第12話 〜そして、彼は私に笑い…〜
「フィンレイ?何か言ったかしら」
フィンレイって偶に声が小さくなるのよね。
何回か聞き直したことがある。
もしかして独り言だから尋ねる必要ないとかそういう感じなのかな。
「……っい、いえ……なに、も」
尋ねると返ってくる答えは毎回、「いいえ何でもありません」というような内容。
やっぱり私が聞く必要は無い独り言だったのかもしれない。
そういう時ってあるよね。私も妄想が口から無意識に零れる時があるから分かるわ。独り言連発しちゃったりするもの。
「そう。それなら良いのだけれど……」
「……あの!」
ここでその話は終わりになる筈だった。
けれど、言い終わる直前でフィンレイが何やら決心したように顔を上げる。
視線が混じり合う。ルビーの瞳が何時になくキラキラと光っていた。
それは、本当の宝石のようで。
「僕も……アンジェリカ姉様が……その……っ
────好きです……!」
人生の一大決心をするかのように思い詰めた表情になったりかと思えば覚悟を決めた!というような表情になったりとフィンレイらしくない。表情をコロコロと変えており。
口篭り、大変言い出しずらそう。
でも、こういう時は絶対に伝えたい事があると思うから、私は何時までも待っている事にする。
とうとう最終決心がついたのか、フィンレイは私にとんでもなく嬉しい一言を放った。
「……え、え?えええっ!?」
嘘かと思った。
冗談かと思った。
フィンレイは冗談を言うようなタイプじゃないけど。
それらが違うのならば。
もしかして幻聴?なんて自分の耳を疑ってみたりこれ事態が夢なのではないかと頬を抓ったりしたけど普通に痛い。
「フィ、フィンレイ……失礼だけど貴方変な物でも口に……」
「してませんっ!」
間髪入れずに否定してきたフィンレイ。
ま、まぁ、そうよね。うちの料理人たちがそんな変なものを作る訳ないし、うちにおかしな物はないのだから。
と、言うことはコレは……。
「ほんとに?私のこと、好きって言ってくれるの?」
自分で言葉にしてみて信じられなくなる。
頑なだったフィンレイの心に何かが響いたの?
今までしてきた事が実ったの?
そうだと……とても嬉しいけど。
「は、はい。本当です」
視線を逸らすものの、頷いてくれる。
あ、やば。
嬉しくて泣けそうだわ。
こんな所で泣いてられないと溢れ出しそうになる涙を気合で抑え、フィンレイをそっと抱き締める。
後に振り返った時に、ちょっとこの時気が動転していたんだなぁ、あれはなかったなぁと黒歴史になるだけれどそんな事今の私は知った事じゃない。
「……ちょ、ね、姉様!?アンジェリカ姉様!?」
驚いたようなフィンレイの声が耳に届く。
こんなに感情を露にしたフィンレイが初めてて幸せだ。
ゲームの中のフィンレイの寂しげな表情と。
死ぬ直前に見た、涙と。
そんな物が脳内を過ぎって、心に形容しがたい気持ちが生まれる。
推しとか、弟とかそういうの以前に。
私は、フィンレイを大事にしようと誓った。
*****
あの日から、私達の関係は、フィンレイは変わった。
勿論良い方に、だ。
感情を露にするようになったし、偶にだけど微笑みを浮かべる。
庭師のテッドと凄く仲が良いみたいで私よりもよく一緒にいる。……お姉ちゃんちょっと寂しいよ?
それに、お母様、お父様たちとも和やかに談笑しているのをよく見掛けるようになった。
お母様はとても喜んでいて、フィンレイの為にお菓子を作ったりして焦がし料理人に苦笑いされている。お父様も分かりにくいけど喜んでいる。今度家族全員でお出掛けをしようと予定を立ててくれた位だ。
何もかも順風満帆!と声を大にして言いたいところだけど、そうでも無かった。
フィンレイが楽しそうで何よりなんだけど、私は今ちっとも楽しい日々を送れていないのだ。
まずは、アリシア達とあれからお話をして和解した……と表面上なってはいるのだけど何となくギクシャクした感じが残っている。
アリシアは私がフィンレイやテッドとの話、お父様たちとのお出掛けの話をしても硬い表情で頷くだけ。ヴェルノに至ってはお仕事が忙しいと喋る機会がそもそも0に等しい。
本当に何故彼等との仲に亀裂が走ったのか分からない。お茶会以来だからお茶会が原因だと分かっているけど……。
理由を尋ねても「怒ってなどいません」「お嬢様の気分を害されたのでしたら申し訳ございません」と前の頑ななフィンレイのように他人行儀。いやそれ以上かもしれない。
唯一無二の親友の(だと私が勝手に思っている)アリシアとお兄さんみたいな存在の(これまた私が勝手に思っている)ヴェルノを二人同時に失うのは辛すぎる。どうにかフィンレイに癒してもらいやっていってる状態だ。精神ダメージが激しい。
それだけでも辛いというのに、婚約者問題迄蔓延っている。来週には顔合わせが決まってしまった。辛すぎる。
それらに加えもうひとつ。ずっと仲良くしていた人達が最近音沙汰無くなっているのだ。
アリシアやヴェルノに続く精神的ダメージをもたらしてきた。
「あ!お嬢、お嬢も見に来ます?」
「アンジェ姉様、テッドさん凄いんですよ」
庭師のテッドがひょいひょいと手招きをしてくる。
テッドは気兼ねなく私とも接してくれる男友達みたいな人だ。
センスも良いし、魔法の才能もあるし、オマケに顔もイケメン。最高物件といっても過言ではない。庶民の出だからそれを厭うものはダメだろうけど。
隣では、フィンレイが控えめにテッドに習ってか手招きをしている。
端的にいって萌え。
「うん!今行くわ!」
一家の癒し要因である2人を見ると心が穏やかになる。
心労が激しい今日この頃。
そんな癒しは何よりも有難くて大切だと心から感じております。
これで始まりの章は終わりとなります。
とはいえ、まだ物語は始まったばかり。
矛盾点や誤字、文法の間違い等など至らない点が多く読み難いと思われますが最後までお付き合い頂けたら感激至極に存じます。
次の章は アンジェリカ以外の転生者とアリシアやヴェルノ等の事を掘り下げていくつもりです。
私の拙い文章を読んでくださっている方々、ここまで本当にありがとうございました!