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最期の解

作者: 宵千 紅夜

 昼時で賑わう蕎麦屋の隅で、冷たいざる蕎麦をすする。正面では同僚の佐藤が同じように蕎麦をすすりながら、店内に設置されたテレビから流れるニュースに、なにやらブツブツとつぶやいていた。

「また殺人事件だって。最近多いよな、こういうの」

「報道されるから多いように見えるんだろ。こういう事件なんて、きっといつだって同じくらいあったんじゃないか?」

 僕は一応テレビに目を向けるが、ニュースはもうすでに別の内容に移っていた。

「そんなもんかね。でも、こういう事件が増えているってことは、人の気持ちを考えたりできるやつが減って来てるって感じしないか?」

「まあ、そうかもな」

 真剣に受け止めるようにうなずいて、ぬるくなったコップの水を飲みほした。

 くだらない話だ。他人の身になって考えろとかは、世間一般よく言われる事だが、考えたところでそれが正解とも限らないし、理解できたからなんだというのだろう。

 僕の考えなど知る由もない佐藤は、しばらくなんの変哲もない雑談に花を咲かせて一緒に蕎麦屋を出た。

 外に出た瞬間、アスファルトから立ち上る熱気で一気に汗がにじみ、不快感があふれそうになる。ただ、それは暑さのせいだけではないだろう。

「じゃあ、僕はこのまま外回り行くから」

「おう、熱中症に気をつけてなー」

 僕が言うと佐藤は手をひらひらさせて別れを告げた。

 不快感の募る頭を抱えて得意先をいくつか回り、公園で缶コーヒーを飲みながら休んでいると、公衆トイレに一人の男が入っていくのが見えた。その男を僕は知っていた。この公園に以前から居ついているホームレスだ。

 ベンチから腰を上げ、公園の隅のゴミ置き場のようになっているホームレスの住処を横目で覗くと、ゴミに混ざって手ごろなビニール紐があったので何食わぬ顔でそれを拾い上げた。僕は逸る気持ちを押さえて公衆トイレに向かう。

 トイレではホームレスがのんびりと手を洗っているところで、僕はポケットからハンカチを2枚出し、自分の両手に巻きつけてビニール紐がくいこまないようにした。そして、素早く男に歩み寄り首に紐を掛けて引き、悪ふざけでする膝かっくんのように膝を崩させる。突然の事にわけもわからず、バランスを崩した男は水を掻くように両手をバタバタさせるが、やがてガクリと体の力を抜いた。

 スッと汗が引くように、不快感が霧散する。僕は目を閉じてその感覚を享受した。

 数秒後、僕は水から上がった時のように大きく息を吸って吐くと、手際よく男をトイレの個室の間仕切りから天井に伸びるアルミの支柱に括った。ここなら、便器に足を掛け、首を吊ったように見えるだろう。靴を脱がせて床に並べると、僕は公衆トイレを後にした。


 会社に戻り、定時が近くなると、佐藤が今夜飲みに行かないかと声を掛けてきた。

「悪い、今日はちょっと」

「なんだよ、彼女か?」

「まあ、そんなところ」

 曖昧に笑ってみせると、佐藤は合点が言ったようにニヤニヤと笑った。

「午後からなんかイイ顔してると思ったら、だからか」

「ほっとけよ」

 すっきりした気持ちが顔に出ていたのか。僕は照れるふりをして笑った。とはいえ、彼女との約束があるのは本当だった。

 近くの居酒屋で働いている彼女と付き合うようになって一年経った。お互いにあまり干渉しないところなど、馬が合うのかなかなか良い付き合いができている。

 今まで付き合った女性は、僕の事を良く分からないなど言って別れることになったり、つい殺してしまったりと、あまり長く続いたことがなかった。

 僕は普通の幸せな生活を送りたいのにどうして彼女まで手にかけてしまうのか、時々悩むこともあったが、今回はうまくいきそうで、彼女との付き合いは大切にしていた。

 終業時間になり、僕はいそいそと書類を片付けて帰路についた。

 

 約束の時間までは少しあったので僕は一度家に帰るつもりだったが、思いがけず途中の駅で彼女を見つけた。

「ひとみ? どうしたの、こんなところで」

「真人君! あーあ、驚かせようと思ったのに」

 僕に気が付いた彼女は、子犬のように駆け寄ってきた。話を聞くと、予定より早く彼女の用事が済み、時間が出来たので、直接僕の家に赴き驚かせる予定だったようだ。

「なんにせよ、お店の予約した時間には早いし、着替えもしたいし、一度僕の家に来る?」

 無邪気に笑ってうなずくひとみが愛おしいと思う。並んで電車に乗り談笑する。そんな何気ない時間に幸福を確認した。

「君に会えて、僕は幸せだよ」

 手あかのついた言葉だが、彼女は僕を見て嬉しそうに笑う。

「よかった。私もだよ」

 ひとみが僕にちょっとだけ寄りかかるのを、電車の窓ガラスの反射で見て、僕は安らかな気持ちを覚えた。


 アパートに着き、僕は上着を脱ぎながらひとみに声を掛ける。

「今日のお店、楽しみだね」

 数秒の間のあと、彼女が小さくつぶやいた。

「ごめんね。本当は予約とかしていないの」

「え?」

 振り返ろうとした僕の背に強く衝突してくる彼女。すぐにひとみは僕から離れたが、振り向いて確認したその手には何かが握られている。それが何か認識できる前に、今度は僕の胸に飛び込んできた。再び離れた彼女の手は何も持っておらず、それは僕の胸に刺さっていた。

 痛みと息苦しさで僕は床に座り込んだ。ナイフの柄だろう、黒いものが僕の胸の前にある。心臓からは逸れていそうだ。たぶん肺に刺さったのだろう。浅い息を吐きながら、薄く笑った。

「ど……して?」

 かすれる声で彼女に尋ねると、しゃがみこんで、僕の胸に刺さるナイフに手を伸ばした。

「いや、命乞いを……したいんじゃない。きみ……の、話が聞きたいんだ」

 声をかすれさせながらも冷静である僕に気が付いた彼女は目を丸くした後、うっとりとした顔で僕を見つめた。むしろ、泣きそうな顔に見えた。

「こんな反応されたのは、貴方が初めて。貴方を好きになって、本当に良かった」

 僕は彼女の目を見つめてうなずく。いつもと変わらず、いや、むしろいつもよりも生き生きと光を帯びている。それを見て、僕はどこか直感的に悟った。

 ――ああ、彼女は僕と同属なんだ。

 それを運命と言わず、何を運命と形容するのだろう。

 ひとみはそばに座り、僕の髪を愛おしそうに撫でた。

「私ね、愛したものを、自分の手で殺したくて仕方ないの。おかしいよね。変だよね。分かってもらえないよね……。でも、こうすると、とても落ち着くの。とても満たされた気持ちになるの」

 彼女の慈愛に満ちた眼差しに、僕は穏やかな気持ちで目を閉じた。

「心臓を外したから、死ぬまでに時間がかかっているんだね。痛いよね。ごめんね」

 ナイフの柄を握る僕の手の上から、彼女の手が重なる。

 彼女と、僕の境界が無くなるような柔らかな感触に、僕は掠れた喉から息を吐く。

「……かるよ」

 ひとみはよく聞き取れなかったというように首をかしげた。濡れた瞳が綺麗だ。彼女が僕の言葉をよく聞こうと顔を近づける。

「解るわけなんてないんだ」

 僕は自分の胸からナイフを引き抜き、彼女の胸の間、みぞおちにナイフを突き立て軽く引き抜いてから捻りもう一度深く刺して引き抜いた。

 温かい液が僕の手や身体に滴る。

「ま……」

 彼女の血色の良い唇から、僕の名前の切れ端だろう音が洩れる。大きく開かれた目の暗闇には、僕がはっきり映っているのだろう。既に僕の焦点も合わなくなり始めている。

 「わかる、わけなんてない。……でも」

 それ以上は言葉として吐き出すことは出来なかった。

 言葉に出来ても、彼女に聞こえていたかはわからない。

 彼女とは、違う個体だったから、出会い、殺しあうことが出来たのだ。

 最高の幸福を、僕は噛み締めるように彼女の温もりの残る身体を抱きしめた。



『次のニュースです。今朝、アパートの一室で異臭がするとの通報を受け、警察が操作したところ、血まみれの男女の遺体が発見されたとのことです。遺体は死後数日が経過しており、損傷が激しいようですが、身元はアパートの住人の男性と、その恋人とされています。凶器は刃物のようなもので――』

『最近、痴情のもつれで、簡単に恋人を殺す事件が増えていますね』

『刺激の強いメディアが増えすぎたせいでしょうね』

『同僚らの話によると、普段は大人しく人当たりの良い好青年だったそうで』

『いや、そういう人は、ふとしたきっかけから犯罪に走ることは多くて、ですね――』



『先日発見された遺体は、両者とも一本の刃物で刺されなくなっていることから、心中との見方もあるようで、警察は捜査を進めています』

『先生、この件をどう見ますか』

『えー、現代に悲観した恋人の無理心中ということも少なく無くてですね』

『この女性の方は、幼少期に親から虐待を受けており、施設で保護されたとの話もありますが』

『えー、やはり親の愛情を十分に受けられないと、不安定で精神的に病気を抱えてしまうことも珍しくないですね』

『男性のほうも、大学生時代に家族を火事で亡くすという不幸にみまわれておりまして――』




49 名無しさん:2014/07/31(木) 10:49:00.11 ID:xxxxxxx

あのカップル心中事件、俺んちの近くじゃんwww


50 名無しさん:2014/07/31(木) 10:53:01.11 ID:xxxxxxx

アパート凸よろ


60名無しさん:2014/07/31(木) 11:09:11 ID:xxxxxxx

あれ、心中か? まじで

一本のナイフでこ/ろしあえんの? 


61名無しさん:2014/07/31(木) 11:20:07 ID:xxxxxxx

考察マダー? 画像もきぼう


62名無しさん:2014/07/31(木) 11:20:07 ID:xxxxxxx

あー、あれは変態カップルのプレイだからjk


63名無しさん:2014/07/31(木) 11:22:30 ID:xxxxxxx

それが理解できる>62も変態乙


64名無しさん:2014/07/31(木) 11:25:40 ID:xxxxxxx

>61 自分で凸れやw

>62 面白くない、考え直し


65名無しさん:2014/07/31(木) 11:30:40 ID:xxxxxxx

マジレスすっけど、新だの俺の同僚wwwww


66名無しさん:2014/07/31(木) 11:31:00 ID:xxxxxxx

>65けしからん、詳細よろ


67名無しさん:2014/07/31(木) 11:32:10 ID:xxxxxxx

>65 嘘乙


68名無しさん:2014/07/31(木) 11:34:00 ID:xxxxxxx

まじだしwww

彼女の方よく知らんけど、男の方まじでふつーw


69名無しさん:2014/07/31(木) 11:36:10 ID:xxxxxxx

じゃあ、女の方基地外か?


70名無しさん:2014/07/31(木) 11:36:50 ID:xxxxxxx

同僚ってまじかwww


71名無しさん:2014/07/31(木) 11:36:52 ID:xxxxxxx

>68 彼女可愛かった? 写真うp


72名無しさん:2014/07/31(木) 11:38:20 ID:xxxxxxx

>71 彼女可愛かったw 写真は無いんで。あんなんが人を頃すとか信じられんwww


73名無しさん:2014/07/31(木) 11:39:00 ID:xxxxxxx

草はやすなしwww


74名無しさん:2014/07/31(木) 11:40:00 ID:xxxxxxx

結局人の考えていることなんて、理解できんよ


75名無しさん:2014/07/31(木) 11:42:42 ID:xxxxxxx

僕には、わかるよ。



   〔了〕

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