第5話 〜令嬢はやり直しを求む〜
「これが、世にも珍しい魔法の花よ!」
じゃーんっとまるで自分が作ったように魔法の花たちを見せびらかす私。
話が大分脱線していたことに気が付いた私は、慌ててフィンレイと共に魔法の花が咲いている所へ移動したのだった。
ふふふ、フィンレイの驚きの顔、頂きよ!
この表情、ゲーム内では中々出なかったからレアなのよね?それなのに1日に何回も見れた私って相当運いいわね!
「コレがね、歌を歌う花で~こっちが、色を変える花!それでこっちがね~!」
色とりどりに咲き誇る花々を指さして説明していく。
私の弾む声に反応したのか今まで白色だった花が淡い桃色に色を変えた。
「ホラ!今の見た!?」
「は、はい……」
思わず私は声を大にしてフィンレイに尋ねる。
普段から見慣れている筈なのに、何故か興奮で胸が弾む。
フィンレイも興味深げに花を見つめている。
突然花々の中から綺麗な歌声が聞こえてきて更に驚きを露にしている。
フィンレイはゲームではクールな病みキャラだったけれど、こういうのも新鮮で非常に良いと思います。
端的に言って、うちの義弟 天使 !
マイエンジェル・アリシアに続き2人目の天使の登場だ。
「凄いです……!こんなの生まれて初めて見ましたっ」
マイナスイオンを発する癒しの塊を拝んでいると、フィンレイの楽しそうな声が聞こえた。
お、おおっ!?
よく見れば、口元も僅かに、ほんの僅かだけど緩んでいる……!?
これは、世紀の大成長だ。
我ながら、よくやったと自分を褒めてやりたい。
「他の花の事も……教えて下さいませんか?」
…………………。
な、な、なんということでしょう。
私の心は、静かな驚きで満ちていた。
フィンレイが、あのクールで冷たくて人と距離を置く癖があり、誰に対しても疑心を忘れられない……あの、フィンレイが……。
私に自ら質問をしてくれました!
私は満面の笑みで「勿論よ!」と言った。
ええ、私に分かることならば何でも教えて差し上げましょう。
どうせ、あと何年すれば教わる立場になってしまうのだから。
フィンレイはゲーム内で頭脳明晰でありとても私がかなう相手ではない。今世、前世含めると何倍もお姉さんなのになんだか切ない。
「えっとね!このお花が触ると花弁が回るお花なのよ。そして、こっちが……」
大好きな魔法の花についての説明はとても楽しいもので、話が弾む弾む。
ひかれてるんじゃないか?と思うレベルで話してしまう。
私は、ちょっと調子に乗りすぎたかな……?と不安になり、フィンレイを盗み見る。
しかしどうやらその心配は必要なかったみたい。
フィンレイは、途中で口を閉じた私に、もう終わりですか?と言いたげに視線を寄越している。
…………そっか。私の話、楽しんでくれてたんだ。
「……話の続きだけどね!」
今まで私は、侯爵家令嬢という身分もあり邪険に扱われた事はなかった。
話をすれば、皆興味ありげな表情を作り相槌をうってくれる。けど、本当に楽しんでくれた人は……あまりいなかった。
だから、こういう風に本当に興味を持って聞いてくれて、好奇心に満ちた瞳で見られると……とても嬉しい。
魔法の花について話し終わり、こっちが満足してしまう。
フィンレイを楽しませようとしていた筈なのに、これでは立場が逆転してしまっている。
これは、いけない!と慌てた。
「フィ、フィンレイ……。今日は付き合ってくれてありがとう……。私ばっかり話して、私に付き合わせてしまってごめんなさい」
弁明する余地もない為、私は素直にお礼と謝罪をする。
なにが、“理想の姉らしく”だ。
私が妹といった方が相応しい位子供っぽいはしゃぎ方をしていた。
「いえ、そんな……」
フィンレイは控えめに私の言葉を否定してくれているが、それはきっと嘘。
嘘と言ってもやさしい嘘だけれど。
「あの……フィンレイ」
でも、いくら優しくても私は……そんな気を遣われる関係を望んでいない。
ズバズバとフィンレイの言いたいことは言って欲しい。今までの生い立ちからすると難しい事なのかもしれない。それでも少しずつ、少しずつ慣れてほしいの。
「私達……姉弟になったんだから。そんな硬くならないで。直ぐには難しいかもしれないけれど、少しずつ家族らしくなっていきたいわ」
もっと上手にいいたい。
フィンレイが遠慮しないように、上手く言葉を選びたい。
でも、お世辞でも頭が宜しい、語彙力があると言えない私にそんな上等テクニックは使えないの。
ただ、思った事をそのまま口にして伝える事で精一杯。
「……了解致しました。善処致します」
うん、ちっとも伝わってなかったわ。
え?寧ろ硬くなってません?
人形のような無表情で『善処致します』とか言われても説得力皆無なんですけど……。
する気ないでしょ!
さっきまでは、少しだけど笑ったり、戸惑ったりと感情を見せてくれていたのに!
私ミスッた?選択間違った?踏み込みすぎた!?
ああ、切実にセーブ&ロード機能が欲しい。
そして、今度こそは正しい選択肢を選びたい。
「え、え、えーっと。そのっ、無理は、無理はしなくて……いいからね!うん、出来る範囲で!」
頑張って笑顔を作り、吃りながらもそう言う。
きっと、今の私の笑顔は引き攣っているだろう……。
「はい、分かりました」
NO────!!
こちらへの疑心で一杯な凍てつくような視線が辛い。張り付いたようなその愛想笑いが恐ろしい。警戒心でいっぱいな雰囲気が切ない。
おお、神様。
私はさっそくミスを犯してしまったようです。
どうぞ、お助け下さい…………!