第13話 〜依存心は加速する〜
これは所謂依存という物だろうか。
「アンジェ姉様、何処に行くんです?」
「いや、自室に戻るだけよ……?」
最近フィンレイが私とずっと一緒に居るようになっている。
庭師のテッドと3人の時も多いけれど、兎も角私の近くから離れないのだ。
ちょっと離れようとすると直ぐにどこに行くのか?と質問されて場所をいえば僕も行きますと返される。
これはあまり良くない傾向だ。
かと言って周りを寄せ付けない、周りを信じられない事の方がずっと良くないので前に戻って欲しいとは露ほども思わないけれど、良くない傾向だということに間違いはない。
「あの〜。フィンレイ?」
「なんですか?アンジェ姉様」
不思議そうな表情でこちらを見てくるフィンレイ。小首を傾げるその仕草があざと可愛い。
まぁ、我らが癒しのフィンレイが計算でそんな仕草をするとは到底思えないのだが。
「私達、兄弟だけど流石にここまでずーっと一緒に居るのは可笑しくないかしら?」
「いいえ、そんな事はありません。これが正常です。兄弟とはずっと一緒に居るものです。僕が憧れていた家族はそういうものなんです」
フィンレイは話を続ける。
「僕にとって姉とは傍にいて支えてくれるものなんです。アンジェ姉様は理想の姉です。僕があんな酷い態度取っても、庭に誘ってくれて、贈り物もくれて、毎日部屋に遊びに来てくれて、僕を褒めて下さいました」
うっとりと、頬を微かに染めて語るフィンレイはその年とは思えないほどの色気を纏っている。
それにしても、私って理想の姉になれていたのか……嬉しい。4か条の内の1つを達成出来たようだ。達成感が私を満たしてくれる。
「僕は、アンジェ姉様の理想の弟になれているでしょうか?僕に至らない点はありませんか?」
不安気に私の顔色を伺ってくるフィンレイに「貴方は私の自慢の弟よ」と返す。
私には特にこれといって理想の弟像がなかったため、理想の弟かどうかという問いには答えられない。
私にとってフィンレイはどんな性格でも可愛いのだ。推しというのもあるのだけど毎日毎日話して傍にいるうちに物凄い愛情が芽生えてきている。あ、勿論家族愛とか姉弟愛とかそういう方向のよ。前世含めて成人済みの私がまだ中学生ほどのフィンレイに恋とかショタコンすぎて引くわ。
「そうですか……良かったです」
フィンレイの瞳に安堵の色が宿る。
すっかり妄想に入り浸っていた私はフィンレイの声にハッとして現実世界に心を戻した。
「お嬢〜。フィンレイ様〜。楽しそうっすね」
興味津々、といった様子でテッドが近付いてくる。
テッドには砕けた話し方でいいよ、と伝えたら畏まった敬語ではなくこのように気軽な口調で話しかけてくれるようになったのだ。
他の使用人たちには恐れ多いと断られてしまう。テッドが庶民だったということも関係しているのだろう。
王族、貴族や騎士の家、魔術師の家出身の者達は上下関係をとても気にする。
それは当たり前の事なのだけれど、多少のカースト制のような物はあるがハッキリとした上下関係のなかった世界で過ごしてきた記憶を持つ私は戸惑ってしまう時がある。
フィンレイも元は孤児だったり奴隷だったりする為、自分が貴族として扱われるのには慣れてないらしい。
庶民は、普段から貴族等と関わる事が少なく庶民同士で身分差関係の無い暮らしをしている者が多い。庶民の中でも奴隷などの位になるとそうもいかないようだけれど。
テッドは奴隷ではなく庶民にしてはそこそこ良い暮らしが出来ている家の息子だったらしい。身分差とか上下関係なんて無関係だっただろうから、ここまで気軽に接してくれるのかもしれない。
とても有難い事ね。
「はい、アンジェ姉様と楽しく過ごしております」
「ええ、テッドお仕事は終わったの?終わったのなら一緒にお話しませんか?」
フィンレイはテッドといると自然体になれる。
ある意味私の前よりも肩の荷が降りているというかなんというか……。
う、羨ましいなんて思っていないわよ?
下手なツンデレをするのは辞めるとして、やはり私みたいな生粋の貴族とはいくら姉弟だとはいえ関わりにくいのだろうか?
それとも彼の言う“理想の家族”に関係しているのだろうか?
その内、フィンレイともっと仲良くなれたのならそこら辺も聞いていこうと思う。
「仕事、終わったのでご一緒させて貰いますね〜。あ、お嬢。この前お嬢が出掛けている時“アイツ”が来てましたよ」
……“アイツ”?
テッドのいう“アイツ”で当てはまるのはあの少年しかいない。
「もしかして、ノア?」
「おっ、あたりっスよ〜。ノア、お嬢がいないっていったら寂しがってたっス」
「そうなの?……ノアに会えるならお出かけの時間ずらしたのになぁ……」
ノアは私の友人で、最近音沙汰がなかった人物の一人だ。
商売人である彼は、忙しさの波が激しい。
なんの商売をしているのか聞いたことはないけれど、暇な時と忙しい時の差が激しいとは知っていた。
知っていても、心配は心配だからモヤモヤしていた。
基本心配性な性格だからか、些細なことで不安を抱えてしまう。
豆腐メンタル、いい加減直さないとなぁ……。
「お嬢、ノア好きっスね。それ聞いたらアイツも喜びますよ〜」
からからと笑うテッドにそうかしら?と返す。
ノアは飄々としていて掴み所がない性格だから本当に私を友人と認めてくれているのか定かではない。商売人としてやり手らしいから、商売に利用できるかもしれないと踏んで私と友人ごっこをやっているだけの可能性も高いのだ。
「アイツ、お嬢大好きっスから絶対にそうっス!」
自信満々な顔で断言したテッドに私はまずは信じてみる、と心に決めた事を思い出す。
……きっと、彼は私を、友人だと認めてくれているわ。
「……そうね。ノアは私のこと好きよね」
ふふっと悪戯っぽく笑って冗談めかした言い方をするとテッドは大きく頷く。
和気あいあいとした、談笑。なんて、素晴らしいのだろう。晴れ晴れとした気持ちで空を見るとさっきまで青空が広がっていたというのに、今では厚い雲がそれを覆ってしまっていた。
テッドも「もうすぐ雨が降り出しそうっスね〜。お嬢、フィンレイ様、中に入りましょう」と私達に呼びかけた。
もっと庭にいたかったのだけれど残念、と屋敷に入ろうと立ち上がる私。
だけど、フィンレイは微動だにせず。
俯いたまま、ボソボソと独り言を言っている。
その異様とも言える様子に戸惑い、私はフィンレイの名を呼ぼうとしたが……。
「姉様、アンジェ姉様。教えて下さい」
それより先にフィンレイが口を開いた。
それは、フィンレイの物とは到底思えない位低くて冷たい声だった。
お待ちかねの(?)ヤンデレ要素です。
お読み頂きありがとうございました。
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7/28
言い回しを少し変えました。殆ど変わっていないので読み直しをする必要はないです。