4-1 イケメン令嬢の兄
「すまないマーガレット。私はこれからこの街でやりたいことがある」
「そうなのですね。どこまでもついて行きますわ!」
「いいや、ついてこなくていい。ハリーと待っていてくれないか」
マーガレットがアンドレを殴って数十分後。人が来る前に逃げた私達は、街から少し離れた木の陰で、そんな話をする。
一人で街へ行きたがる私に対して、マーガレットは不満気な表情をする。
「そんな顔をするな。すぐに戻ってくるから」
私がマーガレットの頭を撫でると、彼女は目を細めて気持ちよさそうな表情をする。
きっと今頃、姫の婚約者を殴った女がいるということで、大騒ぎになっているだろう。本当ならば私が街に戻ることもしない方がいい。
しかし私は、どうしても戻らなければならない理由がある。
「ちゃんと、戻ってきてくださいね。捕まったらだめですよ」
「勿論だ」
私はそう頷くと、彼女の様子を伺いながら街へ戻って行った。
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私が行った場所は、私の住んでいた屋敷だ。
裏門側から様子を伺う。姉妹がいなくなったものの、いつも通り使用人が働いている姿があった。
私は使用人の名前を小声で呼んだ。
「……ルクヴルール」
使用人……ルクヴルールは、私の声で僅かに反応するも、気のせいだと思っているのかスルーしている。
「ルクヴルール!」
もう一度呼ぶと、彼女は周りの様子を伺い、裏門にいる私に気が付いた。
「エリ……!」
叫びそうになるルクヴルールだったが、私が唇に人差し指を添えたことで発言を止めた。
ルクヴルールは手のひらで自分の口を塞いで、私に近寄ると小声で話しかける。
「どこ行っていたのですか。お怪我は……」
「心配かけてすまない。だが、どこへ行っていたのかは……教えられないんだ。今日も、一時的に戻ってきただけだ。私の部屋の忘れ物を取りに。できれば、兄上にも父上にも会いたくないのだが……」
「……承知致しました」
ルクヴルールはそれ以上聞くこともなく、周りの様子を伺いながら私を私の部屋へと連れていく。
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私の部屋へと入ると、以前の日常に戻ったように錯覚する。
懐かしくも思えたし、戻りたい気持ちがないと言ったら嘘になる。だが、私はヘンリーとの日々を楽しく思っているし、私の行動についての後悔は一切していない。
そう確信すると、自然と笑みがこぼれた。
私は本来の目的通り、忘れ物を……ヘンリーからもらった指輪を探す。
確か。引き出しに入れたはずだと考えて、机の引き出しを開けると、想像通り以前ヘンリーの所の使用人からもらった手紙と、指輪が入っていた。
そこで気づく。
この部屋、綺麗過ぎる。
一か月強の期間放置されているには、あまりにも綺麗で埃も見当たらない。
まるで、今も誰かが暮らしているかのような……。
「エリザベス・エヴァンス」
背後から、私の名を呼ぶ声。
低く威厳のある声。名を呼ばれた物は皆震えて、心当たりがなくても謝罪をしてしまいそうなその声。
振り返って見たのは、私の兄だった。
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