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第3話 斉藤さんは人肌恋しい

 季節はとうに春を過ぎ、ここ大黒天の街も初夏を感じさせる陽気となっていました。世の中では新型コロナウイルスが流行を見せ、斉藤さんの勤めるペンギンテーブルという会社も、社員は在宅勤務の指示が下り、斉藤さんは2ヶ月ほど自宅で仕事をこなす日々が続いていました。


 この日、ようやく在宅勤務の解除された斉藤さんは、久しぶりに公園へとやってきました。斉藤さんは、メガネを掛けた長身の男性とふたりで、いつものようにベンチへ座りました。


「窪田さん…すみません。お忙しいのに、ランチのお時間もいただいて、ごちそうになっちゃって」


「いいんだよ斉藤さん、新卒で入ってきた斉藤さんたちのことは、やっぱり心配になるからさ」


 斉藤さんに連れ立ってやってきた窪田さんという男性は、斉藤さんと同じ人事部のマネージャーで、この日久々に会った斉藤さんとランチを共にしたのだそうです。窪田さんはメガネを直すと、斉藤さんの方に向き直って言いました。


「それで、転職してペンギンテーブルを辞めようという気持ちは――変わらないのかな」


 斉藤さんは窪田さんの方を一瞬向くと、すぐに顔をそむけて小声で言いました。


「窪田さんには――すごく感謝しています。でも…やっぱり今回の人事はあまり納得していなくて、やっぱりあたし…営業の仕事が…したかったです」


 そう言うと、がっくりとうなだれてしまいました。窪田さんは困ったような表情を浮かべて斉藤さんに向かってゆっくりと口を開きました。


「そうか…最初に聞いた時は、斉藤さんは採用の仕事にもすごくマッチすると思ったし、斉藤さんみたいに優秀な人と一緒に仕事できるのは僕もすごく嬉しいなと思っていたんだけど…斉藤さんの気持ちには合っていなかったってことか…」


 窪田さんもまた大きくため息をついて、手に持った缶コーヒーを口にしました。斉藤さんはしばらく黙っていましたが、しばらくすると窪田さんを見て言いました。


「それに…、この在宅勤務の間に…あたし、彼と別れたんです」


「えっ!?」


 斉藤さんから予期しない言葉が飛び出し、窪田さんは思わずコーヒーを吹いてしまいました。




 その頃、「ボク」は、やはり営業を再開したばかりの「肉屋のさとう」の店の前で、奥さんが用意してくれた揚げたてのコロッケにムシャムシャとありついていました。「ボク」を知る大黒天に住む人々が、その姿を見つけては声を掛けていきます。


「あらボク、よかったわねぇ! 久しぶりにコロッケ貰って嬉しいでしょう」


 すると、ボクはその女性を見上げてさも、ハテ? と言わんばかりの顔をしました。それもそのはずです。「ボク」はお店が休みの間もしばしばお店にやって来ては、奥さんにこっそりコロッケを揚げてもらっていたのですから。その様子を見ていた「肉屋のさとう」の奥さんは、見えないようにおどけた表情でペロッと舌を出しました。




「か、彼氏と別れちゃった…の?」


「ハイ」


 突然のカミングアウトに驚く窪田さんをよそに、斉藤さんはいたって真面目に経緯を話し始めました。


「大好きだったんです、彼のこと。自粛が始まる前までは、1週間の半分ぐらいは彼氏のウチで泊まってましたし…当然、彼もゆくゆく結婚をしようと考えてると思ってたんです」


「あ…ああ…?」


 当惑する窪田さんの様子を気にする様子もなく、斉藤さんの口調は徐々に熱を帯びていきます。


「自粛が始まってから、彼もずっと家で仕事してるんだと思ってたんです。そうしたら、仕事が終わってるはずの夜になっても連絡がなくて…ビデオ通話も絶対に出なくて…気になって何度か電話してたら、たまたまポケットに入れてた電話がつながって…あいつ、こんな時なのに別の女と飲みに行ってたんです…」


「……」


「それを問い詰めたら、彼に逆ギレされて…オマエといても楽しくないだとか、オマエとの○ックスなんて全然気持ちよくないとか…そこまで言われて、あたしはコイツの何が好きで一緒にいたんだろう、と思ったらどうでもよくなって別れました…ビデオ通話で」


「…あぁ…」


 窪田さんは斉藤さんの赤裸々なカミングアウトにほぼ絶句したまま、じっと話を聞いていました。時計は昼の1時20分を指していました。昼休みと言うには長い休憩時間のことが、窪田さんはにわかに気になっていました。




「ニャァ…」


「肉屋のさとう」でたらふくお昼をご馳走になった「ボク」は、少し眠そうにしながら公園へと戻ってきました。いつもの、隣のお宅の塀をつたって公園に戻ってくると、久しぶりに斉藤さんが公園にいることに気づきましたが、その横には見慣れない人影がいることが分かり、「ボク」はそーっと公園へと戻ってきました。斉藤さんと向かい合うその人――窪田さんは、身体を斉藤さんの方へゆっくりと向けて時計を見ました。


「大変だったね、斉藤さん…そろそろ、昼休みが終わるから戻ろ…?」


 窪田さんが切り出すと、斉藤さんは突然窪田さんに顔を近づけて叫びました。


「くっ窪田さんっ!! 今日、お仕事の後時間ありますかっ!? …あたし、全額出しますから飲みに行きませんかっ!? …愚痴を聞いてくれませんかっ!?」


「ひいっ!?」


「フニャニャニャアッ!!」


 窪田さんが思わず驚いて大きな声をあげるのと同時に、遠巻きに眺めていた「ボク」も、思わず大きな鳴き声をあげました。すると、斉藤さんがブンッと首を「ボク」の方へ向けると、人差し指を一本立てて言いました。


「…シーッ!」




 夜も深まり、そろそろ日付が変わろうかという頃、「ボク」は店の灯りが戻った大黒天西口商店街をウロウロと歩いていました。店からは、久しぶりのお酒を楽しんだお客さんが笑顔で出てくると、店員が暖簾や店頭のスタンドを片付け始めていました。


 すると、向こうの方から聞き覚えのある声が響き、「ボク」は慌てて身を潜めました。


「ちょ、ちょっと斉藤さん、しっかりして! 駅はこっちじゃないよ! 僕も終電だから、そろそろ電車に…うわっ」


「なぁーんでですかっ、窪田さぁん! わたし、まだまだ話したりないんです…これからもう1件飲みに…おえっ!」


「ちょ、さ、斉藤さん、大丈夫!? しっかりして!」


 窪田さんは、うずくまってしまった斉藤さんの背中をしばらくさすっていましたが、諦めたような表情を浮かべるとちらと腕時計を見て、斉藤さんのことを背負うように、ふたりの駅とは別の方向へと歩いていきました。




<つづく>

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 会話でいきなり○ックスの話とかドン引きしますよね、また読んでる方も、キャラクター設定とかストーリー上必要なのでしょうか?
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