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第14話 〜幼い嫉妬〜


「アンジェ姉様、教えて下さい。“ノア”とは誰ですか?」


顔を上げたフィンレイの冷たい表情に恐れる。

彼は、一体誰なのだろうか?

私が知る彼とは全く違う。


私は彼をよく知っている。

ゲーム内の彼も、来たばかりの人を信用出来ない彼も、心を開き皆と楽しそうに話している彼も、私に依存心を向ける彼も。

でも、今私の目の前に立っているのはどの彼とも、どのフィンレイとも違う。


とうとう、雨が降ってきたらしい。

私の体を凍えるような冷たい雨が濡らしていく。

私は、雨が降ってきたから、とフィンレイの手を取り取り敢えず屋敷の中に入ろうとしたのだが、フィンレイは動こうとしなかった。


「アンジェ姉様。僕に答えを下さい。ねえ様はなんでも僕に教えて下さいますよね?」


初めてあった時の、フィンレイの硝子玉のように無機質な瞳が忘れられなかった。

一切の感情を剥ぎ取ったような瞳が怖かった。


でも今のフィンレイの瞳も怖い。

ドロリ、と濁った赤色は妙な熱を孕んでいる。

無機質などとは異なる虚ろなソレ。


怖さに拍車さを掛けているのは彼が湛えている笑顔だ。満面の笑み、と表現するに相応しい。

私はフィンレイのそんな表情を見たことが無い。

フィンレイは基本無表情に近いし、笑顔を浮かべることはあまりしない。浮かべたとしても控えめな微笑みだ。

その彼が、大輪の花が咲くような笑みを浮かべているなんて……。


「ノ、ノアは私の友人よ……?」


フィンレイの情報を知っている。

フィンレイは満面の笑顔を浮かべている時こそ憤怒に燃えている時が多い。

笑って怒る、というタイプだ。

笑みが深いと深いほど彼の怒りは激しい……とファンブックに記載してあった。

と、言うことは今のフィンレイは凄く怒っていると言うことだ。まさに烈火のごとき怒り。


何がフィンレイの逆鱗に触れてしまったのか私には考えがつかないけれど、これ以上機嫌を悪くしては行けないということだけは定かだ。

あまりにもマイナスイオンを発するフィンレイに時折忘れかけるが彼はその気になれば私達一家を皆殺しにできる人物なのだ。

フィンレイがそんな子だと疑っている訳ではないけれど不興は買わないに限る。


私は大人しく、なるべく当たり障りのないような答えを出した。


「へぇ、友人ですか。僕、知りませんでした」


ど、どうすればいいの……。

輝くような笑顔のフィンレイを目の前に冷や汗をダラダラと流す。

空気を読んだのかテッドはいつの間にかどこかに行ってしまっていた。

空気が読めるのはいい事だけれど、今は行かないで!1人にしないで欲しかった!

降り続ける雨なんて気にしている場合じゃない。


折角ここまで仲良くなれたのに、フィンレイと仲を拗らせるなんて死んでも嫌だった。

これまでの努力が水の泡になるなんて想像したくもない。


「あ、あの、フィンレイ。私、何か貴方の気に触る事をし、してしまいましたか?したならその……謝りますので……」


しどろもどろになりながらも必死に伝える私をフィンレイは一瞥して。


「なんで敬語なんですか?アンジェ姉様が僕に敬語を使う必要なんてないです」


私の伝えた言葉ではなく口調が気になったようでそこに触れてきた。


「い、いや。故意はないのよ。何となく……というか」

「そうですか?僕にはアンジェ姉様が怯えているように見えました」


そ、そういう訳じゃないのよ!

私は、フィンレイに怯えてなんかなくて……!

そう弁明しようとした台詞は喉につっかえて出てこない。


「……アンジェ姉様。僕が怖いですか?」


違うと言いたい。否定したい。

けど、私は自分で思っていたよりもフィンレイの豹変が怖かったみたいで上手く否定出来なかった。

沈黙は肯定、とみなしたのかフィンレイは「そうですよね」と自嘲気味に言った。


「僕も戸惑っているんです。こんなの初めてだから。自分でも分かりません。なんでこんなに苛立つのか。でも嫌なんです……アンジェ姉様が僕の知らない人と知らない所で仲良くしているというのが……!」


淡々とした口調は段々と感情が篭っていき、しまいには激情を露にした。


「アンジェ姉様っ!僕にもっと色々な事を教えて下さい。アンジェ姉様の事で、知らない事があるのは嫌です。嫌なんです……!」


大きく見開いた瞳が潤んでいく。

泣き出してしまいそう。

迷子になってしまった子供のように心細そうなフィンレイに、姉として手をかしたかった。


「私のことなら、なんでも教えるわ。だから泣かないで……」


いいかな?なんて躊躇しつつもフィンレイの頭に手を置きそっと撫でてみる。


「嫌じゃない?」

「嫌じゃありません。寧ろ、嬉しいです……」


その証拠にフィンレイはふわっと口元を綻ばせた。気持ちよさそうな様子に安心した。



*****



暫くそうしているとフィンレイも落ち着いたみたいで、恥ずかしそうに「迷惑かけて申し訳ありません」と謝ってきた。


きっとフィンレイは不安だったのだろう。

今まで1人だった彼には、姉や家族が必要で、フィンレイの知らない“ノア”という存在と仲良くする姉に、離れていってしまうのでは?と恐れたのだろう。


フィンレイは不安定だ。

人に心を開きかけ、家族やテッドという人物と交流を深めていく。

だけど彼は裏切りを知っている。

いつか私達が裏切るのではないか?と心のどこかで疑っているのではと私は考えた。


あるある。私も結構疑心暗鬼なとこあるもの。

無条件に人を信じる事ができる者を私は尊敬している。自分にはない物に惹かれるということだろう。


彼は文字通り私に、私たちに“依存している”

けれど多分それは一時のものだ。

まだこの屋敷の人々としか仲良くなっておらず狭い世界で育っている彼。

優しい友達を得て、信頼関係を築く事が出来たならばそんな依存心も無くなるだろう。


オマケに恋人でも出来ようものなら、その子に夢中になるに違いない。

フィンレイがヒロインと恋をするのか、はたまた別の子と恋をするのか私には予測不可能だけれど、どんな恋でも応援しようと思った。


屋敷に戻り、服を着替えて髪を乾かし暖かくなった私は、フィンレイの心を少しでも知れて良かったなぁと能天気に考えていた。


明日から、フィンレイに質問されるのだろうか?私も質問しちゃっていいかな?



後に私は、この時にフィンレイに告げた言葉を深く深く後悔するようになるのだけれど、その時はそんな事思いもしなかった。



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