表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/17

3-2 イケメン令嬢は誰かのために怒りを持ち

 私はマーガレットを抱きしめたまま、言葉をかける。


「マーガレット。君に行われたことは理不尽極まりない。だから、君が望むならば私はなんだってする。復讐(ふくしゅう)にしても、名誉の回復を図るにしても」

「婚約を命じたお父様は、私を見放しました。もう家にも帰れません。名誉を回復したってそれは同じです。それに私は……私は、お姉様と一緒にいられればいいんです」


 マーガレットの連ねる言葉に、私は否定も肯定もせず、ただただ聞いた。

 彼女は一呼吸置いた後、言う。


「でも……(かな)うならば、私の婚約破棄をした婚約者……アンドレを、一発ぶん殴ってやりたいと思ってますの」


 彼女は、身体を離して私と目線を合わせると、目に涙を浮かべながら挑発的な笑みを浮かべた。

 マーガレットは、強い。きっと私が思っているよりもずっと。

 私は(うなず)くと、立ち上がった。


「そうか。では、殴りに行こうか」


 そう言って、マーガレットに手を差し伸べた。


「……はい!」


 彼女は笑顔になって、手を取った。


 その後私は眠っているハリーを(たた)き起こす。ハリーは眠そうな顔を私に向けるが、マーガレットの涙の跡から何かを察したのか、きりっとした表情でその四本足で立ち上がった。




 ヘンリーに一声かけてから、ハリーに乗った私達は、再び私達が暮らしていた街へと戻ることになった。

 今まで隠れていたことが全て無駄になってしまうかもしれない。それでも、私はマーガレットの復讐を手伝いたかった。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 街から抜け出した時のように。ハリーを走らせ続けて三日三晩。

 今回、抜け出した時と違うのは二つ。

 一つは、準備が万全であり、途中で食料を調達する必要がないということ。

 そして、後ろに乗っているのが私の妹であるマーガレットであるということ。


 彼女は、私の背中にぴったりとくっついている。表情は見えないが、きっと楽しそうな表情ではないだろう。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 辿(たど)り着いた私の街では、以前私が見た日常が広がっていた。

 大きな街だ。貴族である私達の顔を覚えている人間は少ない。

 普通に歩いても問題ないはず……だが、念のため特徴的であるハリーは街の外れに待機してもらい、私達はフードを深く被って街を歩く。


「アンドレの居場所は分かるか?」

「はい。一度屋敷に行ったことがありますの。案内はお任せくださいませ」


 自信満々に胸を叩くマーガレットに私は軽く頭を()でた。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 マーガレットに案内されて、辿り着いたのはある屋敷。

 前回元姫の婚約者となったヘンリーが襲われたこともある。警備はきっと厳しいだろう。

 私達はやや近くの飲食店の壁に隠れながら、屋敷の様子を伺う。


 待っていると、アンドレが複数の衛兵と使用人を連れて屋敷から出てきた。馬車に乗って、これからどこかに行くようだ。


「馬車を追うのは目立つな……。マーガレット。あいつの行き先は想像できるか?」

「おそらく、貴族同士の会食に向かっていると思いますわ。場所も分かります」

「分かった。では、そこへ一緒に……」


 そう言いながらマーガレットへ振り返ると、目に涙をためていることに気が付いた。

 本人を目の前にすると、色々思い出して悲しくなってしまったのだろう。


「……悪かった。マーガレット。帰……」

「帰りませんわ。帰りませんとも。一発殴るまでは」


 そう言うマーガレットだが、声も手も震えている。殴りたい気持ちは本当だろう。だが、身体がいう事を聞いていないみたいだ。

 私は、彼女の肩にそっと手を置く。


「マーガレット。私が後を追って、アンドレと話を付けてくる。君はハリーの元で待っていてくれないか。ハリーと一緒ならば安心だ」


 彼女は、こくりと(うなず)いた。

 私は彼女からアンドレのいつもいる場所を聞いて、そのままフードを深く被って駆け出した。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 辿り着いたのは、高級料理店だ。

 貴族が何人か入っているからか、衛兵も多い。だが、人の出入りは自由だ。念のために持ってきた、貴族としての服に着替えると、堂々と入ることが出来る。


 中に入ると、アンドレの姿は見えない。きっと個室にいるのだろう。

 この店で彼が一人になる場所……つまりは、用足し場の入口で、彼の姿を待った。



 もしも来なかったら別の作戦を考えよう。そう思いながら待っていると……予想通り、彼は一人で現れた。


「アンドレさん」


 扉に入ろうとした時、私が声をかけると、彼は動揺しながら私に言葉をかける。


「な、なんだよ……。用を足しに来た男に何か用かよ」

「一つ聞きたいことがあります。何故アンナ姫と婚姻したのですか?」


 怪訝そうな顔をするアンドレだったが、すぐ何かを思い浮かんだような表情をすると、私に近づく。

 そしてそのまま、私の顎に手を添えた。


「なーんだ? 俺に惚れた貴族の子か? いいぜ。中々可愛いし、愛人にしてやるよ」


 そのままキスをしようとするアンドレ。私は……。

 思い切り、彼の頬を殴った。


 ぱしり。と、いい音がする。

 手加減はした。だが、かなり痛かったようで、彼はすぐに歯を噛み締めながら自分の頬に手を添えた。

この度は本小説をお読みいただき誠にありがとうございます。

もしよろしければ、↓のブックマークボタンと☆☆☆☆☆ボタンを押下して頂けると喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ