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19話 〜茶会の誘い〜



『あんなちゃんへ

クライヴとの顔合わせは上手くいった?ああでもきっとあんなちゃんの事だから、上手くいってるわけないよね。だってきんちょう屋さんだもんね。それに病んでるって分かってる危なぁい王子さまと楽しくお話出来るわけがないよ、ね?』



黒々としたインクで書かれたのだろう。インクが漏れだしてしまったのか紙の上に血痕みたいな染み出してしまっている。お世辞にもあまり上手とは言えない文字で綴られた何者かからのメッセージを読む。

あんなちゃん、と前世の名前で私を呼ぶところから考えて前世から私のことを知っている人物だと推察するのが妥当だろう。兄さんとの会話によって記憶を少し取り戻したものの完全ではない。

忘れている方の記憶に残っているのかもしれない。

悶々とこの文章を書いた人の正体について思考してみるも前世の記憶を失っているという事実も合わさり浮かび上がる人はいない。

ひとまずこの人を探ることは保留することにしよう。


取り敢えず今日は疲れてしまった。

クライヴ様とのやけに気と頭脳を使うやり取りを思い出して頭が痛くなってくる。

ゲームの病んでいて兄を殺そうとしているクライヴ様が実際のクライヴ様に当てはまるかは分からないけれどクライヴ様と話すとなると根付いた恐怖心みたいなものが込み上げてきてどうも緊張してしまう。

まぁいいだろう。どうせ私は“そこそこ令嬢”だったのだから婚約者候補から外されているにきまっている。

と、なればクライヴ様と充分に話が出来ないことを嘆くこともない。クライヴ様は紛れもない王子様であり一般の令嬢など、婚約者にでもならなければそう関わる機会などないのだ。あるとしても舞踏会や茶会の時の挨拶回りくらい。それくらいは私にだって出来る。


「アンジェ姉様」


コンコン、と控えめなノック音の後にフィンレイの声変わり前の高めの声が耳に届いた。

何事か、と腰掛けていた椅子から立ち上がり扉を開ける。するとそこにはクッキーやマフィンなどのお菓子が入った籠を持ったフィンレイがはにかみながら立っていた。


「アンジェ姉様。お疲れ様です。

僕、今までお菓子を作っていたんです。アンジェ姉様、お菓子って好きですよね?きっと元気になると思いまして……」


照れくさそうにちょっぴり頬を染めながらも健気にそのお菓子入りの籠を差し出してくるフィンレイ。

ここに圧倒的癒しな天使がいた……!!

疲れが蓄積して沈んでいた心が浮上する。

やっぱり私の推しが可愛い。そう叫びたくなる衝動に駆られた。


「ありがとう……!わざわざ、私の為に……。

良ければテッドやアリシア達も誘ってお茶会でもしましょう」


ここらで1度アリシアとも話がしたいし、フィンレイはテッドと仲良いから誘うならばこの2人が良いだろう。

籠を受け取りそう考えて提案すると、フィンレイは少しの合間逡巡した後にそうですね、と笑った。

なんだかその笑顔が先程見せていたものに比べて人形めいているように見えて心配になり声をかけたがなんでもないです、と軽くあしらわれてしまった。

イマイチフィンレイの地雷ポイントは分からない。

ゲームでもフィンレイは攻略が簡単なキャラではなく少しひねくれたような選択肢が正解だったりもしたのでその心中を推し量ることは容易ではないのだろう。


「大丈夫?ほんとに嫌だったら無理しないでいいのよ。フィンレイも色々都合があるだろうし……」

「いえ、大丈夫です。習い事は全て終わらせてから来ていますのでこの後は特に何もありませんよ」

「そう?ならいいけれど……」


フィンレイの態度はかたくなで、そこまで言うのならば実は多忙だったけれど姉の誘いを断れなくて……みたいなことはないだろう。

そう結論づけた私は早速お茶会を開くべくアリシアに声をかけに行くことにした。テッドはお茶会をする場である庭園にいることが多いので誘うのは後で構わないだろう。


「アリシア」


アリシアは基本ハウスメイドやキッチンメイドのようなことはせずまだ私専属と決まっている訳ではないけれどほとんどそのような感じの扱いで私の部屋の近くにあるメイド室に控えていることが多い。

今日も恐らくそこにいるのだろう、と思いメイド室に向かい扉をノックする。

すると少しの間も置かずに「はい」と明るい返事が返ってきて扉が開けられた。


「……っ、お、お嬢様……?」


にこにこと愛くるしい笑みを浮かべていたアリシアの顔が私を視界にいれた時点でピシリ、と固まる。

思い切り動揺して視線をあちらこちら、忙しなく動かしている姿になんだか申し訳なくなってしまう。

明らかに動揺しています、と主張している態度にどうしてかしら?と頭を悩ませるが直ぐにその疑問は解決した。

簡単だ。私が普段メイド室に訪れることが余りないからだ。前世を思い出してからはますます自分のことは自分でしなきゃ、という精神が身についてしまっておりわざわざ彼女を呼び出したり彼女の部屋を訪ねたりすることはなかった。そんな私が急に訪問したから驚いたのだろう。それに今アリシアと私は仲違いという程激しいものでは無いが若干気まずくなっている。

そんな相手が唐突に訪問してきたら誰だって驚くということなのだろう。


「ごめんね、急に来て。今からフィンレイがくれたお菓子でお茶会をしようと思っているんだけどアリシアも良ければ参加してくれないかなぁって思って……」


持っていた籠をアリシアに見せるように上げる。

アリシアはそのお菓子入りの籠を一瞥したあとチラリとフィンレイの方を方を確認して「分かりました。この後は特に用事もないので参加できますよ」と了承してくれた。

正直断られるのでは、と内心不安だったのでOKを貰えてとても嬉しかった。安堵から肩を撫で下ろす。


「それじゃあ姉様。次はテッドを誘うのでしょう?行きましょう」


フィンレイが私の腕を軽く握り引いてからそう言ってくる。

そうだ、テッドを誘いに行かなくては。

じゃあ行こうか、と促すとアリシアは静かにあとをついてきてくれた。




漸く投稿出来ました。

お待ちしてくれていた方がいたら恐悦至極です。

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