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今までより1話分が長いです。
初めての戦闘シーンです。
是非楽しんでいただければと思います。
ランタナは呆れていた。
いや、アントレもハイドレも呆れた目で僕を見ていた。
「……そんな目で見ないでよ。」
「ウルハのせいで時間が接敵まで7分に延びたぞ。」
「え、だって逃げるって言ったのランタナさんだもん、僕悪くないよ……」
実際、鼻を害する罠は一度も使ってないし、お題は上手く逃げてここまで来ることだけだったし……
「そうだ、ウルハは悪くない。悪いのは指示を出すように指示した私と、ウルハの性格だ。」
指示に従っただけなのに何故僕がこんな言われてるんだ……
「ハッハッハ!気にするなウルハ!すごかったぞ!」
「「「ちょ!アントレ(さん)静かに!」」」
「お、おうすまねぇ」
皆に言われてさすがにへこむアントレさんを放置してハイドレが話を進める。
「アントレにああは言ったけど、この場所にいることは既に割れてる前提で作戦を立てるんだよな?」
「そうだ。ハイドレの耳以上の探知能力のある鼻が8匹もいるからな。」
「足音的にはウルハの罠で手負いが5匹もいるな。」
「さすがウルハだな。 ケガの深さにもよるが、どの罠も致命傷は与えられない軽いものだろうから戦闘で興奮状態になればほとんど関係ないかもな。」
「アントレの言う通りだ、さすがに戦闘経験が豊富だな。今回は接敵早々に手負いの5匹を落とすぞ、作戦はこうだ……」
接敵1分前まで話し合い、作戦が決まった。
◇
人間たちを追う途中、小賢しい罠がいくつもあり、ヤングウルフの長はイライラしていた。
中でも仲間の大半がケガをした罠が特に長をイラつかせた。
最初は小石がバラ蒔かれており、こんなもので転ぶとでも思っている人間たちを嘲笑しながら小石を蹴散らすようにその場を駆け抜けた。
しばらく追い駆けるとまた小石が散りばめられいた。前方を駆ける仲間たちが走りながら蹴散らそうとした瞬間、仲間たちの呻き声が一斉に鳴く。
バラけた小石の中に鋭く角張ったトゲののような石が紛れており、皆それを踏んでしまったようで、中には運悪く深くトゲが刺さった者もいた。
後方を走っていた長を含む3匹のみがその被害を受けなかった。
トゲが刺さった者を置いて行く方法もあったが、それでは数の利が活かせないため、仲間のトゲを抜いてすぐに後を追った。
◇
ヤングウルフたちがゾロゾロと森から出てくる。
ここの奴隷になる前だったらただ死を覚悟する光景だ。
けれど、今は違う。一緒に狩りをしてきた3人がいるなら、この森での戦闘だけだったら負ける気がしない。
岩場に隠れつつもすぐに飛び出せる位置で準備をして待つ。準備といっても布地を口と鼻を覆うように着けるだけだ。
ランタナは、ヤングウルフたちから見て正面にある一際大きい岩の上に堂々と弓矢を向けて立っている。
一匹のヤングウルフがピクリと動いた瞬間に矢を飛ばした。ランタナがもう一度放つために矢を装填しようとしたところでヤングウルフの一匹、恐らく長と思われる個体が吠えた。
矢の装填中に襲いかかるとは卑怯!などとは思わない。この作戦はそれを考慮した作戦だからだ。
ランタナさんを中心として左に僕とアントレさん、右側にはハイドレがそれぞれ隠れていた。そして、左右両陣にあるモノをそれぞれ持たせていた。
そのあるモノをヤングウルフの咆哮と同時に、ヤングウルフと僕たちの両陣営の中間ラインに投げた。
駆け出したヤングウルフのちょうど目の前にそれは落ちた。落ちた瞬間、一気に粉が舞う。
ヤングウルフたちの刹那の動揺、そして鼻をツンザク刺激臭。
この隙を突かない狩人はいない。
刺激臭に悶えるヤングウルフを岩場がから飛び出て3人で1匹に急所を刺し、斬り、確実に何匹も倒していく。
僕たちのリーダーであるランタナさんも粉が舞った瞬間に、ヤングウルフたちの隙を突くように、装填から射出まで流れるような一連の動作で粉の中僅かに捉えた先程の長を目掛けて矢を放った。
ヤングウルフたちを屠る最中、矢が地面に刺さる音が聞こえた。
「みんなごめんだ!長やれなかった!ノルマ数やれたなら下がって!」
バックステップで前方を警戒しながら大きく僕、アントレさん、ハイドレの3人は下がった。
粉が晴れ、ヤングウルフたちの数を確認する。
「残り3!予定通りだランタナ!」
持ち前の大声で報告をするアントレさん、その声は5匹狩れた、と心を落ち着かせてしまった僕の背を伸ばさせた。
……まだ、終わってない。
「長の牽制は私がする!
アントレとウルハで1匹!
ハイドレが1匹!
早く片付けた方から長を狙うぞ!」
「「「了解!」」」
数の差を確認した長が僕とアントレさんの方に飛び掛かろうとするが、ランタナさんが矢でそれをくい止める。弓矢の腕前は既に成人の冒険者並み、或いはそれ以上だ。
ヤングウルフ3匹との攻防は既に3分以上は経っていた。生死をかけた正面からの戦闘においてその時間はあまりにも長かった。
1秒後には死んでいるかもしれない。その心理状態は体力も精神力も一気に磨り減らした。
今この時にようやく分かった。狩人にとって、正面からの戦いは不得手であり、数で勝っているからという理由だけでは種族としての差を埋めることは難しいという当たり前の事実を。
先に場を動かしたのはヤングウルフの長だった。
今までランタナさんの矢を避けつつ他2匹のヤングウルフに手助けしようと試みていたが、ここに来て方針を変えた。
ヤングウルフの長はランタナさんの矢を避けつつランタナさんの方へ駆け始めた。
ヤバイ、と背筋を垂れる汗が一気に冷える。その一瞬の硬直を見逃さなかったアントレさんが怒声を上げる。
「ウルハァ!!行けぇ!!」
「はいっ!!!」
アントレさんは普段のように攻撃を盾で受けていている最中で、動けないこの状況を打開すべく動ける僕に喝を入れた。
「だ、ダメだ!当たらない!ウルハ!来るな!誤射しかねない!」
想定と全く別の形となり、自分の矢が完全に読まれてしまってることを察したランタナさんは完全に落ち着きを欠いていた。
僕は全速力で駆けながら叫んだ。
「ランタナさん!集中してください!」
「あ、当たらないんだ!ダメだ!来るな!来るな!」
「ランタナァ!集中しろぉおおお!!」
僕らしくない、強きで大きな声。
それはアントレさんの影響だろう。
しかし、僕らしくないその声はランタナさんにしっかり影響した。
ランタナさんは一瞬目を見開きすぐに集中を取り戻した。
「ふぅっ………!!!」
ランタナさんは息を吐ききって、ある一点に集中した。それはヤングウルフの長がランタナさんに牙が届く2歩手前、その眉間。力強く引き絞った渾身の矢を放つ。
血が派手に渋く。
けれど、その血の量は些か少なく感じた。
そう、これは"勘"だった。
この長、まだ動く。
そう感じてから、体は流れるように、さも当然かの如く、自然に動いた。
ランタナさんに向かって飛び上がったヤングウルフ。
僕は、その飛び上がるのと同時にヤングウルフの真横に位置を取り体を捻らせて、マシェットを振り上げる構えを取っていた。
ランタナさんの目前に飛び上がったヤングウルフは、下腹をマシェットが斬り飛ばされ、首の中心である脊椎の部分に矢が突き刺さった。
そのため、上体が地面に矢諸とも突き刺さり、下半身は血の雨を降らしながら宙を舞った。
刹那の攻防を戦闘の片目で見ていた他のヤングウルフたちは体がピクッと一瞬止まり、その隙をアントレさんとハイドレが突き、戦闘は終了した。
◇
完全に腰を抜かしたランタナさん。
長時間の生死の駆け引きで、身体、精神ともに疲労しきったアントレさんとハイドレ。
1秒も満たない世界を体験し、もはや何が起こったかも分からず、ただ漫然と仰向けに倒れ落ちた僕。
川上特有のゴロっとした大きな石を踏みしめる足音、その音がゆったりゆったりと僕たちに寄ってくる。
その足音の主は僕の真横に足を並べ、僕の顔を覗き込んだ。
「どうだった?」
僕を覆うようにその人は立った為、表情は影の中なはずなのに、ニコニコとやけに爽やかな笑みを浮かべているのが分かる、この場にそぐわない声音で、その人はそれを訊く。
「…………スッとした」
「そうか、スッとしたか。
ウルハくん、今真っ赤だよ?」
「…………いいね」
「隊長、ランタナちゃんが死にかけたよ?」
「怖かったね」
「討伐奴隷、どんなもんだい?」
「…………最高だね、皆好きだよ。」
「それは良かった。僕も君たちが大好きさ。少しおやすみ。」
「…………うん、オズマンさん、おやすみ。」
◇
木漏れ日を浴びながら騎馬で木々の合間を縫うように抜ける。
今日は待ちに待った討伐奴隷の彼らと会う日だ。
「古株のアントレ、頑張り屋さんのランタナ、暴れん坊のハイドレ、それから問題児のウルハ、4人とも元気してるかなー?」
会いたくてつい顔を思い浮かべてしまった。
「オズマン坊っちゃん、嬉々とする、のは大変良いことでございます。
けれど、屋敷内では重々お気をつけくださいませ。」
白髭の老人、身長はそれほど高くないが、伸びた背筋と着なれた戦闘装備がよく似合う、私の信頼のおける側近。
「ハハハ、ま~だ坊っちゃん扱いしてくれるのは爺様だけだね。
屋敷の当主降りた途端に『孫の側近になる』なんて前代未聞じゃないか」
この側近の老人は私の側近という肩書きだけでは足りない。
元領主。
元屋敷の当主。
元最高峰の冒険者。
私の爺様。
「元々こっちが性分なんですよ坊っちゃん。ほら、爺は剣技とても上手ですし、頭良いですし、坊っちゃん大好きですし。」
「ハハハッ相変わらず爺様は考え方がすごいなぁ、合ってると言えば合ってるとは思うけど、私は弓使いなんですけどね。」
「その根っからの弓使いに冒険者トップクラスの双剣を叩き込んだ爺は坊っちゃんにとって必要でございます。」
「ホントにおもしろいな~、そんな自己主張の激しい側近なんて中々いないよ爺様」
この側近らしからぬ自負の現れは違和感しかなくてずっと笑ってしまう。
「その双剣を討伐奴隷に1本ずつくれてやったということは、見込みがあるということですな?坊っちゃん。」
「もちろんさ、ハイドレかウルハ、そのどちらかが爺様と私の双剣の後継になってくれるよ。」
「内、片方はまだ5歳と聞きましたが?」
「うん、つまりそのぐらいの逸材かもしれない。って思ったのさ。」
爺様は「ほぅ……」と言って白く立派な髭を手でなぞった。
そろそろ彼らの拠点に着くといったところで、異変に気付く。
「これは……」
「戦闘中のようですな、どうやらこの付近で。いかがなされますか坊っちゃん?」
「彼ら討伐奴隷も狩りには慣れてるだろうけど、戦闘となると少し話が変わるね。足跡でなんのモンスターか特定してから行動を決めよう。」
「賢明な判断かと。」
まだ18と言えど、既に戦争や戦闘、あらゆる戦場に既に何度も投入された私には、争いの空気感を察するのは慣れたものだった。
すぐに足跡も見つかり行動を決める。
「ヤングウルフの群れか。数は8匹。」
「救援に向かわれますか?」
「いや、群れへの対処ぐらいなら、この森の中を生き抜く彼らなら出来ると思う。
襲われたという形になってるから、群れの後方を離れて歩く子供たちと子守り役のヤングウルフの存在を忘れているかも知れないね。
先にそっちを片付けようか。」
「人間に恨みを持った個体は人の集落や町を襲う可能性が非常に高い。
坊っちゃんが屋敷から離れ冒険者を始めたと聞いた時は心配もしましたが、しっかりと成長なされて、爺は感激です。」
「大袈裟だよ爺様、さっさと片付けて私の愛しの討伐奴隷たちを爺様に紹介したいんだ!」
私は意気揚々に馬を駆けた。
ヤングウルフの子供たちを対処し、彼らの戦場へ向かうと中々厳しい攻防をしていた。私は弓矢を構える用意だけして戦場の行方を見守った。
ランタナちゃんが長と思われる1匹を牽制し続け、アントレとウルハで1匹、ハイドレが1匹ずつ狩るという算段だろう。
「これは……
まずいかもしれませんね、坊っちゃん」
「そうだね、他の2匹を早く狩らないと、そろそろランタナちゃんの矢が読まれる。」
私は群れの長がランタナへ駆け出すのを待った。そうなったらこの戦闘は"負け"と言っても過言ではないからだ。
「厳しいことをなさろうとしてますな、坊っちゃんは。」
「ハハハッ、爺様がそれを言うかい?
双剣教え込まれた時、こんな危険が日常茶飯事だったじゃないか」
「愛ゆえです。」
「私もそうさ。」
懐かしい無駄話が済んだところで、ちょうど群れの長がランタナちゃんへ向かって走り出した。
私はそのタイミングで空高くに向かって矢を放った。普通だったら「どこに撃っているんだ」と怒られそうだが、私の場合は違う。これで、当たるという確証が私にはある。
ランタナちゃんにその牙が迫る直前に、その矢があの長の首を真上から射抜く。この芸当が私が冒険者トップクラスの弓使いと呼ばれる由縁だ。
爺様もそれが分かったのだろう、矢を放った段階で「見事」と言ってくれる。
これが外れたら私の大切なランタナちゃんが死に、討伐奴隷たちの士気も瞬く間に低下するというのに。
爺様と私は群れの長が駆け出したあとをじっくりと目を見張った。
アントレが叫び、ウルハが猛スピードで長を追い、ウルハが叫ぶ。
ランタナが矢を射るが、ヤングウルフの特に骨が硬い眉間を狙ったのが失敗だった。このまま爺様と私の読み通りの展開になるかと思ったら、違った。
ランタナの射出に目が行ったこともあるだろうが、現トップクラスの冒険者である私が見えなかった。
ウルハがヤングウルフの真横に位置を取り、私が授けたマシェットを振り上げようとしていたのだ。
次の瞬間、矢はヤングウルフの首を真上から穿ち、マシェットが下半身を上に吹き飛ばした。
その光景に鳥肌がたった。
「爺様……今の見えた?」
「残念ながら、小さき戦士の勇姿、目が追えませんでしたな。」
百戦錬磨の爺様でさえ目で追えなかった。
「逸材どころじゃないね、これは……」
自身の戦いに全身全霊を掛けていたアントレとハイドレも戦闘を終えたところで、私も馬から降りて、彼らを労うために歩み寄った。
まず話し掛けるのは、今回の功労者だ。
「………どうだった?」
僅か5歳の少年は満面の笑みで、
「スッとした」と、そう言った。
異世界転生モノで、物心着いた時期に前世の記憶を引き継ぐ作品って結構ありますけど、いつも思ってたんですよね。
前世の知識を持つ前の生活の解説って説明回みたいになっちゃうのなんとかならんかな。って。
もういっそのこと物語にして書くか。ってなったんですけど、皆さんの趣向に合いましたかね?まぁ評価の程はよく分からないんで趣向に合え。むしろ合わせて。
三が日は仕事です。




