。
「あいつに会うのも久々だ」
そういいながら、頭をかき眼をこすりながら都へ歩く。ゴールは近い。
彼が目指す都の一画にある定職屋。カウンター越しに出来たての魚のフライ定食を受け取る。落ち着きのある暗い系の茶色の髪が、肩に軽く触れる。それを耳にかけ嬉しそうにいただきますと箸を取る。中央中立協会、通称セントラル支援の警護騎士派遣会社「ガーディアン」の制服を着ている彼女、制服の上からでもスタイルの良さが伺える。腰には突く事を主とする細身の剣、レイピア系の物をさげている。
「そろそろあのガキんちょも帰ってくるんだっけか」
定職屋の親父が彼女に声をかける。食べる手をとめて口の中の物をコップの水で流し込む。
「そうそう。やっと帰ってくるよ〜ナバルがね」
そういって彼女は微笑む。定職屋内の他の客もあのナバルが、と楽しそうに笑って親父や彼女に話しかける。彼女もナバルもこの都生まれで空白の時間は、セントラル運営の学校でガーディアンになる為の訓練や知識を学ぶ。そしてセントラルの管理下の元世界均衡を保つ為、擬態騎士の管理も行われる。
「リリーの嬢ちゃんもナバルも、ふぉ〜むないとってやつなのかい」
「多分・・・・ね」
擬態騎士。世界中で知らないものはいない言葉、フォームナイト。異世界の住人の力を借り、一時的に異世界の力をまとい人の力を超えた力を持つ者。色々呼び方があり、契約者や降魔などいろいろ呼び方はされていた。昔の事、人は悪魔と呼ばれる破壊者とこの世界を取り合った。絶対的な力を持つ破壊者は人の力を超えた存在であり、人間が敵う相手ではなかった。人々は破壊者を倒す為異世界の力を投入する。異世界の力を宿した人間は一時的に人の力を超越し、破壊者を倒すに至った。しかし破壊者と言う標的を失い平和を持て余した人間は、やがて欲望へと走ってしまった。各国はフォームナイトを利用し大きな戦争が始まった。結局大量の犠牲者と多大な国力衰退により、各国は停戦状態へと入り数百年。各国から人員を出し合いどこにも属さない中央中立協会を作り、各国の戦力を均衡に保つ為フォームナイトの保持数を定め、フォームナイトの全てを協会が情報を管理する体制になっている。
リリーやナバルが生まれたこの都は、各国からはセカンドと呼ばれ何処にも属さないセントラル直属の都として異種国の人々で構成されている。勿論シジュクという名前がある。
「そろそろお昼休み終わりだろ?」
そういわれたリリーは柱時計を見ると、「ん〜」とあわてて飲み込み硬貨をカウンターの上に置いて店を飛び出した。「ったく・・・たりねぇよ」と親父はカウンターに置かれた硬貨を見てつぶやいた。