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6-1 イケメン令嬢は幸せを取り戻すために戦い

 村人達は、それから私達のために活動をしてくれた。

 隣町の人を巻き込んで、私の不当な迫害を広めてくれる。

 私達の行った仕事で、隣町の人が助かっていたこともあり、隣町の人々は、村人達の話を信じた。その隣町の人は、更に隣町の人へ。更に隣町の人は、更に更に隣町へ。


 アンナ姫の行ったことは、少しずつ。ほんの少しずつ広がって行った。



 数日後、ヘンリーは私に声をかける。


「流石エリザベスだね。きっと、僕一人だったらこんな事にはなっていなかった」

「そんなことは……」

「ありますわよ!」


 次に声をかけたのは、マーガレットだ。


「この縁は、この愛は。紛れもなくお姉様が行ってきた力ですわ。私はそんな愛を得られるお姉様が大好きですわ!」


 屈託のない笑顔を向ける彼女の頭を、私は優しく撫でた。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 突如、私達の住む小屋に手紙が届いた。

 差出人は、この村の誰もが知る名前。アンナ姫だ。


 封を開けて、文章に目を落とす。

 内容はこうだ。


「エリザベス・エヴァンス様。貴方と争うのはもう疲れました。

どうか、もう争うことを辞めるために、一度話し合いの場を設けさせて頂けませんか?」


 それは実質の、私達の勝利と分かる手紙であった。

 私の手紙を勝手に(のぞ)き込んだマーガレットが、騒ぎ立て始める。


「こ、ここここれは! 私達の運動があの姫にまで届いたと言うことですわね!」


 対して、同じく勝手に覗き込んで不安げな声を上げたのはヘンリーだ。


「本当にただの話し合いで済むかな? あの姫のことだから、何かを企んでいる可能性も……」

「その心配はご無用」


 ヘンリーの言葉を否定したのは、あまり見ない顔だった。確か、いつも私に薪割りを頼む女性から友達として私に紹介された記憶がある。

 彼は続ける。


「私達は、ここにいる村人から話を聞いた、エリザベスさんの味方です。もしも危険な目にあったら、私達が助けますので」


 そう言う男の周りには、複数の手練れと思わしき人達が立っていた。


「ありがとうございます。……本当に、本当に私は幸せ者です」




★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 それから準備を終えた私は、初めてハリーに乗らずに、村を出た

 男達の用意した馬に乗って、心強い仲間と一緒に、王城まで走っていった。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆




 手紙を持って王城に入ると、アンナ姫の待つ部屋まで案内された。

 数十名が座れるのではないかと思える程長い机の一番奥に、アンナ姫は座っていた。

 その両隣には、ヘンリーが婚約破棄を宣言した時にいた、衛兵もいる。


「アンナ姫。手紙にあった通り、話を伺いに来ました」

「それはご苦労。でも、私から話すことはないわ」

「なっ……!」


 わざわざ人を呼び出しておいて、何を言う。

 そう言おうとしたその時……背後から首元に剣が付きつけられる。


 剣を付きつけた人間は……私を助けると宣言していた男達であった。


「な……何故ですか。貴方達は、あの村の者の友達だったのでは……」

「あぁ、あの村では貴重な果物を育てているからな。大事な友達と言う名の金蔓(かねづる)だったんだが……まさかこんなに金になる存在を連れてきてくれるとは思わなかったよ」


 私を助ける等言っていた時とは打って変わって、下種な笑みを浮かべる男。

 すぐアンナ姫の方に顔を向けると、彼女は状況を説明し始める。


「貴方が村を離れてすぐ、軍隊が村を襲ったわ。大丈夫。まだ村人達はただの怪我で済んでいるわ」

「怪我を……怪我は、大丈夫なのか……!?」

「えぇ。村人達は大丈夫よ。でも、ヘンリーと、マーガレットはさらってここに連れてきている最中よ。そして、貴方の目の前で拷問してあげる予定だわ」

「わ……私には何をしてもいい! だから二人のことはやめてくれ!」

「嫌よ。そうじゃないと貴方を苦しめられないじゃない」


 そう言ったアンナ姫だったが、ふと何かを思い浮かんだような表情を浮かべた。


「あ、そうだ。条件次第によってはやめてもいいわ」

「本当か……!?」

「この二人のうち、どちらか一人だったら助けてあげる。エリザベス。貴方が選びなさい」


 その言葉は、私を絶望に叩き落とす言葉だった。


「そん、なの……」

「選びなさい。」


 どちらも大切だ。選ぶことなんてできない。

 悩む私に、更にアンナ姫は責め立て続ける。


「ねぇ、どちらが大切なの? 教えなさいよ。それとも、どっちも大切じゃないの? どっちも大切じゃないから、選べないんじゃないのかしら? きっとその程度の人間関係だったのよ」

「そんな、わけ……」


 どす黒い絶望が心の底に沈む。上手く息ができない。

 いつものように、余裕を見せるような笑みができない。


 ふと、策が思い浮かぶ。

 アンナ姫が憎いのは私だ。


 ヘンリーと、マーガレット。そして村人達に危害が加えられる前に。

 私が今この場で死ぬのがいいのではないか。

 この状況は、私が死ねば解決するのではないか。


 脅すために私の首元に付きつけている剣が、目に入った。




 その時、甲高い破裂音が耳の奥に響いた。

 音の鳴った方を見てみれば、割れた窓。そこから飛び入っていく白馬。

 村で待っていたはずのハリー。


 そして、その上に乗っているのは、いつか見たピエロの被り物。

 彼は、兄上だ。

この度は本小説をお読みいただき誠にありがとうございます。

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