6-3 イケメン令嬢は幸せを取り戻すために戦い
それから一週間後、中々現れない私に痺れを切らしたアンナ姫は、ヘンリーとマーガレットの公開処刑を宣言した。罪状は、アンナ姫を殺そうとした罪だとか。勿論嘘だ。
アンナ姫は、最大の罪人であるエリザベスが来たら二人共釈放する。と、国民に伝えている。
アンナ姫のことだ。きっとそれも嘘なのだろう。
だが私は敢えて、死刑執行の場でアンナ姫の前に現れることにした。
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空は晴天。
百五十人程の民衆が集まる中、その中心には断頭台から首を出す二人の人間。
ヘンリーとマーガレットが、二人並んでいる。ぐずぐずと涙を零すマーガレットと、無表情で受け入れたかのように見えるヘンリーが対照的だった。
私は、堂々と断頭台へ進む。人々は私の存在に気が付いて、私を避けるように左右へ移動して、私の歩く道が作られていった。
アンナ姫は私の存在に気が付くと、にい。と笑う。
「あら。来たのね。エリザベス・エヴァンス。約束通り、ヘンリーとマーガレットは死刑を辞めて、投獄させるわ」
民衆の手前、そのような発言をする。
「いや、その必要はない」
私は、そう宣言した。
これは賭けだ。ヘンリーとマーガレットが牢獄に戻されたら、きっともう二度と二人を助けるチャンスは訪れない。この場で助け出すために……私はアンナ姫を、騙す必要がある。
「一人で考えていて気が付いたんだ。私は二人のことが大切じゃない。私は何より、ただお前が憎いんだ」
「な、なんですって……?」
迷いを見せてはいけない。この場で二人を殺されたら終わりだ。怪しまれても終わりだ。誰よりも冷徹な目をして、ヘンリーとマーガレットすら騙してみせる。
「二人は別に死刑になっても構わない。だがお前だけは確実に……殺してみせる」
そう言って、私は腰に差す剣を抜いた。
アンナ姫は冷や汗を浮かべる。マーガレットの方を見ては、絶望的な表情を浮かべているのを確認すると、これが嘘ではないのではと焦ってきている様子だ。
「何やっているのよ! こいつを捕まえなさい!」
アンナ姫の命令で、周りの衛兵は私を襲う。
一人が切りかかってくるが、軽やかに避けて衛兵を切りつける。
更に他の衛兵が私に切りかかろうとするが、剣を振り下ろす前に蹴りを入れた。
更に更に、襲い掛かってくる衛兵を次々と切り付けて、地面に衛兵の山を小さく作る。
だがしかし、私だけで国の姫を守る衛兵を全て倒し切れる程、甘くはない。
次々と襲い掛かる衛兵に対して、私は徐々に疲弊していく。
その時、桑を持った民衆の一人が、衛兵に殴りかかった。
民衆の一人に続いて、民衆達が続々と衛兵に殴りかかっていく。
彼らは……私の住んでいた村の人達だ。私がこの場まで呼んだのだ。
「エリーを助けるのよ!」「こんのクソが! お前なんて姫じゃねぇ!」「私利私欲のために権力を使いやがって!」
村人達の数は、総勢五十人。この場にいる民衆の三分の一が私の村の者だったのだ。
しかも、残っている民衆の中には、村人達から話を聞いた近くの町の者もいる。彼らは、慌てる一般人に対して、「これは演出だ」と言って周りを静観に努めさせている。
衛兵の数よりも多い村人に姫は顔を徐々に真っ青にさせていく。
「何よ……! 一体、一体何が起きているのよ! 他に……他に誰かいないの!? 私を守る人は誰かいないの!? 何なのよ無能衛兵共! やめなさいよ……止めなさいよ! エリザベス!」
アンナ姫は罵声に耳を塞いで、涙を浮かべて私に命令をしている。
勿論私は聞く気等ない。
私はゆっくりと、アンナ姫に近づいて行く。
「ひいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
光の反射する剣に恐怖したようで、アンナ姫は震えあがって走って逃げていく。
途中で転んで美しいドレスが泥だらけになるが、恐怖に支配されたアンナ姫はそれすらどうでも良いようで、上手く立ち上がる事が出来ずに半ば這いつくばりながら私から逃げて行った。
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