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2-1 イケメン令嬢は冒険者に恨まれても恨むことはせず

 白馬のハリーを走らせ続けて、三日後。

 私とヘンリーとハリーは、とある村に辿(たど)り着いた。


 私達は、ここに住むことを目的として、村人に話しかける。

 村人は、突然現れた私達に対して優しく接してくれた。しかも村人は皆馬が好きなようで、ハリーの寝床となる馬小屋を貸してくれた。

 だが働かない人間を住まわせてはくれないらしい。馬の方が待遇の良い村だった。

聞けば、同じように突如村に現れて、村人の依頼を(かな)えることで報酬を得ている人間がいるとのこと。


 ハリーの手綱を引っ張りながら馬小屋へ入ると、ハリーは相当疲れていたようで、すぐに真ん中に寝転がった。

 どうやらこの馬小屋は馬の入口と人間の入口の二つがあり、馬の入口も閉められるようになっている。

 人も暮らせそうでいい。しかし、貴族の暮らしから馬小屋暮らし。

 私は大丈夫だが、ヘンリーはもしかしたら嫌かもしれないな……。と考えながらヘンリーに顔を動かすと、真横でヘンリーが私の顔を見ていた。


「……な、なんだ?」

「エリザベスにちゃんと言っていないと思って。君は、僕を愛する人と言った。僕も……君を……あ、愛……愛……」


 言葉にするのは恥ずかしかったようで、口ごもるヘンリー。

 一度ヘンリーは深呼吸をして、真剣な眼差しを私に向ける。


「愛し……うぐっ!」


 その時、ハリーは寝ぼけて左前脚でヘンリーの腹を殴った。

 痛そうに(うずくま)るヘンリー。


「……こいつ、僕のこと嫌いだと思う」

「……そんなことないと思うぞ。大丈夫か……?」


 私がヘンリーに手を伸ばすと、彼はその手を取って、そのまま私を強く抱きしめた。

 私は、思わず驚いてしまう。


「エリザベス! 僕は君を……ぐはっ」


 その時、ハリーが綺麗(きれい)にヘンリーだけを狙って頭突きして、ヘンリーと私を離した。


「こいつ僕のこと嫌いだと思う!」

「……そうかもしれないな」


 がちゃり。と音が鳴り、扉が開く。

村人が扉を開けて私達に「丁度村人の依頼を受けて生活をしている人間が来た」と教えてくれた。

 村人の前で先程の話をするわけにもいかないので、私達はその「依頼を受けて生活をしている人間」に話を伺う事にした。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 男達は、村の端にある木の陰にいた。一人目の男は筋肉質で赤い髪をしている。木に背を持たれては、どことなく見下したような目で私達を見ている。

 もう一人の男は、四角い眼鏡をかけた横幅の大きい男。赤髪の男とは真逆で、おどおどとした表情を向けた。

 私はそんな彼らに言葉をかける。


「突然すまない。私は先程この村に来た者だ。貴方達はここで村の依頼をこなして暮らしているそうじゃないか。私もその依頼を、手伝わせてくれないか? 絶対に役に立ってみせる」


 発言をした後。しばしの沈黙。その後、赤毛の男が噴き出して笑った。


「ぷっははははははははははは!」


 男の唾が私の顔にかかる。汚く思ったが、頼んでいる側なのだから、文句を言える立場ではないかと考え、軽くついた唾を手の甲で拭った。

 だが、そこで怒りを見せたのがヘンリーだ。


「何を笑っている!」

「いやはやこのブスが何を言い出すかと思ってな」

「なっ……!? そんなわけ……むぐぅ!」


 ヘンリーが反論をしようとするも、赤髪の男はその大きな手の平でヘンリーの両頬を(つか)み、口を塞ぐ。


「お前らができるような仕事なんざねぇんだよ。俺達がただの流れもんと一緒にするな。俺は冒険者って奴だ。しかも、騎士学校卒業の冒険者だぜ? そんな凄い奴、他にいねぇよ」


 騎士学校か。私も通っていたな。

 僅かに過去を思い出しながら、大切な人を乱暴に掴まれて私は不快感を(あらわ)にし、腰の剣に手をかける。


「離してくれないか?」


 そう問うと、男は乱暴に手を離した。


「こんなひょろい男と、女。僅かでも俺達の役に立つわけがねぇだろうが」

「この……」


 ヘンリーがまた怒ろうとするが、私は彼の前に腕を出して制する。


「分かった。そういう事ならば仕方がない。ここは出直すとしよう」


 怒りで殴りかかりそうなヘンリーの手を取って、私は男達から離れていく。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 男達に声が聞こえない位置まで歩くと、私はヘンリーに声をかける。


「すまなかったな。止めてしまって」

「いや、エリザベスは正しい。あそこで事を荒立てる必要はなかった」

「そうだな。あそこで馬鹿にされても……。彼らがこなしている依頼を、こなせる自信があったからな」


 私が自信満々にそういうと、ハリーは目を丸くする。


「本当かい? エリザベス」


 私は微笑み、(うなず)くと……村人に話しかけ、タダで薪割りをすることを話す。

 最初は本当に薪が割れるか怪しんでいた村人だったが、タダということでお試し的に私達を使ってくれた。




 そして一週間後の昼下がり。

 村で私一人が(おの)を切り株の上に乗った薪に振り下ろし、割る。太陽の光に照らされて、汗がにじみ出てくる。

 ヘンリーには村の外で薬草を取りに行ってもらっているので、今はいない。


 そんな中、例の冒険者二人組がやってきた。赤髪の男と、四角い眼鏡をかけた太い男だ。

 赤髪の男は、村人を小ばかにしたように話しかける。


「暫く他の村で金を稼いでいたが、その間このちんけな村はどうだった? 俺達がいなくて大変だっただろう。今日からは手伝ってやるぜ」


 自信満々に言う赤髪の男だったが、村人の三十代程の女性は困った笑顔を返した。


「ごめんなさいねぇ。貴方達に頼める仕事なくなっちゃったの」

「……へ?」


 きょとんとする赤髪の男に対して、私は斧の先を切り株の上に乗せ、重心を斧に乗せながら頬杖(ほおづえ)をつく。

 そして微笑みを向けた。


「すまないな。どうやら私達でも村人の役に立つことが出来たようだ」


 男達は、私の背後へと視線を動かす。そこには、大量に割られた薪の山があった。山は私の身長をも超えている。

 どうやらこの量は男達でも想定外だったようで、目を白黒させている。

 赤髪の男が動揺しながらも声をあげる。


「い、一週間でこの量だろ!? 俺ならもっと早くやれるぜ!?」

「この薪は、今日作ったものだ」


 どうやらこの回答は予想外だったようで、苦虫を()み潰したように私を睨む。

 そんな男に、私は言う。


「この村には、私達だけで充分だ」


 男は冷や汗をかきながら目線をうろちょろさせると、怒りをぶつけるように近くにあった(たる)を蹴り飛ばす。


「くそがっ!」


 そのまま赤髪の男も、四角い眼鏡の太い男も走って私の元から去って行った。


この度は本小説をお読みいただき誠にありがとうございます。

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