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神の代わりの神話戦争  作者: 桐舌柚柝
3/10

2話

 ある朝、いつも通りの時間に目が覚め、仕事の支度をする。

 玄関を開けると冷や水のような冬の風が顔めがけて吹いた。

 反射的に目を瞑り一難が過ぎるのを待ってから、自分を照らす太陽に顔を向けた。

 冬の一時を身に付けて思ったことがふと口からこぼれた。

 

 「今日、仕事休みだったわ……」

"人生とは自分を見つけることではない。

人生とは自分を創ることである。"


 1年くらい前に国営放送の番組で見かけた偉人の名言、その言葉に感銘を受けたわけではなかったが、何故か忘れなかった言葉だ。


 結局のところ、僕は自分を創るなんてことも、自分自身を見つめることすらもやっていなかったように思う。

 いつ終わるか分からない人生をのうのうと過ごす。そんな毎日だった。


 彼の偉人の言葉に当てはめると、僕の人生は人生と呼ぶのも烏滸がましい不甲斐ない人生だったのだろう。


 

「君は君自身がそんなにも嫌いなの?」



 女性のような男性のような中性的な声が聞こえ、目をゆっくり開くと真っ白な空間にいた。重力がないのか、なぜか体が浮いていた。夢を見ているような感覚だ。


「そうかもしれない。僕自身もだけど、社会、この世界に生まれたことも嫌だったかもね。」


 得体の分からないその人の問いになんとなくで答える。


「それは随分とドデカイものが嫌いだね。」


 無重力のせいか平衡感覚がなく、話し相手であるその人と僕の正確な立ち位置?は分からないけれど、感覚的には、胡座をかいた状態で浮くその人に見下されているようだ。


「うん、嫌いだね。

生きるてるだけで100点満点だとか、生きる理由だとか、アテもなく生まれただけの人間にそんな大層なもの………」

 少し間を空けて言葉を紡ぐ。

「今の僕みたいに死後に何をすれば良いかも、どうなるかも分からないのに、人間というものを浅ましくすら感じる。」


 その人の姿形ははっきりと分かるが、顔にモヤがかかっているようでボンヤリとしていた。


「そして、そうやって全てを否定する自分の傲慢さにも辟易している?」


その人の言葉にただ静かに頷く。


「君は人間性の塊のようだね。

自分を見つけることも創ることもせずにただ否定している。実に怠慢だ。

けれど、その怠慢を客観的に評価して自己嫌悪する理性もある。」


自分の人生をそのまま批評され、その通り過ぎて卑屈に笑う。


「そんな君が損得を考えず、周囲のことを気にせず、初めて衝動的に行動した。」


 初めての衝動的な行動……

おそらく、人助けと呼ぶのか呼ばないのか分からない、交通事故を目の前にした時の僕の行動のことだろう。


「その結果で命を落としてしまうんだから、僕は生物として不出来なんだろうね。」


自虐ではなく事実。

自身を客観的に評価したうえでの言葉だ。

強く気高く生きることは僕には向いてなかったようだ。


「君の感情は人間のそれより麻痺してるんだろうね。勝手に救って自己満足できたら人間なんてものは納得してしまうのに、君はそれすらも軽んじている。

さっきの発言は少し訂正しよう。

君のその思考のジレンマは人間性そのものだ。

けれど、君の自己否定は悪魔ですら舌を巻くほど徹底しているよ。

悪魔は人の弱さや否定的な部分に漬け込むけれど、君は自己否定もまた自己であると受け入れてしまっているんだから。」


 随分な言われようだが、否定する気が一切起きない。

 僕は自己肯定感が恐ろしく低い。その低さを肯定する姿勢だけは誰にも負けないと自負してはいた。

 そして、僕は僕のような人間をどう呼ぶかも理解している。


「僕、"ヒネクレ者"だからさ」


 その人はコクリと頷いて僕を見つめる。


「君は間違いなく人類史上最大級のヒネクレ者だよ。膨大な知識も、優れた能力も、評価に価する特徴はハモりがちょっと上手いぐらい。そんな人間は世界中に数多といる。君の住んでいた日本にすら1万人以上でいたはずさ。けれどね、自己否定を自己否定として肯定して飄々と生きていたのは君だけだよ。」


 その人の褒められているのか貶されているのか、どちらとも取れる言い回しに困惑する。


「そんなことはないと思うけど……

流石に言い方が大袈裟じゃないかな……」


「私の言葉を信じるも信じないも君次第ではある。

けれど、君は選ばれし者なのさ。」


「死後の世界でそんな皮肉を聞かされるとは思わなかったな……」


「いやいやいや、これは悪口でもなく悪態でもないんだ。

少しばかり話を聞いてくれないか?」


「う、うん……

そろそろ僕の今(死)後の流れとか聞きたいから良いけど……

貴方は輪廻とかを司ってる神様とかじゃないの……?」


「んー、あー、神様ではあるけど神様ではないというかー……

とにかく、今、君は私の顔すらハッキリしていないだろう?

そういうことから細かく説明するから話を聞いてくれないか?」


「あー、うん、質問があるなら話を聞いてからにしてくれってことか。うん、会話だてやっぱ苦手だなぁ………」



死後の不可思議な時間をもう少し堪能することになりそうだ……。

月が綺麗ですか。そうですか。新月ですが。

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