1話 軍師に憧れる歴史好きの無職(3)
「痛てて、死んでないよな・・・」
バイクで転倒してどのくらいだろう、意識を失っていたようだった。
周りは原っぱらしく、恐らく転倒して着地したところが柔らかい草や土の上だったので大怪我せずに済んだようである。左手には太平洋が広がっており、さっきまでの三陸海岸線沿いの道へ戻ろうと思った。
「中古でも百万円もしたバイクは無事かな」
体の心配よりもバイクの心配をしながら道路へ戻ろうと、海沿いの草原から道路があったと思われる方向へ這い上がるもなかなか道が無い。
それよりもさっきまで道路の先に広がっていた街の景色がどうもおかしいのに気づいた。
急いで土手を上ってバイクを確認しなくては、あと街も何かおかしいぞ。
五メートルは高さのある土手を上った先に愛車が転がっていた。原型を留めているのに少しほっとした。
すると、そのバイクを珍しそうに眺めている一人の人がいるがどうも恰好がおかしい。
布キレをまとったようなエキゾチックな衣装にちょっと変な人なのかなと思いながらも
「すいません、これオレのバイクなんですよ。ちょっとこかしちゃって」
と気まずく声を掛けながらバイクを立て直した。
と、同時に近くにいた人を見ておれは驚いた。
まるでヤマトタケルのような衣装ではないか。布制の衣服はボタンなどなく腰や膝の部分を紐で結んでいる。
するとその男が言った。
「この鉄の塊はバイクというのか?」
その言葉を聞きながら何気なく街の方角に目をやって驚愕した。さっきまでバイクで走りながら目前に迫っていた現代的な街の風景は一変していて、藁葺なのか茅葺なのかわからないがまるで白川郷にでもあるような家がぽつんぽつんと点在しているだけだ。
「なるほど、これがタイムリープというやつか、あれタイムスリップだっけか?」
もはやタイムトリップでも何でもいいがついにおれはやってのけたのだ。
「今って何年なんですかね?」
先ほどの男性に何故か恐縮して聞いてみた。
「何年っていうのはわからないが都の方では宝亀というらしい」
「なるほど…、宝亀。っていつだ!?」
元亀なら信長が嫌って天正に変えたって逸話がわかるけどさっぱりわからない。
とりあえず市街地的な茅葺屋根の家がある街の方向へ行って誰かにもう少し話を聞いてみよう。