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第1話 〜そして、彼女は思い出す〜


「お嬢様、お目覚めの時間ですよっ 」


誰かの声が聞こえる。

誰だろう……?

可笑しいな。私は死んだ筈なのに。

もしかして死神とかそこら辺のお方の声?


「は、はい!」


それなら早く起きなければ、と慌てて目を開ける。

目の前いたのは、おどろおどろしい死神でもなく、とても可憐な容姿を持ち、メイド服を身にまとった少女だった。


「お嬢様、おはようございます!」

「お、おはよう……ございます」


ああ、思い出した。

この子は私のメイドであるアリシアだわ。

なんでこんな事、忘れていたんだろう?

それに……さっきまで考えていた“私死んでる筈なのに……”とか“死神の声?”とかは何!?


たしかに自分で考えていた事の筈なのに、自分で疑問に思うなんて、私、頭おかしくなってしまったのかしら。


「どうしたんですか?お嬢様。お元気がありませんよ……」


心配そうに大きな瞳を少し潤ませるアリシア。

ああ、天使だわ。天使がここにいるわ。


「大丈夫……!問題ないわ」


天使に心配させるなんて万死に値するわ。

と、私はにこっと笑顔を浮かべてそう主張する。

するとアリシアも安心したらしく「でしたら良かったです、何かありましたら仰ってくださいね?」と微笑んだ。


ああ、うちのメイドが可愛すぎる件について!


内心で悶えながらも、朝食の席に行く為に、着替えをしたり支度する。

勿論アリシアが手伝ってくれる為、難しい服も簡単に着れる。


ああ、うちのメイドが優秀な件について!


「お嬢様、お支度がおわりました」

「ありがとう、アリシア」


そうこうしているうちに支度が終わり、私は完全なる“朝のお嬢様モード”になった。

ゆったりとしたドレスは着心地が良くて良いわ〜。コルセットとかでがっちがちにするのは窮屈で嫌いなのよね。


朝のドレスの着心地の良さを心の中で褒めたたえながら、料理人の作る美味しい料理と両親が待っているであろう部屋に行く。

重厚な作りのドアを開けて、入ると途端に良い匂い。美味しそうなパンの匂いだわ〜。


「おはようございます。お母様、お父様」

「おはよう、アンジェ」

「おはよう、今日も可愛いですわねぇ!」

「お母様の方が可愛らしいですよ」


礼儀正しい挨拶すると、両親も返してくれる。

相変わらず、お母様は褒めすぎだわ。可愛いのはお母様の方よ。


「まぁまぁ、アンジェちゃんったら」


お母様は恥ずかしそうにしている。

ああ、お母様マジ女神!恥ずかしがる姿も美しいわ。


「そうだ。アンジェ。食事が終わったら大事な話があるんだ」


お父様のその言葉に、はい、と頷く。

何なんだろう?大事な話……?

とても気になるから、早く食べてしまおう。

勿論、味わって食べるけれどね!


「ふぅ、ご馳走様でした」


いつもより若干早く朝食を食べ進めた。

うーん、今日も変わらず美味しいわ。この屋敷の料理人さんたちはとても腕がいいわね。

あとで、お礼言っておこうっと。


と、今日の計画を練っていたら両親も食べ終わったようで。


「アンジェちゃん、お父様の話がそんなに気になるの?今日は早かったわね」

「はい!とても気になって……」


お母様に可笑しそうに笑われてしまった。

そんなにペース早かったかしら。ちょっと反省。


「アンジェが気になるのもしょうがない。私も話すのを楽しみにしていたからね」


お父様はにこにこ笑ってそう私をフォローしてくれた。お父様、ありがとう!


「それで……お話しというのはな」


お父様が私の待ち侘びた話をし始める。

全く想像がつかなくてとてもドキドキする。


「────アンジェ、君に義弟が出来るという話なんだ」


…………義弟?


「アンジェ、兄弟が欲しいと言っていただろう。だからとても喜ぶと思ってな」

「うふふ、アンジェなら仲良くなれるわよね」


2人の明るい声がどこか遠くで聞こえる。

頭の中に映像のような物が流れ始める。


『乙女ゲー …… 、どこ ……して』

『……ルート、……した……まさか……てんか』


2人の若い女子の弾んだ声がノイズ混じりに聞こえる。

乙女ゲー?ルート?

────一体何のことを言っているの?


『わぁ〜 ……のスチ、……こーだわ!』


今度は1つの絵のようなものが脳裏に浮かぶ。

描かれているのは1人の青年。

真っ黒の髪に赤い瞳を持つ妖しげで影のある美青年だ。


「……義弟の名前は……フィンレイって言うんだ」


『……やっぱり 、わたしは “フィンレイ”推しだなー』


お父様の言葉と、何者かもわからない女の子の言葉が重なる。


瞬間。


「…………あ」


全ての記憶が蘇る。


「フィン、レイ」


そう言った私の声は僅かに震えていた。


「そうよぉ、フィンレイ君。アンジェ、覚えた?」


様子の可笑しい私には気がついていないのかお母様は未だに楽しげ。

そんな質問に答える余裕がない私だけど、心配させまいと、小さく頷いてみせた。


頭の中では、様々な事が思い出されている。

私は、最初普通の女子高校生だったこと。

女子高校生の私は、ある乙女ゲーにハマっていた事。

ある日死んでしまった私は、その乙女ゲーの世界に転生したこと。

しかし、前世の記憶を思い出したのは、転生した先の“アンジェリカ・フォスフォール侯爵令嬢”が義弟の魔法で死ぬちょっと前だったこと。

死に際に私はもう一度やり直したいと願ったこと。


「……っあ」


怒涛の記憶ラッシュに精神をまともに保っていられない。

小さく声を漏らしてふらついた私は。


「アンジェ!?」


大きな音をたてて勢いよく倒れてしまったのだった。



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