5「転生1ヶ月前」
転生前のお話です。
変則的な書き方なのは重々承知ですので、お楽しみください。
大晦日も仕事です。
帰国したらガキ使見ます。
荘厳とした森林。木々が揺らめき木陰から覗く木漏れ日がゆったりとした自然の流れを感じさせる。
けれど、その大自然の環境下では激しく生存競争が行われていた。僕たちも、言わばその生存競争の競技者だった。
木々が揺らめくようにユラリユラリと颯爽と駆ける一匹の狼。その狼の目前に矢が射られた。矢は狼を射抜くことはなかったが、行く手に矢が飛んできた狼は驚き、すぐさま後方へ跳び跳ねる。進行方向を即座に左へ駆け行く。
「左行った!アントレ、ウルハ!仕留めてよ!特にウルハ逃げ腰だったら晩飯減らす!」
呆気ない幼さのある娘の声が木々を震わせる。
「相変わらず言い方キツいな、ランタナは!」
アントレさんは、先程の声の元の少女、ランタナさんへ文句を溢しつつ、噛みつくために大きく口を開き飛びかかってきた狼に鉄の棍棒を噛ませて受けた。
「ウルハ、俺が引き付ける!ち
ゃんと狙えば討てるぞ!」
「う、うん……」
生物の生殺与奪に躊躇いがあるわけじゃない。ただ、獣たちの"生きる"という覇気に圧倒されてしまう……
今回の狼はアントレさんに覇気も殺気もぶつけているため、手に持つマシェットを振りかざすだけだった。
一連の動作は迷いなく行えた。
「ふぅ……」
「ウルハ!よくやったな!晩飯あるぞ!」
アントレさんの豪快な祝辞に笑いがひきつる。めちゃくちゃ良い人なんだけど、この人もまた獣のような覇気を纏っている。
そのため、一挙一動にビクついてしまう。
「おい、アントレ、お前の声が大きいからウルハがビクついてるぞ。少し黙れ。」
僕とアントレさんの背後から先程のキツい言い方の少女、ランタナさんが相変わらずキツい言い方で声を掛けた。
「それにしても、今日はよくやったぞウルハ。」
ランタナさんは僕の雑に伸びた藍色の髪をワシワシと雑に撫でた。ランタナさんは僕より顔半分ぐらい身長が高く、鋭い目付きをしていて、アントレよりも威圧感が強かった。
「あ、ありがとう。ランタナ……さん」
「何度も言ってるがランタナで良い。ここではバカな大人もお前を怒声で無理強いをする大人もいないんだ。お前が齢5つだとしても気にせず私のことはランタナと呼べ。
もういっそ隊長命令ってことでそうしろ。」
「俺もさん付けはむず痒いからアントレで良いぞ?ガッハッハ!」
「黙れと言ったはずだぞアントレ。」
「え、それ永続なのか!?」
漫才を繰り広げ始めた二人の間で相変わらず引きつった笑いを浮かべている僕の後ろから人が近付いてきていた。
二人が気付く様子がないので、後ろを振り返ると、そこには誰もいなかった。
「あれ?……あぁ。」
そこで、なんとなく気付く。
また"お遊び"であると。
「こっちかな?」とすぐ左にひょいと避けると、さっき僕が立っていた場所には、手刀が空を切っていた。
「くっそ、またハズした。なんでバレたんだよおチビ。」
手刀の主は不機嫌そうに僕を見た。
僕は質問にしばらく考えて考えた末に応えを言う。
「…………勘。」
「応えになってねぇぇえ!」
再度、手刀を構え直して僕に振りかざそうとするが、それをいつの間にか漫才を終えたアントレさんが後ろから抑える。
「落ち着けハイドレ、何を不貞腐れてるんだ。」
そう言ってランタナが手刀をハイドレの頭に入れる。
「うるせぇ!不貞腐れてなんかねぇ!
獲物がこっちに来ねぇし!ウルハはチビのクセに一発も攻撃が当たんねぇ!俺にも狩らせろ叩かせろおおおお!!」
そうジタバタするハイドレを必死に抑えるアントレさん。
その前で手をV字サインにして正拳突きのように体を半身下げて構えるランタナ。
アントレさんがランタナさんの動きをハイドレに実況しだす。
「はっはっは!大丈夫だハイドレ、すぐに落ち着くぞ!ランタナが構えたからな!」
僕は呆れて溜め息を漏らす。
ランタナは次の瞬間ハイドレに物凄い勢いでアッパー……ではなく、鼻フックを繰り出した。
鼻フックに捕まったハイドレはフグッとか言ってる。
「鼻血出てなきゃいいけど……」
呆れてそんな言葉しか出なかった。
◇
ハイドレが鼻血をダダ漏れにしながら気絶しているため、アントレが介抱をする。
「ふむ、戦闘バカも落ち着いたことだし、ヤングウルフの討伐証明と剥ぎ取りを頼むぞウルハ。」
「あ、うん。」
この部隊の隊長であるランタナの指示に従い、討伐証明の尻尾と耳をマシェットで切り落とし、その他の部分を剥ぎ取り用のナイフで解体して行く。
「今日は領主様のご子息、オズマン様が昼過ぎに拠点に来るらしいから、その時に討伐証明を渡すぞ。」
「あぁ、いらすのですか……
僕らここ一週間水浴びしてませんけど……」
「失礼な、乙女である私はちゃんと毎日浴びてるぞ。」
「あ、はい。
わざわざ安全な川下まで毎日行ってたんですね。」
「一応な、オズマン様が急に来ることもあるからな、部隊の隊長くらいまともな格好してないとオズマン様の面子もあるだろう。」
「あぁ、まぁ、そうですね。」
「ウルハもオズマン様には義理がありだろう?私たち討伐奴隷はそういうところで義理を果たすしかない。」
「義理はありますけど……
隊長まだ12歳の子供じゃないですか。」
「12歳以上の奴隷は、魔物や獣を狩る討伐奴隷にすることが出来るのだから、主の命なら仕方ないだろう。
それよりも、ウルハがこの場にいることがおかしいんだ。いくら屋敷の人間が、落ち着き過ぎて5才には到底思えない、一周回って怖がいと言っていたからというだけで、討伐奴隷になるのもおかしいだろ。」
「あぁ、そのことですか。
隊長ってどこまで僕が奴隷になった経緯知ってます?」
「いや、何も聞いてないぞ。オズマン様は『優秀な5才児を討伐奴隷にしてランタナの部隊で育てろ』としか言われてない。」
「えーと、僕の住んでた所って領主様の領地の外れの孤児院だったんですけど、そこが魔物に襲われたんですよ。」
「あぁ、その事件なら知ってるな。
結局、魔力体、つまり魔法の類いでしか感知、討伐が出来ないレイスの仕業だったから、魔力の専門家である魔法団に一任した件だな。」
「そうなんですね。
僕は襲われただけなんで、詳しいことは知りませんけど。」
しかし……とランタナは口元に手をあて僕に疑問を投げる。
「けれど、その時には孤児院の者は全滅したと……」
「まぁ、そこが話の肝ですね。
荒らされた院の中で僕を見つけたのはオズマン様なんですよ。
あの人、凄すぎます。」
その時のことを思い出して少し笑えてくるぐらいだ。
「院の荒れ具合、死体の損傷、痕跡からレイスの仕業であることをその場で見抜いてたんですよあの人。」
さすがはオズマン様だな、と自分のことのように微笑むランタナ。
「それで、さっきのランタナ……さんの話した通り、レイスは魔力体ですから、力のない孤児院が奇襲されれば、それは為す術なく蹂躙されるところなんですが……」
そこでランタナがハッと事情を察する。
「知っての通り僕って勘が良い方なんですけど、魔力体であるレイスにもその勘が当たっちゃったってことなんですよね……」
「魔法の類いでしか感知出来ない魔力体のレイスを感知した……?」
「魔法って珍しいですからね。
魔法の適正があると分かれば魔法団に引き取られて魔法養成所で育てられて魔法団の所有物として扱われるのが普通らしいですから。」
「魔法の適正者を囲いたいという領主様方の考えってことか。」
「まぁ、戦闘という概念から離れた生活をしているお屋敷の給仕の人や、お嬢様には『惨劇から一人だけ生き残った気味の悪いガキ』ってことで評判がすこぶる悪かったということや、屋敷勤めの通常奴隷にさせても魔法は覚えないということで、討伐奴隷になったってことです。」
「そんな理由があったのか。
確かにお嬢様にお会いすると『蛮族』だのなんだのと罵られた気もする。
戦闘という概念からは遠そうだな。
でもその話だと、ウルハ、お前がそこまで落ち着いてる理由の説明にはならないだろう。」
そのことについては流石に自分でも分からないため困り果てる。
「世の中には5才で既に魔法を使いこなす天才もいれば超常の力を持った天才もいると聞きますし、落ち着いてるぐらいで騒ぎ過ぎですよ……
僕だって好き好んで落ち着いてるわけじゃないのですから……」
「確かに我が国シンバの噂に名高い王子には超常の力をその身に宿しているとは言われているが、シンバ民の眉唾だろうに……」
「真実は伝聞より奇なり、かもしれませんよ。」
「だから、どこでそんな言葉を覚える5才児がいるんだ!」
「屋敷にいる時にオズマン様が本を沢山読んでくれたんで、その時に覚えました。」
「なんだそれは!うらやま……じゃなくて、お前は奴隷だろ!どうしてそんなことになるんだ!」
「僕、屋敷に引き取られた時は、まだ孤児院を襲われただけの子供でしたから、奴隷になったのはここに来てからですよ。
そんなことより剥ぎ取り終わりましたよ。僕が持ちますか?」
「そんなことではない。大事な話だろ。どうしてまた話す気になったんだ?
アントレが体力あり余ってるからアントレに持たせる。」
「大事ですかね?オズマン様と会うの久々だから、話したくなったんだと思いますよ。」
「そうか……でもまぁ、オズマン様には戦闘ではとんだヘタレであるっとてことはしっかり説明しないとだけどな。」
「あぁ……まぁ、はい。
否定する気起きないです。
というかないですね。」
すると、背後でガバッと飛び起きたハイドレが僕に指さして怒声をあげる。
「そうだそうだ!ウルハ、なんでいつも冷静で勘が良いくせに戦闘ではあんな逃げ腰なんだ!まぁその方が俺の年上としてのメンツが立つけどな!ギャッハッハッハ!」
「ハイドレ、また鼻にほしいのか?」
そう言って指を構えるランタナにハイドレはヒッと怯えた。
「まぁまぁ、流石にビクらせ過ぎだぞランタナ、Vサインに怯える男とか可哀想だろ。」
「う、うるせぇよアントレ……
体格ばかりデカいくせに……」
「ちゃんと筋力も体力も隊一番だぞ?見ろこの筋肉を!」
見せびらかす筋肉にランタナが苦言を申す。
「そんな暑苦しいものはしまえ。
早く拠点に戻るぞ。」
「しまえって、どこにだ!?」
漫才をしつつ二人とも帰り支度を始めたため、それに続くように荷物をまとめる。
ハイドレは出番がなかったため既に荷物はまとめていたようだ。手持ち無沙汰なのか、僕に声を掛けた。
「おい、おチビ、ランタナと何話してたんだよ。」
「ん?あぁ、昔話、ていうか僕がこの隊に入った理由だよ。」
「ふん、なら良い。」
右手を首裏に当てながら、話を切り上げようとするハイドレ。
だけど、僕は知っている。この動作をするハイドレは隠し事や後ろめたい事、あまり言いたくないことがあるということであると。
「ハイドレって元々ランタナさんと幼なじみなんだっけ?」
「ん、あぁ、そうだけど、それがどうした」
「うん、ハイドレってランタナが好きなのかなって思っただけ。」
「っ!?はっ!?ちげぇし!ちげぇし!お前ウルむぐっ…!」
と、また大声を上げようとしたハイドレの口を手で塞ぐ。
「またランタナに鼻に突っ込まれたいなら止めないけど……」
ハイドレが嫌そうな顔をして僕の手を払いのける。
「誰にも言うなよ……」
そう言ってそっぽを向くハイドレに苦笑いを向ける。「マジかぁ……」と口から溢れる。
5才児にも嫉妬するほど純朴で狂暴な幼なじみの少年と領主様のご子息で冒険者としても名高い青年かぁ……
「まぁ、僕には関係ないか……」
思いがけない青春要素を流しつつ拠点へ足を向ける。
道中、漫才の後ろを大人しく口笛を吹きながら歩くハイドレを横からガン見して歩く。
「なんだよ」
鬱陶しそうな言い方と表情にクスっと笑ってしまう。こんな粗暴でも人を好きになるという点は変わらないんだな、と。
「いや、まぁ、大変そうだなって。」
「それに関しては俺も否定しねぇよ……
よりにもよってなんでランタナになんか……」
「ランタナさんはいつもだけど、ハイドレもちゃんとオズマン様は慕ってるんでしょ?」
「ちゃんとってなんだ、心の底からだわチビ。
……あの人は恩人だからな、嫉妬よりも尊敬しちまうんだよ。
惚れられるだけの気概もある。」
「大変そうだね。」
「まぁな、けど負けてやるつもりもねぇよ、相手にとって不足なしってことだ……
おいチビ……」
何かに勘づくハイドレに僕も頷く。
「うん、いるね。それも数が多そう。」
「8だな」
「流石に耳良すぎじゃない?」
「てめぇのデタラメな『勘』よかマシだチビウルハ。
ランタナ、数は8だ、多分そのヤングウルフの臭いを辿られてる。
ハグレじゃなかったみたいだな。」
漫才を即座にやめ、思考を切り替えるランタナ。
「数が多いな、正面からじゃ勝てない……」
作戦を考え始めるランタナを軸に僕たち3人は基本の陣形を取る。
「ランタナ、ヤングウルフは若くて気性が荒くい。群れからハグレになるはずだ。」
棍棒を脇に差し背負っていた盾に持ち変えたアントレがランタナの分析の助言をする。
「それを逆手にとって私たちを誘き出したってことでしょ。
まったく、とんだ大物に狙われた……」
「早くしろランタナ、あと5分以内に接敵だ。とりあえずこのまま走れ!」
陣形を崩さずにそのまま走り出す。
走り出してすぐにランタナが指示を出す。
「とりあえず逃げる!
ウルハ!どうすればアイツらを撒けそう!?」
「……どう撒いても拠点付近で撒くことになりそう。下手したら拠点荒らされるかもしれないからオススメはしない。」
「じゃあ始末するしかないね!一旦拠点はスルー!川上の岩場まで上手く逃げて!逃げ方はウルハ、指示!」
「ランタナさん、もう少し具体的に指定してくれても大丈夫だよ」
「言葉には甘えるけど、さん付けはやめろ。
森と岩場、川の距離が近い方が良い!あいつらの鼻はそこで奪いたい!」
「分かった。手始めにアントレさん、そのヤングウルフ捨てましょう。ハイドレ、時差式煙装置を用意して。一緒に時差式煙装置を起動して下に隠します。」
「つってもこの装置いつ煙噴き出すか分からねぇ試作品だぞウルハ!?」
「こないだハイドレが試行してた時は2分で噴き出してましたよ。自分の発明品ぐらいちゃんと記録とってください!」
「なんで俺の実験を見てんだよクソッタレ!」
「良いから、早く用意して!」
◇
ヤングウルフの長は困惑していた。
群れからハグレになったヤツが出た。それはいつものことだった。
しかし、そこからがいつもとは違った。
ハグレになってすぐに人間に襲われ始めたようだった。
ハグレになる理由は、群れから離れることで一匹で判断力や適応力、精神力などそれらを養う為、ひいては群れの長になるために力を蓄える為に群れから離れる。
その一匹が離れてすぐに人間に襲われ始めた。アイツも弱いわけではないが、一匹での動き方をまだ知らない。
けれど、ここで手を出してしまっては群れから離れた意味がない。
アイツが人間から逃れる術をこの場で身に付けるのを祈ることしか出来ない。
長として取るべき行動、その葛藤の結果、漂い始めたアイツの死臭……
その臭いに刺激されない軟弱者は仲間たちの中にはいなかった。
覚悟を決め、人間を襲う指示を出す。数で勝り、人間は他の生物よりも気付くのも動くのも鈍い。正面から叩くのが正攻法だ。もし、こちらに気付き隠れたとしてもこの鼻ですぐに見つけられる。
駈けている途中、臭いが少し変わった。
死臭が濃くなった。恐らく人間が死体を捨てて行ったのだろう。つまり、どういうわけか人間は我々の存在を認識したのだ。隠れずに逃げたとしても脚力はこちらの方が上だ。
そう考えながら駆けていると目に見えてきた光景は異様だった。白い煙が上がっていたのだ。しかし、異臭や火の気は感じられなかったため、そのまま駆ける。
やがて死臭の元へ辿り着き、仲間たちが足を止め始めた。
煙の元はこの死体からだった。
無味無臭の視界を眩ませるためだけの煙。腹立たしい。とても腹立たしい。
この程度で我々の追跡を阻めると、思っている人間が腹立たしい。
人間たちを獲物にする意を決した。今まで人間を狙わなかったのは"面倒だから"の一言に尽きた。確かに弱いし鈍いが、彼奴らは武器を持つため、一撃で仕留められない時が少なくない。そのため、他の生物を狙った方が何倍も楽なのだ。
いつでも狩れる側である我々をハグレごときで勢いついた人間を捨て置くにはいかない。我々が強者であることを再認識させてやる……。
「転生1ヶ月前」を大分書き進めたので、三が日とかに毎日投稿するかもです。
お正月ダラダラするついでに読んでいただいても構いませんよ?私が喜ぶだけですけどね?
ということで、皆様、1年お疲れ様でした。来年もまたよろしくお願いします。
P.S. 私は三が日も仕事です。




