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カミカゼ ~哀しみの対空砲火と命知らずの魂~

出てくる単位ですが、1マイル=約1.8km、1000フィート=約300m、100ヤード=約90メートルだと思っても構いません。


史実の出来事にアレンジを加えています。ファクションって言うんですかね?

 

 1945年〇月〇日、九州沖合、0700時



 上空を早期警戒をしていた駆逐艦から連絡が入り、航空隊が飛び立って早一時間。

 もうJAPどもを叩き落としたのだろうか。


「全く…ここ一週間で戦闘配置が八回、それで本当に敵を見たのはゼロ。JAPにはもうマトモなパイロットは居ないんじゃないか?」


 40mm機関砲射撃手の俺は空母USSフランクリンの艦橋内を走り、灰色のライフジャケットを着ながら愚痴を漏らした。


 この海域に来てから敵機の襲撃は幾度かあった。

 しかし、新しく考案された陣形、対空哨戒を行う駆逐艦を最外縁に置くことで、早期に敵航空機を発見し味方の戦闘機を送り込むことで撃破する。

 これにより艦隊の中心、特に大型空母は敵からの攻撃を受ける確率が格段と下がった。

 しかし、当然の事ながらその駆逐艦は標的になり被った損害は少なくない。そいつらはいわば、囮に近い扱いを感じさせる物だった。


 俺が空母配置になったことを神に感謝するぜ。


「何言ってんだ。もし航空隊が取り漏らした奴がKAMIKAZEだったら突っ込んで来るかも知れないんだぞ」


 俺の後ろに付いて来た同じ班員である無線兼観測手のジョニーは楽観視していない。

 日本は新しい戦術を編み出して来たからだ。


 そう。問題は普通の攻撃隊ではなく、腹に抱えた爆弾を投下せずにそのまま突っ込んでくる奴。カミカゼアタックだ。

 他にスーサイドボマー(自爆攻撃者)なんて言われ方もするが、その名の通り身を挺して攻撃してくる奴らだった。通常攻撃隊に紛れて来ることもあるので、それがカミカゼと判断するのは非常に難しい。


 その自爆攻撃の恐ろしい所は、通常攻撃に比べ成功率が高い事だった。

 船へぶつかる直前まで操縦しているため、途中で爆弾を放り出す水平、急降下爆撃よりも命中精度が高いのは当たり前。その分爆弾の突入速度が遅くなりダメージ力が落ちるが、その機体搭載燃料が激しい炎をあげるためその短所はある程度相殺された。

 だが必ずしも敵機がカミカゼを行うとは限らない。それに、この海域に来てからは何度か空襲はあったものの、カミカゼアタックに関しては一度も遭遇していなかった。


「フンッ、どうせ今日も大丈夫に決まってる。この調子なら呑気にトイレでク○してても戦争が終わる位だな」


 俺は少しも恐怖を感じてないと言わんばかりに豪語する。

 いや、本当は強がっているだけだった。今日も死ぬことは無いと思っていたかった。


 USS フランクリンの飛行デッキには当初の予定である敵本土空襲の為、F4Uコルセア戦闘機、TBFアベンジャー雷撃機が出番を待っている。

 ほとんどの機体は主翼を展開し、爆弾やロケット弾を装着し始めていた。

 戦闘機は500lb爆弾やロケット弾をフル爆装し、まるで空中戦を全くする気が無いようだ。雷撃機も本来の武装である魚雷ではなく爆弾のみの搭載だ。

 もうあの国には迎撃するだけの飛行機や艦艇は無いと踏んでいた。

 何機かは既にエンジンを回し始め、獲物を求める野獣のように唸りを上げる。戦闘機隊が敵を追い払い次第出撃する予定だ。


 俺たちは自分の担当場所である艦橋上、40mm四連装機関砲銃座の射撃管制指揮所へ着いた。そこには装填手達がすでに準備を始めており、弾薬庫から40mm弾薬クリップを引き上げていた。


 ジョニーは双眼鏡を首にかけヘッドフォンを頭に着けた。俺が照準装置の電源を入れジャイロが勢い良く回る音がした時、対空警戒のサイレンが鳴り響く。それと同時にジョニーの無線へ連絡が入った。


「…敵のお出ましだ。4時方向、距離は12マイル」


 連絡はBPR(射撃座標追跡室)からだった。

 戦闘機が少数機取りこぼしたようで、味方ではない何機かがこちらに向かって来ている。


 そちらの方へ視線を送ったが、当然の事ながら俺の肉眼では未だにその姿を捉えることが出来ない。


 だが、すでに警戒レーダー画面上では確実に航空機が接近している事を写し出していた。

 艦上にある数々の射撃管制レーダーもその目標にレーダーを照射しデータを収集、得られたデータはBPR(射撃座標追尾室)へ送られ、捉えた航空機の数、距離、高度、速度をアナログコンピューターで算出し具体化される。

 そこでは士官達が対空監視、射撃の優先順位を決めており、その情報を対空火器班や艦隊の各艦に伝達する。

 空母にある対空火器の射撃判断を全てここで管理すると共に、単艦だけでなく艦隊全体の対空砲火網を形成させる事で一つのに目標に全火砲を集中射撃させる事で撃墜率を高めていた。


(つまり、俺が勝手に撃ちまくるのは出来ないってことだ。こんだけしっかりした統制のせいでストレスが溜まる一方だぜ)


 最初の伝令が伝わってから数分後、大海原に砲撃音が響き渡った。

 他の艦艇が対空射撃を開始した事を教えてくれる爆音だ。

 USSフランクリンも左へ回頭し始め、それに合わせて空母甲板上にあった5インチ砲も砲口がゆっくりと上空に向られる。

 砲塔が停止して少し間を開けた後、全ての砲門が海面を唸らせるような衝撃と共に火を吹いた。


「…いいぞ!!もっとやれ!!」


 耳を塞いでいた俺の下方、艦橋横にある飛行デッキの5インチ砲は立て続けに何発も連射する。

 最近は5インチ砲や3インチ砲の砲弾には近接信管と言われる物が装着されており、敵の近くを通っただけで爆発する優れものだった。とりあえず、今までの時限信管みたいに全く的外れの所で爆発する事は少なくなった。

 運が良ければこれで襲撃は終わる。この前空襲を受けた時はこの5インチ砲を数発撃っただけで逃げ帰って行った。

(今回もそれで済めば良いが)


「敵航空機、方位135、高度9300フィート、速度260ノット!」


 隣にいるジョニーが目標の情報を大声で伝える。

 俺は射撃装置のジャイロ動作音を聴き、照準レチクルもちゃんと表示されている事を視認、最後に装置を旋回させ、その動きが銃座と連動しているのを確認した。

 この射撃管制装置は自動で見越し点を表示してくれるだけでなく、射撃手が装置に付いてる照準器で狙いを定めると遠隔操作で銃座も追従して動いてくれる。

 今までや他の国は全て手動で、対空砲火は威嚇のためだけにあると言われる位精度がなかった。

 しかし、このような装置が対空戦闘のあり方を大きく変えた。


「その高度ならKAMIKAZEか?」


「分からん。突っ込んでくる直前まではな…」


 しばらくすると、ジョニーの無線へ連絡が入る。


「奴はまだ墜ちて無い。準備しろ!」


 どうやら今回の運はそこまで良くない。

 5インチ砲の弾幕を突破した敵機がまだこちらに向かっている。


「距離3200ヤード、速度250ノット!」


 ジョニーは射撃に必要な情報を随時伝えた。

 無線手の仕事の一つは、BPR(射撃座標追尾室)が送られる敵機の情報、数値を各銃座の射撃手に伝える事。

 なので戦闘中は射撃手から離れることは無い。

 俺はレンジダイヤルをその数値通りに合わせる。他の銃座も慌ただしくなっていた時、ジョニーは双眼鏡で該当する高度を観察し始めた。


「…見えた!あれは単発機っぽいな」


 敵機は右舷側から接近していた。

 既に、その周辺では砲弾が炸裂して丸い黒煙をいくつも作っている。その中には確かに黒煙とは違う小さな影が動いていた。


「確認。照準を合わせる」


 俺は照準器の中にそれが収まるよう狙いを付け、射撃レバーの中に手をかけた。

 砲弾は既に装填済み、装填手も次の弾薬クリップを胸に抱えて準備している。後は射程内に入り、BPRからの合図を無線手経由で待つだけだ。


 次第にその黒煙は大きくなり、遂には砲弾の炸裂音まで聞こえ始めた。照準器を通して見ても、それが飛行機だと分かる位まで接近して来ている。


(今まで、ここまで接近された事は無い…もしかしたら本当に突入されるかも…)


 その時、BPRは各銃座の無線手に射撃命令を出した。


「…射撃開始!!」


 ジョニーは俺に向かって発砲指示を叫んだ。


「いくぞ!!」


 射撃レバーを引くと、銃座に据え付けられた4四門の機関砲が40mmの曳光榴弾を秒速900メートルの速さで撃ち出した。 

 陸上での対戦車兵器として使われる一般的な戦車砲ですら37mm口径なのだが、この銃座はそれを毎分420発吐き出すため、これに狙われた航空機はどんな大型機でもひとたまりもない。

 この空母には左右それぞれ4基の40mm四連装砲があり、5インチ砲に続いて右舷全ての機関砲が射撃を開始し空に向かって鉄の豪雨を降らした。

 無数の曳光弾が青い空を引き裂くように飛翔していき、この光景を一言で表すならば、正にお祭り騒ぎと言っても良いだろう。


(故郷のケンタッキーでやっていた花火大会とは比にならねーな…)


 既に複数の艦艇から集中砲火を浴びていた敵機は、空母から約2マイルで被弾し海面に落ちていった。


「撃墜だ!!ハエみたいに落ちて行ったぜ!」


 俺は操作ハンドルを放して喜んだが、それはすぐに緊張へ変わった。


「もう一機!方位高度1100フィート、降下してる!」


 その方位に目を向けると、別の敵機が低空から侵入して来るのが見えた。しかも先程よりかなり近い。

 上に気を取られていたせいか、どの艦も発見が遅れてしまった。


「くっ…射撃する!!」


 高度ダイヤルを合わせながら射撃レバーを引いた。

 次々と砲弾が撃ち出され、装填手が連射を中断させぬようひっきりなしに弾薬クリップを装填し続けている。


「高度800フィート!まだ下げる気だ!」


(あの侵入方法、まさか…)


 敵機は弾幕を掻い潜るよう急降下した後、海面スレスレで飛行し始める。

 俺達の銃座の真正面に一直線だ。


 それと同時に、キャトウオークに備え付けられていた大量の20mm機関砲が射撃を開始。20mmにも射撃命令が出たと言うことは、ある事を表していた。


「気を付けろ!KAMIKAZEだ!!」


 従来の戦闘なら20mm機関砲は使い物にならない。

 何故なら、普通の対艦攻撃は20mm対空砲の射程距離に入る前に爆弾なり魚雷を投下して退避するため、それ以上の射程距離を持つ40mm機関砲からでないと役に立たない。

 だが、カミカゼアタックには大いに有効な防衛手段の一つだ。彼らは突入するまで飛行機を操縦するため、その前に落とせるなら20mmでも何でも使った。


『戦闘員以外は飛行機デッキから退避せよ!繰り返す、飛行デッキから退避せよ!』


 空母内にアナウンスが響き、飛行デッキにいたパイロットや整備要員はエンジンのかかった機体を放置して大慌てで避難する。


「距離1500ヤード!早く奴を落とせ!」


 5インチ、40mm、20mm、様々な火砲がそのカミカゼに向かって乱射している。

 砲弾はほぼ水平方向に発射され、海面を跳ね回る弾やそのまま突き刺さる弾、又はスレスレで爆発する。それは大、中、小の水柱を作り青い海の表面を白く濁らしていた。


「1000ヤード!まずい、突っ込んで来る!!」


 まるで砲弾がその敵機を避けているかのように至近を通り抜けていく。

 機体表面を火花の閃光が走った。何発が命中しているはずだが、それでも真っ直ぐこちらに向かっていた。


「400ヤード!もう間に合わない!!」


 ジョニーは頭を抱えその場に伏せる。銃座にいたほとんどの人間が同じを取っていた。

 だが、それでも俺は最後まで射撃レバーを引きながら、そいつを照準器の中に捉え続けた。

 なぜか目を反らす事が出来なかった。それから反らせば本当に死んでしまうと感じたからだった。


 パイロットの顔が分かるくらいまで接近した時、直後に5インチ砲が発射した砲弾がコックピットをえぐり取るように命中し、跳ね上がるよう急上昇した。

 艦橋にあったレーダーマストに左翼をぶつけ、空母の上を回転するよう飛び越えた後に左舷側へ落ちていく。

 直ぐ側の海面で爆弾が爆発し、空母全体が揺さぶられた。


「ふぅー、寿命が縮んだ…」


 寸前の所で直撃を免れた。

 海面で飛び散った破片がデッキ上にあった航空機にダメージを与えたため、すぐさま復旧作業が始まった。


「射撃中止!味方機が通過する!」


 体勢を立て直したジョニーが射撃中止の指示を受け取った。

 全ての火砲も射撃を中止し、甲板上の安堵の声が上がっていた。

 ここまで来ればひと段落だろう。


「見たか…?あいつらコックピットを吹き飛ばされるまで一直線に突っ込んで来たぞ」


「いや、ビビッちまって何も見えなかったわ」


 ジョニーは苦笑いしながら答えたが、その声は不安を隠しきれていない。


(KAMIKAZEか…まさかこんなに恐ろしい物だとは)


 先ほどの光景がまた脳裏に浮かんでいた時、味方機が艦首方向から接近しているのが見え始めた。

 早く自分の巣である空母に帰りたいのか、普通より速度が速く見える。


「…お前らがちゃんと仕事しねーから怖い目に合っちまったぞ!!」


 俺はその機影に向かって冗談っぽく叫んだ。こうでも言わなければあの光景が頭から消えなかった。どうせ聞こえないのだから問題ない。


 しかし、まるでその罵声が聞こえたのかのように真っすぐこちらに針路をとって来る。


「おい、どうやら本当に聞かれたんじゃないか?」


 ジョニーも俺に続いてふざけたジョークを言ったが、どこか違和感を感じた。


(着艦は別の空母のはずだよな…?)


 ここの甲板は対地攻撃の出撃準備をした機体に占領されている。離れた上空からでもそれは十分確認できるはずだ。

 それでも機影はみるみる緩降下し近づいてきた。

 だが、乗員は甲板の復旧作業に気を取られて上空警戒は疎かになっており、その異常にほとんどが気づいていない。


 速度を増した機影が段々はっきりと見えてきた。

 まず、見覚えの無い輪郭、次にネイビーブルーではない濃緑のペイント。

 最後に見えたのは、主翼に大きく描かれた赤い日の丸マークだった。

 カミカゼは350ノット近くまで加速し、すぐ目の前に降下して来た。


「…あれは味方じゃない!!敵だ!!」

 

 射撃しようと銃座を旋回させたが、時すでに遅し。

 上空を独占していたエンジン音と翼が風を切る音は金属がひしゃげる、けたたましい轟音に変わった。


 最後に目に入ったのは、直前に投下された爆弾は甲板を突き抜け、敵の飛行機が砕け散りながら炎をまとい飛行デッキ上の戦闘機を薙ぎ倒す瞬間だった。

 俺の心は悲しみと憤りが混ざり合った何とも言えない感情が満ちていた。



好評ならばこの悲劇を別目線から描いた話も書いて行きたいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相当調べて書かれたのだろうと想像しますが、それら知識がちゃんと抑制されていて、くどくない点が素晴らしいと思います。 [一言] なんとなく未完の印象を受けました。 もしかして別視点の作品と対…
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